230話 獅子は我が子を千尋の谷に落とす試練を与えた結果、やりすぎて絶滅してしまった
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よろしくお願いします!!
【お詫び】
母が短期間でクモ膜下出血を再発+感染症併発で意識不明の重体となり、打てる手もなく脳死に向かっているという事で「楽にさせてあげよう」と家族で決めました。
正確にはまだ死んでいませんが、もう死亡判定検査待ちです。
単行本1巻を10月18日に発売して19日間しか親孝行できませんでした。
無念です。
極めて精神不安定な時期に書きましたので、いつもに増して誤字脱字が多いかもしれません。
自分でも読み直しますが、お許しください。
また、『なろうチアーズプログラム』に参加してみました。
ページが特に変わった様子は見受けられませんが、不都合があれば廃止します。
【近江国/今龍城 斎藤家】
「設計図……これは……」
一方、信長も紙切れを見て考え事をしていた――が、すぐにもう一つの用件を思い出した。
「おっと、いかんいかん! 誰ぞ……っと違うな。斎藤殿、小姓に命じて小僧どもを呼ぶ様に願いたい」
つい織田家の当主として振舞おうとして、ここが斎藤家である事を思い出し、命令からお願いに言葉を変えた。
「じゃあ、権兵衛。例の2人を呼んできて頂戴」
「ハッ!」
仙石久秀が、キビキビと動き『小僧ども』を連れてきた。
「おつれしました。御二方もお入りください」
「あ、ありがとうございます」
「ぃます……」
連れてこられたのは於勝丸(織田信正)と、奇妙丸(織田信忠)だった。
どうしても慣れない雰囲気故におっかなびっくり、入室する。
健気にも於勝丸が奇妙丸の手を取り中央に連れていき挨拶をする。
「母う……父上に斎藤様、於勝丸に奇妙丸、参上いたしました」
彼らは信長と塙直子と生駒吉乃の子。
ただ、帰蝶も義母ではあるものの他の側室同様に実母の様に振舞ってきた。
ただ、信長と帰蝶が夫婦大名になってしまい、関係性がややっこしくなった。
大人でも信長の様にどうしても普段の癖が出てしまうのだ。
子供がそのルールを理解しようにも無理がある。
とりあえず、ルールに沿って於勝丸が気持ち悪そうにしゃべる。
違和感が凄すぎて言葉がたどたどしい。
「いいわよ母上で。元服前、と言うより、貴方たちは私の子供でもあるのだから。如何なる時でも母上でいいわ。元服後もね。呼称の使い分けなんて面倒でしょう?」
(確かに……ワシはなんと面倒な事を約束してしまったのか)
信長は大人として、大名として、武装勢力として、そこは徹底的に区別すべきと、ついうっかり癖が出てしまう事はあっても、基本的に己のルールに忠実だ。
だが、これが思った以上に面倒で仕方がない。
しかし今更撤回もできず、何かの理由で死んでTake4に行くなら、帰蝶の斎藤家家督継承の場からやり直そうかとも考えている程に面倒臭いと後悔している。(162-2話参照)
ついでに帰蝶も『もっと他のやり方があったかも?』と思っているのは内緒の話だ。
「ところで弟と妹には会ってきたわね?」
「は、はい!」
「そっくりな双子でした!」
生まれたばかりで、性別による肉体の変化も無い0歳児である。
そっくりで当たり前で、男女の区別も着物の上からでは見分けられないのも当たり前だ。
「フフフ。いずれは兄達として、あの子たちを導いてあげてね」
年の差は約10歳離れた兄弟だが、戦国時代では掃いて捨てる程に当たり前の年齢差だ。
親子の差ほどの兄弟だっている場合もあるのだから、約10歳など大した事ではない。
「それで、織田殿にお願いがあるのですが」
「何でしょう?」
2人とも夫婦ではない大名同士の会話に、むず痒く面倒臭い会話に苦慮しつつ話す。
「法度の追加をお願いしたいのです。『双子を理由に間引く、迫害する事を禁ずる』と」
「あっ!? 成程な! このワシともあろう者がこんな事に気が付かんかったとは!! そんなに多くは無いだろうが、無駄にしてしまった命も多かろうな……」
