第41話 満月&さくら村&合流
馬車
「……」
「……」
「」スヤスヤ
(ミーシャ寝てるし…)
無理もないか、ずっと馬車に揺られてるわけだし。今も日は完全に落ちてるし、明日動くことを考えれば早めに体力を温存するのも悪くない。
「…結局、襲撃もありませんね」
「そうだな、それに越したことはないが。何もないってのも不気味だ」
先回りまでされているはずなのに俺たちに何もアクションを起こしてこない。舐められているのか、それとも別の目的があるのか。なんにせよ襲撃がこないことを手放しで喜ぶことはできない。
「今日は私が起きているので、侑季君は寝てください」
「いや、俺も起きて」
「それでは意味がないでしょう。侑季君が魔法を唱えるよりも私の方が早く臨戦態勢に入れます」
「…そう言うなら」
といってもこんな状況で寝るって言うのもな。エリルを信用してないわけではないけど、中々寝れる気はしないな。
ミーシャは…まぁあれだけ魔法の練習をしてれば疲れるか。しかも視力強化なら特に目はかなり疲れてたはずだ。
俺もとりあえず、ゆっくりだけはさせてもらおうかな。
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(意外と寝るの早かったですね)
侑季が体を休めようとして横になってから数分後、すでに侑季は目を閉じて寝息を立てていた。
(そんなに油断しきった顔で…安心しすぎでしょう)
それだけ信用されてると言うことにしよう。エリルはそう考えることにした。
辺りは真っ暗で馬車の揺れる音と、時折聞こえる魔物の足音や唸り声。
(やはり、ギルドの手配した馬車というのは高性能ですね)
エリル達が乗っている馬車には、ギルドが魔物避けのための魔法を施している。そのおかげで、近くに魔物が通ったとしても襲われることなく無事に通り抜けることができる。
「んん…」
侑季が寝言なのかもわからないくらいに小さな声を上げる。
(こうしてみると…子供みたいですね)
エリルは寝ている侑季を見て頬を緩ませる、と同時に頬を緩ませた自分に違和感を覚える。
(今、私は侑季君を見て笑った…?)
思えばあの銀の槍での一件からエリルは侑季に対して随分と恥ずかしいことを言った。そう思っていたからあの記憶はエリルの中ではできる限りなかったことにしようとしていたのだが。
(やっぱり…侑季君には)
護衛をする側だったエリルが、誰かに守られたい。助けてもらいたいなどと考えたのは初めてだったかも知れない。少なくともエリルの記憶の中には存在しなかった。
(変わったのは弱くなったと言うことでしょうか?でもそれもまた…)
エリルは苦笑すると寝息を立てている侑季を見て、もう一度微笑んだ。
「んん、エリル〜」
「っ?」
突如ミーシャがはっきりと聞こえる声でエリルを呼びかける。エリルは少し驚いたがやがてそれが寝言だと分かるとため息をつく。
「全く…夢に私が出て来ましたか?」
そう小さい声でミーシャを起こさないようにつぶやくと、窓の外にふと目をやった。
(今日は…満月ですね)
辺りが暗い夜の中で輝く満月の光を受けて馬車はゆっくりと旅を続けていった。
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「うわぁぁぁ!すっごい!桜だー!」
ミーシャが目を輝かせて叫ぶ。
「これはすごいな」
さくら村には名前の通り大きな桜の木が村の中央に立っている。ロンダの町のような都会感はないが、村全体が活気に満ちている。
「さくら村、桜の美しさから雅の国に保護されているためとても平和な村と聞きましたが…いい村ですね」
「エリル、なんでそんなこと知ってるんだ?」
「オウカさんに聞きました。なんでもここの村長は雅の国の出身らしいので」
「へー、ってことは迅雷さんもじゃあ知ってるのかな」
「もちろん、さくら村言うたら知らん人間はいないで」
「へーそうなんですね…ん?」
なんか当たり前のように混ざってるけど…ちょっと待った。
「ども〜、無事につけたようで何よりや」
「い、いつからそこに!?」
「迅雷さんだ!お久しぶりです」
「危うく攻撃しそうになるのでやめてください」
「うんうん、三者三様の反応をどうもありがとうな」
全くいつからいたのかわからなかった…最近俺背後取られたり不意を突かれることばっかな気がして来たんだけど。
「まぁ色々話したいこともあるんや、ここに立っとんのもあれやろ」
「話したいこと?」
「…君たちのいう、エースに会った」
「「「!?」」」
俺たちのところに現れないと思ったら、こっちに現れてたのか!
「迅雷さんのことまで知っている…本当にあいつは一体」
「考えても仕方ありません。それで、何があったのですか?」
「立ち話もなんや、ついてきい」
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「とりあえずその辺にくつろぎ」
「あ、ありがとうございます」
「これ、畳っていうんだよね確か。雅の国独特の建築様式の」
「おーミーシャちゃんよく知っとるな」
純和風建築、と言うのがしっくりくるのかな?雅の国独特ってことはやっぱりこの世界にはあまりないものってことだよな。俺からするとこれが落ち着くと言うかデフォルトなんだけど。
「さて、僕がエースに会った時の話やけど…正直なところよーわからん」
「わからない?」
「せや、そもそも急に現れて急にいなくなって…なんやあれは」
それは俺たちもむしろ聞きたいくらいで…全く何者なのかすらわかってない。
「ああいうのはな、考えた方が逆に悪い方向に転がるもんや」
「つまり、エースに関してはほうっておくと?」
「そういうことや、今は無視して待ち伏せしとる二人に集中した方がええ」
迅雷さんのいうことも一理ある。下手にエースに気を取られすぎるのもよくない。あくまで目的は魔道具だ。
「迅雷さん。その待ち伏せしてる二人っていうのはどんな奴なんですか?」
「ん、せやな。名前はトレイ、ケイトって言っておった」
トランプの…3と4か。
「両方ともまだまだ子供や、ケイトって言ってた方は男で君たちとおんなじくらいやし。もう一人のトレイゆう女は見ただけでは子供にしか見えん。リリーと同じくらいや」
「そんな小さな子供が…」
「ミーシャちゃん、年齢だけで見とると痛い目見るで。だいたいここにいる侑季君なんか年齢詐欺もええとこや」
失礼な。年齢詐称ならモラグの方がよっぽどだろう。まぁ年齢で強さを判断しちゃいけないのはわかるけど。
「それと、これは入ってから考えればええ話なんやけど。この遺跡、中がどうなってるかは調べとらん」
「それは入ってないということですか?」
「せや、すでに待ち伏せされとったからな」
「それって、結構危ない…よね?」
「そうですね。中ではぐれないようにすることが重要です」
入るまでは待ち伏せ、入った後は未定か。随分と危ない綱渡り状態だな。
「とりあえず今は休んどき。今日の夜に奇襲をかける予定やから」
「ずっと馬車に揺られてましたし、まずは体を回復させましょう」
「そうするか、ミーシャも今は休めよ?」
「うん、さすがに魔法の練習はやめておく」
さて、色々疑問や不安も残るけど…少なくとも今は休んでおこう。




