231話 改めて思う歴史改変 壮絶! キラキラネーム編
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よろしくお願いします!!
【御礼】
『母が目覚めたら「あんたそんな事になってたの!?」って言わせてやるからな!』
ついにその言葉を直接言える機会は無く、母は亡くなりました。
小説も漫画も途中までしか読んでおらず、無念であります。
しかし漫画原稿は印刷して棺に押し込み、皆さんのXでの応援コメントなどは同じく印刷して棺に納め一緒に天に昇ってもらいました。
あの世で読んでくれるでしょう!
ただ、松岡家一族には母より高齢者がまだ数人いる上にショックも大きく、言霊を語る小説で不謹慎ですが葬式連発もあり得ます。
引き続き応援よろしくお願いします。
【近江国/今龍城 斎藤家】
於勝丸(織田信正)に奇妙丸(織田信忠)の木刀稽古が中断した。
疲れ果てたのだ。
疲れ果てて膝を突く程に帰蝶の足を滅多打ちにしてなお、帰蝶は眠ってしまった。
「……。あれ、もう終わった?」
心地よかった衝撃とリズムが止んで、帰蝶が目を覚ました。
「『もう終わった?』じゃないわ! 疲れ果てておるわ! どんだけ頑丈な足をしとるんじゃ!?」
2人は汗だくだ。
子供とは言え、全力で振り下ろした結果、帰蝶を眠りに誘った。
衝撃の光景過ぎて信長も驚くしかない。
「いやいや!? 仮に今、殿が木刀を振り下ろしたら、脛が折れますよ!? それ位鈍らになっているんです! 自分でやろうにも、ちょっと下腹部が痛みますし、休養と訓練の一石二鳥ですよ!」
「ッ!? あ、あの猛撃を受けておいて鈍らだと!? 於勝丸! 奇妙丸! ちょっとワシの脛にもそれぞれ一発ずつ打って見せよ! ……一発だけだぞ!?」
さっき自分で打ってみてある程度痛みは予測がつく。
(脛は痛みの予測がつく。多分、メチャクチャ痛いだろうが予測できるなら我慢できる! そして腿に至っては筋肉が豊富だ。脛ほどではないだろう)
「さぁ! やれッ!!」
ふらふらと立ち上がった於勝丸と奇妙丸が、疲れ切った体で、一番楽に動く無駄の無い一撃をそれぞれ打ち込んだ。
「あっ」
帰蝶が『その振りはマズイ!』と思った時には遅かった。
パアンッ! バキィッ!
「ッ!?」
予想を軽く上回る強烈な一撃だった。
信長は歯を食いしばって声こそ出さなかったが、爪を立てて頭を掴み、眼には涙が浮かべながら言った。
「精゛進゛せ゛よ゛」
顔中の血管を浮き上がらせ、全ての言葉に濁点をつけて信長は言った。
ゆっくり威厳を保ちつつ、若干足を引き摺りながら奥の間へ向かった。
ぱたん。
襖が閉じられて一呼吸。
「~~~~~!!」
その襖一枚隔てた部屋から呻き声と、ドタバタと何かが暴れている。
きっと猛獣が現れたのだろう。
懸命に何かと戦っているのだろう。
「は、母上……」
「きっと野生の動物が現れて殿と格闘しているのよ」
「そ、そうですか」
「そうなのよ」
雑すぎるが、信長への配慮であるのは言うまでも――いや、書かないと伝わりそうにないので明記しておく。
「それより今の一撃は合格よ。狙って出すのは難しいけど、感覚として覚えておきなさい。もし真剣だったら、殿の右足は3分割されていたでしょう」
子供に理解させるのは難しいが、体験させるのは簡単だ。
疲れて余計な動きが出来ない状態こそが理想の姿。
要するに脱力が完璧なら、攻撃は鋭さを増す。
「さっきの一撃だったら、私も目を覚ましたでしょうね。2人とも良い筋をしているわ。奇妙丸殿は元服しても殿の側近として控えているでしょうけど、於勝丸殿は私と一緒に前線に行きましょうか!」
「前線とは最前線ですか……?」
「もちろん! これを経験せずして実子でも織田家では出世できないわよ? 大丈夫。補佐は付けてあげるから」
今の現実世界では人道的にそぐわないと、少年兵は禁止となっている。
だが、実態としては少年兵が銃を持たされてゲリラ活動などに酷使されている。
では戦国時代なら?