信長が苦い顔をする。
神仏から解放された己が、今の今まで、そんな事に気が付かなかった事を恥じたのだ。
「於勝丸殿に奇妙丸殿、私の子供たち、いわゆる双子だけど何か忌避感や気持ち悪さはある?」
「いえ? 特には……何か不都合が?」
「同じく。あ、気持ち悪かった方が良かったですか……?」
2人の子供は困惑しながら答えた。
何を試されているか分からず困惑するしかないが、正しい困惑だ。
「この件に関しては大人より子供の方が素直で正しい。余計な風習を知った大人が間違ってしまっておるな」
「爺も双子について話す事はあっても、特別何か言う事は無かったです。良くわかりませんが、今回の件に備えての事だったのでしょうか?」
於勝丸が不思議そうに尋ねた。
「ほう! そうかそうか! そうだったわ!」
父信秀以外で最初に『うつけ策』を話したのは平手政秀である。
その政秀が特に何も指示せず、自然と常識を破ったのは小さいながら大きな一歩、どころでは無い。
宗教が絶対の世界であれば風習も絶対の世界である。
それを指示される前に自分で破ったのだ。
とてつもなく大きく、偉大な一歩である。
「その通りじゃ。平手の爺はワシよりも先にワシの常識を破っておったか! 爺には頭が上がらんのう! 分かった。法度は即座に作り替えて布告する。斎藤家でも……もう動いてますな?」
於勝丸と奇妙丸は、大人による思想汚染に感染していなかった。
傅役の平手政秀は双子の悪習を知っているが、今後は不要な知識として教えていない。
きっと信長がそんな常識を破ると信じていたのだろう。
「えぇ。『文句があるなら私を倒してから言え』と申し付けています」
迷信を破壊する帰蝶が『変なルールで諫言を許可している』様にも解釈できる布告だ。
「……。ま、まぁ、斎藤家の方針に口出しはしない約束じゃから何も言わぬが……(言った方が良い気がする。後々絶対後悔する気がする! でも言えぬ!)」
信長は己の課した、制約の予想外の重さに迷ったが、何とかこらえた。
「双子の件はそれで良いとして……斎藤殿にお願いしたい。今日この2人を連れて来たのには理由があってな。来年この2人を元服させる」
「元服!? もうですか!? 来年ってこの子達はその時11歳と8歳ですよ!?」
11歳はありえても、8歳はいくら何でもと思う。
これが平和な世だと、甘ったれて成長し、成人式で暴れる大人になってしまう。
だが乱世の11歳なら、心や精神の発達も早いが、さすがに8歳は甘えたい年頃だ。
「問題ない。あの桶狭間でも今川氏真は12歳、松平元康に至っては7歳で元服じゃ」
信長は勘違いしているが、桶狭間の時の今川氏真と松平元康は元服はしても、今川義元本陣の更に後ろに配置されており、太原雪斎からも軍ではあるが戦力として計算しないと明言されての出陣だった。(49話参照)
さすがに、あの大一番で戦力として計算は雪斎といえどできなかった。
ちなみに帰蝶の奇襲で、氏真と元康が戦うハメになったのは余談である。(55話参照)
「確かに早すぎるのは認めるが、この一大決戦を経験させないのも勿体ない。流石に来年8歳の奇妙丸を前線には出せぬが、於勝丸の武芸は10歳にしては光るものがある。そう言う訳で、お主の産後からの再起と共に、こ奴らを使える様にしてくれ」
「私でいいんですか? 手加減しませんよ。いえ、年相応には対処しますが……」
「構わん。脱落したならそれまでじゃ」
「ッ!!」
父の厳しい言葉と、真剣な稽古(帰蝶にとっては遊び)で1本も取れなかった対手が、本気を出して稽古に臨むとして於勝丸と奇妙丸は青ざめる。
「もちろん、交代で直子や茜らも派遣させる。家臣や教育係の平手でもいいのだが、平手はもう歳じゃしな。かと言って他の武芸に優れた者も大名であったり、重要な役目がある。暇な奴は前田利益ぐらいしかおらん。後は指導は出来てもワシの子なので加減してしまったり、とかな。その点お主は厳しくいくし、子供相手なら産後の回復具合を確かめるに位で丁度よいかと思ってな」
