九話 カラミタ海軍
「おはよう、今日は早起きなんだね」
「あぁ、今日は出発だからな。SRの武装の確認もしないといけないからな」
防衛地域に出発する日となった。テラス・キマの規模はすでに最大規模とされており、オーガキングも数体が確認していた。
「死なないでよ、アウル」
「大丈夫だ。お前を残して死なない」
二人は抱擁を交わして、笑いあった。この世界に絶対はない、アウルの両親は冒険者ギルドでもトップクラスの実力であったがテラス・キマで命を失っていた。
「じゃあ、行ってくる。アマンダも落ち着いて避難しろよ」
「子供扱いしないでよ。貴方により三歳も年上なんだから」
アマンダは頬を膨らませて、アウルを赤い瞳で睨む。膨らんだ頬にキスをして、アウルは部屋を出て行った。
「アウルはもう。生きて帰ってきてね」
左薬指の指輪にキスをした。
「アルディート、欠員は?」
「問題ありません。全軍、輸送艦への乗船を開始しております」
今回はSR隊が三大隊で九百機と歩兵隊が三千人を動員しており、カラミタ領軍の最大戦力であった。
「ピグロ閣下も防衛地域に入った。我々も急がなければ」
「ですな」
伝令兵がこちらに走ってきた。陸軍の乗船が終わったことを知らせてくれた。
「アルディート、行こうか」
「はい、行きましょう。生きるために」
アウルが旗艦である戦艦ロゼに乗り込むとラッパの音と共に黒い梟が錨を掴んでいる旗が上がり、出航した。
「海は青いな。良い色だ」
「でしょう。旦那ももうちょっと海軍に予算を回してくださいな」
「オピス、ロゼ級戦艦四隻、ロウラ級巡洋艦八隻、クリーク級駆逐艦十六隻にどれだけの予算を投資をしたと思う? しかも、海兵隊の設立と対飛竜、対海竜用の艤装開発にも予算を使ってるぞ。どれだけ、祖母さんにどやされたと思う?」
「す、すみませんでした」
海軍の予算はアウルの肝いりで組んでいた。金額だけで言えば、一領地の年間予算に匹敵する。
銃の販売や農耕技術者の派遣などの収入が船やSRの開発、生産の費用に当てられていた。
「旦那には奴隷から救い出してくれた恩もあるし、部下も保護してくれた。旦那の為に危険な敵地に砲弾の雨を降らしてやろう。しかし、海軍や部下を蔑ろにするなら俺は旦那を討つ」
「オピス、俺はお前の部下を蔑ろする気はない。だが、俺が間違った道を歩み始めたら殺してでも止めてくれ」
艦橋に居た海兵はアウルとオピスの会話を聞いていたが穏やかな心境ではなかった。
上官は領主に殺害すると宣言し、対する領主も自分が道を外したら殺せという。兵達はとても気が休まる状況ではなかった。
その後、艦橋は重い沈黙が支配していたがアウルがオピスに話しかけた。
「そういえば、オピスは何時結婚するのか? 子供が生まれたんだろ?」
「ブブッ。何故、それを知っているんだ。旦那」
オピスは飲んでいたコーヒーを吹き出し、軍服を汚した。自分もあの時はこういう顔をしていたんだなと思う、アウルであった。
「モルトの報告が来たぞ。艦艇で結婚式をしてみたらいいのではという、提案の手紙と一緒にな」
「あの野郎、私生活まで見張るなよ。だがな、女が獣人なんだ。旦那は認めんだろ?」
「それがどうした? カラミタ領では全ての生きとし生ける者が法の前では平等であると俺は宣言している。だから、気にする必要はない」
亜人は普人種から差別を受ける。特に貴族は亜人を毛嫌いする風潮にあり、部下が亜人と結婚すると言うならば、辞めさせるか、闇に葬るだろう。これが貴族では当たり前のことであった。
「もし、俺がお前の結婚を反対などしたらアマンダから殺される」
「なんで、姐さんが出てくる?」
「他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねと言ってるんだ。だから、人種が違う程度でお前の結婚は邪魔せんわ」
海兵の何人かはガッツポーズをしていた。上官であるオピスが獣人と結婚したら確かに自分たちも結婚しやすいと考えているのだろう。
「だが、他の貴族から旦那が言われるぞ」
「その時は艦隊で砲撃して黙らせてやれ。許可はするぞ」
艦長がその貴族は大将の愛で木端微塵になるんですねと言うと冗談をいうとアウルが笑いだし、艦橋全体が笑い声に包まれた。
「話は戻るがお前の結婚式は派手にやるから」
「決定事項ですか?」
「当然だろ」
旦那は強引だとオピスが呟くとまた、海兵たちは笑いだした。
「お前ら全員、一か月便所掃除だ」
笑い声はすぐに聞こえなくなり、最初とは違う重い沈黙が艦橋は支配していた。だが、すぐに沈黙は破られた。
「十一時方向にワイバーンを確認! 数3、こちらに向かってきます!」
「そのまま輪形陣を維持! ISS起動! 国家識別が無ければ堕とせ!」
ワイバーンは商船や軍の輸送船は襲うことがあり、魔術師が居なければ、一方的に襲われるだけであった。
「ワイバーンの識別無し! こちらに向かって降下してきます!」
「撃ち方始め!」
三匹のワイバーンは輸送船を狙いをつけて降下するがISSの対空射撃により、撃墜された。
「恐ろしいな。ここまで正確な射撃をするとはな」
「今は対空射撃だけですが観測機なるものが出来たら主砲にも応用できるらしいです」
ISSはSRの制御用に開発されたが艦船の武装制御などにも利用されている。しかし、SRほどの運用データが無い為、補助的な役割となっていた。
「各艦、損害無し」
「了解。では、防衛戦域に急ぐぞ」
ワイバーンの襲撃もあったがアウル達はピグロが待つ、防衛戦域へと急ぐのであった。
亀更新ですがよろしくお願いします。
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