そんな人道的考えはない。
実力があると認められたなら、どこでも配属されるし、戦果を挙げたら祝われる。
武家は武家で、大変な時代なのだ。
だからこそ、伝説も生まれるのだが。
良い悪いではなく、寿命が短い時代である。
現代なら子供の年齢でも人手不足で容赦が無いのだ。
そうして淘汰の末に最後の勝者が決まっていく時代なのだ。
だが、信長と帰蝶は期待も愛情も込めている。
ここが現代と戦国時代の違いだろうか。
どこの親も子には戦果を挙げて欲しいのだ。
と、ある程度時間が経った頃、信長が奥の襖から出てきた。
そうとう激しい戦いだったのだろう。
衣服が乱れに乱れている。
だが見たところ無傷だ。
右足を庇って歩いているのだけが目立ったダメージの様だ。
「斎藤殿。明智と竹中殿、仙石殿、他に三人衆を借りたい。比叡山と京の下見だ。朝倉殿や今川家にも書状をだす。武田も入れるか。あそこも戦で武功を立てるのが仕事だしな」
大暴れして痛……頭が整理されたのか、唐突なお願いが来た。
だが、帰蝶も当主として経験を積んだので意図を察した。
「下見……将来の戦場の様子を見てくるのですね? じゃあ上杉殿は?」
「あ奴は北陸一向一揆を睨んで貰わねばならぬからな」
「あぁ、確かに」
北陸一向一揆は本願寺や下間頼廉らの協力もあり、吉崎御坊を確保したが、斎藤帰蝶は本物の七里頼周に指を折られて敗れ、上杉軍側も小島貞興が辛うじて引き分けに持ち込んだ。(218話、 外伝63話参照)
その後の交渉で謙信は一向宗に猛毒を仕掛けたが、毒の効果はまだ出ていない。
いつ毒が発症するか分からない以上、動けないのだ。
「下見と言っても殆ど廃墟でしょうね? 延暦寺周辺しか見ていませんが」
「あぁ。元々廃墟に近かった都はもうほとんど灰燼に帰しただろうが、それだけに瓦礫や崩壊した建物も多い。間者からの情報もあるが、初めて見て面食らうよりは当人たちの目で見るのもよかろう。もちろんワシ含め織田家からも主要な人間は連れていく。もちろん斎藤殿はご安静に」
「ま、良いでしょう。決戦前日にでも京を駆け回って、地形や状況を頭に叩き込みますわ」
流石の帰蝶も、今の状態で馬に乗って移動は無理がある。
さっきの足を打たせるのも無茶が過ぎるが、とりあえず、信長は胸を撫でおろす。
「是非そうしてくれ……。それまでは、あの双子の世話……あッ! いかんいかん! 幼名を付けておらんかったな。まさかの双子だったからな。男は決めてある。『改変丸』じゃ」
「!!」
歴史改変の末に生まれた子供だから『改変丸』。
あまりにあんまりな安直ネーミングだが、これが信長の普通だ。
ただし、信長的にはまだ常識的で『奇妙丸』『茶筅丸』『人』よりは配慮ある名前であるとすら言える。
「じょ、女子は私に名付けさせてください!?」
流石の帰蝶も、これには参った。
前世の病床の折にも、生まれた子供の名前を聞いては、具合を悪化させてたのを思い出した。
「? そうだな。親で当主なのだ。当然の権利よな。よかろう」
信長は素直に譲った。
帰蝶は胸を撫でおろす。
(改変丸……! た、確かに我々にとっては意味ある名前かもしれないけど、これは……これは酷い! かといって名付けた事のない私に適切な名前が付けられるのかしら!?)
正直なところ、帰蝶も『普通じゃ面白くない』と思っている。
流石は信長の正妻といったところか。
ただ『改変丸』は思うところがある。
(む、難しい! 名づけ! なんて難しいの!?)
別に難しくないし、何だっていいのだ。
日本の歴史上、女子の名前に正確な資料が殆ど無いので、この歴史では坂茜、瑞林葵、北条涼春などそれっぽい名前を付けているが、そう言う事ではなく、本来女子も本名は隠す。
男と一緒で名前は諱であり忌み名なのだ。
ただし男子の幼名は元服を機に正式な諱と仮名が与えられるが、女子は幼名がそのまま生涯の名となる場合が多い。
また、斎藤帰蝶が濃姫である様に、浅井茶々が淀殿である様に、仮名も適時付けられる。
しかも、場所が変われば仮名も変わる場合もある。
お陰で、女子の功績は歴史学者の悩みの種で『この仮名は誰の仮名?』問題が多発し、斎藤帰蝶などはその筆頭だ。
濃姫であったり安土殿であったりだが、この『安土殿』の人物が確定していないので、斎藤帰蝶は謎の人になっている。
また超メタいが、小説的にも女子まで名前ルールを厳格にしてしまうと、流石に本名不明が多すぎるし、意味不明になってしまうので、やむを得ず仮の本名を晒している。
ただ、帰蝶の悩みはそんなメタ的な事ではなく、信長に負けず劣らず、いや絶対負けずに可憐な名前を付けたいと思っている。
さすがに『改変丸』よりダサい名前は付けたくない。
それに『改変丸』は元服で変更可能だが、女子は元服がない。
女子は一生モノだが、本人が気に入らなければ、自由に変更すればいいとも思うが、できれば気に入ってもらいたい。
更にできれば『改変丸』も改変してやりたいと思っているぐらいだ。
(何!? 何をつければ意味があって可憐な名前になるの!? 『蝶』の字を授ければいいの!?)
