十二話 月と少女
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テラス・キマとの戦闘が始まって、五日が経っていた。もうすでに前線はアビム要塞まで下がっており、辺境軍も疲労は限界を迎えていた。
カラミタ領軍には戦死者が出ているが他の領軍に比べたら軽微であった。だが、SR隊や海軍、ブルーイン領軍の健闘により、魔物を半数まで減少していた。
「士気は高いですが疲労が限界にきており、負傷者が増えています。王都からの援軍はまだ、来ないのですか?」
「援軍については王都から連絡が来た」
部屋は王都からの使者が現れたことに希望がまだあるとざわついた。しかし、使者から伝えられた内容に全員が驚愕する。
「現在、王国騎士団総団長以下各団長、副団長は王族と共に雲隠れしている。今、王国騎士団は権限を持たない騎士や従者で運営されている。結論を言うと援軍を指揮する者が居ないため、どうすることも出来ないと使者から伝えられた」
「腰抜け共め!」
ブルーインが怒りのまま、机を殴ると粉々になった。アウルも王国騎士団の腐敗は耳に入っていたがまさか、王族までも民を置いて雲隠れするとは流石に考えていなかった。
「他の辺境伯達からはなんと?」
「西からは準備が出来き次第、先日の恩を返しに参りますと他は連絡すらない」
西辺境アビスポン伯はフムス防衛戦の敗北を自らの命で責任を取った。爵位は息子に継承されたが八歳と若く、実権は母親が握っていた。
アウルは被害が甚大だった西辺境貴族に薬や食料などの援助をしていた。西辺境の貴族や民にカラミタ領は恩人となっていた。
「王国の危機に知らん顔とは恐ろしいものだな」
「誰も火中の栗を拾うことはしないでしょう。西辺境が来てくれるだけ、ありがたいことです」
騎士団や王族のことは後回しにして、これからのことについて話始めた。
「周辺の村々は避難が完了しているため、焦土戦した方が時間が稼げると思いますが?」
「いや、数が違い過ぎる。テラス・キマの侵攻度が避難民に追いついてしまう」
アウルは考えていた。魔の森の魔物は他の魔物と比べて、人を見ると単騎でも襲ってくる。だが、アウルには異常までに反応していた。待ち伏せなどをしていてもアウルだけを的確に狙ってきた。
アウルが他人と違う点は本人が思いつく限りでは二つ。前世の記憶みたいのを見ていたこと。もう一つは家族しか知らないことである。
「魔物の到着時間は?」
「残り六時間だと思われます」
「どうした、カラミタ卿?」
「閣下、少し試してみたいことがあります」
アウルは己の仮説を証明する為にピグロに出撃許可を求めた。
「許可はするが使命を忘れないように」
「ありがとうございます。すぐに準備に取りかかります」
アウルは部屋を出て、オネストを呼び、要塞を飛び出した。残されたピグロ達もアウルの身を案じなから、話を煮詰めていった。
「アウル様、こんな時間の出撃は時間外手当が出るんでしょうね?」
「何を言ってる? 今、お前は俺の友人として、夜の散歩に付き合ってるだけだぞ」
「んな、馬鹿な」
オネストはテントで寝ていたがアウルに起こされて、SRで出撃していた。夜間哨戒や防衛は当番で決まっていた。
都合のいい時だけ、友人とか言うんだとオネストがほざいているがアウルは無視した。
「オネスト、月が綺麗だな」
「それって、古代文明の愛の諺だろ? 男の俺に言うなよ」
「それもそうだな」
この世界には約二十の古代語が発見されていた。解読された古代語もあるが未だ全容の解明には至っていなかった。
「お前に俺の秘密を教えよう。出てきてくれ、シオン」
「うーん、こんばんはかな? アウルとそのお友達君」
「だ、誰だ! いきなり出てきたぞ!?」
アウルのSRの肩に乗り、突然現れた少女。オネストはアウルから距離を取った。
「この少女が俺の秘密だ。太古の神の一柱パンドラの精霊シオンだ。名前は俺がつけた」
「待て、お前は契約者なのか?」
「そうだ、墓場まで持って行けよ」
契約者とは古代から歴史の波を変えてきた。時には魔王を倒し、またある時は圧政から民衆を解放していた。
だが、その過大な力を恐れた国が契約者を教国に送り込んでいた。噂では教国に送られた契約者は監禁され、人体実験などをされていると言われている。
「これは驚いた。勇者がこんなところに居たなんて」
「そんな、立派な奴ではないよ。俺は」
アウルは自虐ぎみに笑い、空を見上げ、月をみた。
「俺はカラミタ領とアマンダ達が守ればいいんだ」
「アウル、穢れたものが近づいているよ」
「始めようか、オネスト」
闇夜に浮かぶ月が見守りながらアウルとオネストの戦いが始まった。
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