要するに産後のリハビリついでの稽古だ。
この時代の医学で判明しているかはわからないが、女性は出産に際し骨盤が出産の為に変形し、出産後数か月かけて元に戻るが、そんな医療常識などない時代である。
産後に調子が崩れれば、そのまま死に至るか、どこか不都合が後遺症として残る。
前々世では吉乃を産後に死なせてしまった。
しかしこの歴史では、しっかり体力をつけさせつつ、産後の休息をたっぷり取らせる事で、運命を曲げ生き続けている。
眼前の帰蝶も、見る分には全然何とも無い様に見えるが、やはり出産のダメージは甚大だろう。
何せ『死ぬのは死ぬほど痛い』の次に痛かったのが『出産』なのだ。
つまり我々一般人が使う『死ぬほど痛い』と同じ(?)ダメージなのだ。
そして2回目の人生にして、初めて『出産』を経験したのだ。
目を斬られ、足を貫かれ、胸骨を折られても少なくとも安全になるまでは根性で戦えるが、やはり未知の経験を安易に考えてはいけないと信長も判断した。
「獅子は我が子を千尋の谷に落として絶滅したそうですね。構わないのであれば引き受けましょう」
「うむ。存分にやってくれ」
(え、兄上、獅子って絶滅したの? と言うよりそんな諺でしたっけ?)
(い、いや? 『落とす』までだった様な? 恐らく死ぬのを覚悟しろ、と言いたいのだろう……!)
獅子は我が子を千尋の谷に落とす試練を与えた結果、やりすぎて絶滅してしまった――
これはファラージャが間違って教えた、未来で意味が訳分からなくなった諺を、そのまま間違って流用した会話なのだが、子供たちは教えられた諺と違うとは言わず、とりあえず言いたい事を理解し覚悟を決めたので突っ込まれる事はなかった。(110話参照)
今回は神仏を破壊する悪鬼信長が、これまた同調し、女大名まで上り詰めた独眼姫帰蝶に預ける事になる。
「と言う分けじゃ。於勝丸に奇妙丸よ。来年まで生きていたら元服式及び出陣を命ずる。しっかり腕を磨け!」
「はッ!」
「わ、わかりました……ッ!!」
子供たちも、今までは優しい母帰蝶として接してくれていた。
しかし、訓練風景は『悪鬼羅刹とはこの事か!』と思わせる徹底ぶりと、自分の鍛錬にも容赦がない帰蝶。
これから、情け容赦ない帰蝶が自分達に眼光を向けるとなると、体の内側から震えがくる。
「ん? ウフフ。そう最初から緊張しなくてもいいわよ? それじゃあさっそく幾つか身体能力を確認しようかしら。2人とも足を肩幅に開いて真っすぐ立って。体の重みを両方の足に均等に乗るようにね」
帰蝶は再現できる限りの未来式超特訓を課そうとしていた。
別に未来知識といっても、異常だったのは不眠不休だったのと致命傷を含む怪我の即時全回復。
その他は地道な訓練だ。
怪我にさえ気を付ければ、この時代でも(無理すれば)出来ることばかりだ。
「織田殿、見てください。分かりますでしょう?」
「ほほう。成程な。これが例の特訓の一部か?」
「えぇ。まっすぐ立つ訓練。これが本当に難しいのですよ」
「え? まっすぐ立ってますが……」
「お、同じく」
於勝丸と奇妙丸が若干の抗議の意味を含めて『違う』と否定する。
「ふむ。自分では分からんと言う事か。これは厄介じゃのう。確かに難しそうじゃ。奇妙丸、こっちに来い。於勝丸を見てみよ」
「え、は、はい……? え?」
「傾いているのが分かるじゃろう?」
奇妙丸が於勝丸をマジマジとみる。
「え……と??? はい、い、いえ、真っすぐに見えますが……」
正直言って、於勝丸の立ち姿は直立不動にしか見えない。
さすが兄上、と思った程だ。
しかし、信長と帰蝶に言わせれば違うらしい。
「あ、裃姿じゃ中身まで見抜けないわね。いいわ。私と同じ拳法着を仕立ててあげましょう」
帰蝶の拳法着もゆったりしているが、着物や裃程ではない。
体の線は拳法着の方が確認しやすい。
(父上と母上は、裃の中まで見通せるのか!? 歴戦の猛者とは皆こうなのか!?)