《あの、別にどんな名前にしたって呪術的効果はありませんよ?》
見かねたファラージャが手助けする。
と言うより、宗教の呪縛から解き放たれた人間の考えではない、とファラージャは思っているが、帰蝶も別に呪術的にはどうでもいいが、夫信長が改変にちなんだ名を直球ど真ん中に投げ込んだので、負けられないのが本音だ。
《分かってるけど、意地ってモンがあるのよ! 他人に笑われたらどうするの!?》
キラキラネーム、しわしわネーム、DQNネームなど、普通と違う名前で苦労する子が一昔前は多かったが、今はそっち側の名前が増えて、普通が普通の時代ではなく、先生が読み方に苦労する話も聞く。
この手の名前は流行性なので、その内、太郎、一郎、花子、○○子などが流行になるかもしれないが、この先、100年は今の名前の傾向が続きそうな気がする。
実は筆者も名前では苦労した人生で(松岡良佑はペンネーム)、滅多に同じ名前の人に出会わないので、沢山聞いたわけではないが、同じ系統の名前の人に聞けば皆『普通の名前が良かった』と言う。
私も正直本名はトラウマだ。
正に忌み名だ。
タクヤ、アツヒロ、マサシ等、普通の名前が憎らしい程に羨ましい。
今、仮に筆者に子供が生まれた場合、正直どうしていいか困る程だ。
話が脱線したが、とにかく名付けは人生を左右する。
現代では呪術的要素はないが、あまりにあんまりな名前は簡単にイジメの対象になってしまう。
では戦国時代はどうか?
不吉な名前、という理由で改性したり、呪術回避の為に改名したり、主君に遠慮して名を自主的に変えた例はあるが、ヘンテコな名前で馬鹿にされた話は聞いた事がない。
だが奇妙丸、茶筅丸、人、ついでに改変丸が通用しているのは何故か?
全て信長の力だ。
彼らを嘲笑う事は信長を笑うに等しいのだ。
だから彼らは、多少の疑問を持ったとしても生きていける。
《あ、これ殿に聞かれてる?》
《いいえ。話がややっこしくなりそうなので、2人だけの通信です》
《そう、危なかったわ……。でも、どうしたらいい!?》
《ハァ……まぁこれは既に口が滑った言葉なので話しますが、バタフライエフェクトって言葉があるんですよ。意味は……異国の1匹の蝶の羽ばたきが別の異国で竜巻を引き起こすか? 要するに、些細な変化が全く別の場所で大変な事を起こす例えで、もっと具体的に言えば、信長さんと帰蝶姉さんが、今まで散々やって来た事を指す言葉です。ではバタフライとはなにか? ちなみにエフェクトは『効果』、バタフライは『蝶』です》
《えっ》
《そうです。帰蝶さんは既に名前に、歴史改編の意味を持つ言葉を持っているのです》
蝶にそんな意味はないが、1億年も経過すれば色んな言葉が何かの暗喩になっており『蝶』もその一つだ。
我々も帰蝶も『蝶』にそんな言葉の意味があるとは知らない。
バタフライエフェクトは口を滑らせた未来知識だが、ファラージャは1億年後の蝶の意味も口を滑らせてしまった上に、その事に気が付いてもいない。
「……花蝶にしようと思います」
「蝶の名を与えた訳か。良いんじゃないか?」
「拒否されるかと思いましたが……」
「綺麗な名前じゃ。生涯に渡って通用するじゃろう」
「……ッ!! あ、ありがとうございます。(元服制度がなかったら殿はどう名づけるのかしら……)
こうして双子の名前は決まった。
花蝶、帰蝶、胡蝶と揃ったからには、後はク蝶、ケ蝶か。
50音順は平安時代に成立したようなので、今後女が続いた場合、か行をコンプリートするかは不明である――