奇妙丸はそう感じたが、間違ってはいない。
もちろん衣服が透けて見える訳では無いが、信長や帰蝶に限らず、長年の経験が衣服の有る無しに関わらず、相手の技量を見て感じ取ってしまうのだ。
今回で言えば、体の歪みが見て取れてしまうのだ。
「面白い。ワシもやってみよう」
信長も立ち上がり、足を肩幅に開く。
「むっ……。こうか……いや、こうだな?」
信長は限りなく力を抜き、重力に逆らって立つのは垂直方面だけに意識した。
「さすが織田殿! 惜しいです! しかし一回目でそこまで立てるとは!」
帰蝶が散々苦労して習得した立ち方を、信長は一発で合格ラインまで来ている。
「少し直しましょう」
帰蝶がゆっくり立ち上がり、ゆっくり歩み寄る。
今まで座っていたから分からなかったが、やはり出産のダメージは甚大の様だ。
「息を吐いて両肩を何回か上下に揺らしてください。腰はこの位置……コレです! 2人ともコレを見て覚えてね!」
「ッ!!」
於勝丸と奇妙丸が同時に驚いた。
裃の上からでも、信長の完璧な立ち姿が分かった。
信長が殺気をほんの僅か放射して、理解しやすくしているのもあるが、明らかに均整がとれているのが幼児、子供にも理解できる、完璧な立ち姿。
「じゃ、次は太刀筋を見ましょう。ついでに私も移動して、と」
「ついでに……? 何をする気じゃ?」
「織田殿も貴方達も縁側に来てください。権兵衛、2人に木刀を」
「はッ!」
「木刀で立ち会わせるのか!? それは……いや任せると言った手前否定はせんが……」
いくら何でも年の差3歳とは言え、10歳と7歳だ。
小学生なら4年生と1年生だ。
大人で3歳差など差は無いに等しいが、子供の3歳差は天地の差だ。
「2人は庭に出て、私は縁側で寝転んで……さぁ母の足を木刀で粉砕してみなさい?」
「えッ!?」
3人全員が驚いた。
「あっ、そうじゃったわ……」
信長だけが気が付いた。
素手で甲冑をブン殴る女である。
子供の木刀など屁でも無いのだろう――と言うより、太刀筋よりもこれは帰蝶のリハビリの要素が強い。
手足を叩いて鍛える。
それが日課なのに、出産でどうしても出来ない日があったので、鈍らになった手足を元に戻すのだ。
自分で叩いても良いが、どうせなら訓練だ。
「ち、父上……?」
「遠慮はいらん。斎藤殿が樹木を蹴ったり殴ったりしたのは見た事があろう?」
「た、確かに」
その後、2人は全力で帰蝶の足を木刀で斬りつけたが、帰蝶は、日差しに負けて寝てしまい、子供たちは息を切らして膝を突くのであった。
「……」
信長は落ちていた木刀を拾って、軽く脛を叩いた。
「痛い……」
信長も日課にコレを加えるのを決めるのであった――




