第40話
「迅雷さん、それでどうしたんですか?」
『ああ、本題入ろか。遺跡に二人、待ち伏せされとる』
何かあるとは思ってたけど…待ち伏せされてるときたか。
「なるほど、侑季君。これはほぼ間違いなく」
『そや、ガルバドシアっちゅう連中の可能性が高い』
誰にも伝えてないはずの行く先に先回りされてる。こっちの行動は筒抜けか。
「私たちの動向が読まれていることは想定内です。二人で済んでいるのがむしろ幸いでしょう」
『その感覚が正解や。そんで、どういう戦い方をするか、や」
向こうは2人、こっちは4人。混戦になることも予測できるが…
「バラけるのだけは避けましょう」
「あぁ、それが一番の悩みだな」
向こうがどういう戦い方をしてくるか、ばらけた場合は誰がミーシャを守るか。
「私が遺跡に行かないっていう選択肢は?」
「ダメですね、一人でどこかにいるくらいなら私達といた方が安全です」
「相手に手の内がバレてる以上それが安全だろうなたしかに」
『まあ1と3に分かれることさえなければそれでええんやけど、もし2対2に分かれるとしたらどうなるのがええと思う?』
守りの観点からいえばエリルとミーシャは極力一緒にいた方がいい気がするけど、火力的な問題が出てくる可能性があるな。
「そうですね。…迅雷さんの力が私は分からないので、侑季君とミーシャを一緒にする方がいいかと」
『それはまた組んだことない編成やな』
「あくまで可能性の話です。最優先はミーシャですので侑季君に任せたいと思います」
俺に任せるのか。てっきりミーシャはエリルが守りたがると思ってたんだが。
「私もさすがにこの武器だと大勢いた場合の対処ができない恐れがありますので。月影に任せたいと思います」
『参謀の決定なら従うのが懸命やな。まぁ僕たちの方は大丈夫やと思うから、侑季君たちの方はしっかり頼むで』
「守られてばっかでごめんね?」
「気にすんなって、任せとけ」
あくまで仮定だ。実際の戦闘になったら臨機応変に対応することが求められる。
『それじゃまあ、君たちが来るまでこっちはもう少し探ってみるわ』
「無理はしないようにしてくださいよ」
『大丈夫や、そんな危ないことはせんつもりや。ほな』
あ、切れた。敵がいるのは想定内だったが、やっぱ先回りされてるっていうのは不気味だな。
「全員揃って無事にです。忘れてませんよね?」
「エリル…あぁ、大丈夫だよ」
相手がどれだけいたって関係ない。俺たちは全員無事に生き延びる。
____________________________
さっきの通話からずっとエリルはずっとレイピアの手入れをしている。ミーシャはさっきからずっとよくわからない動きをしている。
ていうかなにやってんのまじで。
「ミーシャ、一体何をしてるんだ?」
「んっとね、魔法の練習」
練習?
「こうやってね…[サイト]! ほら!これで私の目が強化されたんだ!」
「新しい魔法か、知らないうちに覚えてたんだな」
「うん、私だって少しづつ上達してるんだよー」
それにしても、新しい魔法が視力の強化か。俺と話した時のを考えてのことなんだろうな。
「…もうだめ、あぁ〜、あんまり長い間は持たないんだよねー」
「いや、出来ただけですごい進歩じゃないか」
「えへへ、ありがとね。私もこれで何か役立つことができたらいいな」
「…」
エリルは…すごい集中してるな。でも、気負ってる感じではないしこのままそっとしといてあげよう。
(俺も、何かできることがあるかな)
馬車の中だとやれることは限られてるけど、集中力を高めるくらいはできるかな?
ミーシャも自分の練習に戻ったし。
____________________
「旅は順調、この調子ならあの子達も予定通りつきそうね」
侑季たちが乗っている馬車から遠く離れたところ、エースは一人佇んで動向を見ていた。
「こっちはこれでオーケー。あとは、あっちかしらね」
エースは一瞬にして消え、どこかへ行った。
________________________
(さて、無理はせんように言われとったけど…)
「ねぇケイト、私たちはここで何をしているの?」
「…ここに来るはずの敵を倒すらしい」
「敵って?」
「それは僕たちが知る必要はないことだ」
「…ねえケイト」
何かを迷っているかのようにトレイは俯いている。それをみたケイトは諭すようにいう。
「トレイ…それ以上はいけない」
「ごめんケイト」
ケイトはただ淡々と仕事をこなす。それは私情を挟む余地などないからである。
彼が仕事をこなす理由はたった一つ、自分達が生きていくため。仕事の内容などは気にしたことはなかった。
(聞こえる限り、こいつらは組織の末端の線が高そうやな)
迅雷は息を潜めながら二人を観察している。聞こえる会話を拾ってる限りでは、有益な情報は得られなさそうと結論づけた。その場から立ち去り、さくら村へと帰っていく。
(あ〜、こんなんやったらジャックとか言う奴は倒すんやなくて捕らえとくべきやった)
迅雷は自分の過去のミスを思い出して頭を悩ませる。
(しかしまぁ、あの強さはそんな余裕なかったしなぁ)
「こんにちは、何かお困りかしら?♡」
「っ!誰や!?」
「はいはい、もう慣れっこだけど。手荒な真似は禁止」
迅雷が構えをとった瞬間、エースは喉に短剣を近づけて脅す。
「そのまま聞いてもらおうかしら。私はエース、ご存知の通りガルバドシアのメンバーよ。でも危害を加える気は無いことはわかってちょうだい」
迅雷はそこでハッとする。今自分が対峙しているのが侑季たちが言っていた人物であるからだ。
「…はっ、どこまで信用してええもんかな」
「あら、もっと仲良くしましょうよ。ジャックを倒した貴方の力は私にとっても必要なの」
依然として短剣は突き立てられたままで迅雷は動くことができない。今、魔法を使おうと口に出せば一瞬でバレて止められてしまう。
(残念ながら、僕はそれでも使えるんやけどな)
迅雷の持っている魔道具は魔法を口に出さなくても使えるようにできるもの。うまく隙を見て疾風を召喚しようとした…が。
「だから、まずはその魔道具でおかしな真似をしようとしてるのをやめてもらいたいわね」
「な!?」
(バレた!?一度も使ってへんのになんで!)
「そう、そのままじっとして…やっとこれで話せるわ」
迅雷は直感的に今は逆らわないほうがいいと判断した。言う通りにしなければ自分の命が危ないかもしれないと感じた。
「貴方のおかげで私にとって邪魔だったジャックが消えてくれたの。だからまずはお礼を言うわ」
「あんたは…一体何を言って」
「今はまだわからなくていいわ、それもいずれ分かること」
エースはようやく短剣を下ろす。迅雷の喉に冷や汗が一筋垂れる。
「お礼に、今は1つだけアドバイスしてあげる。あの二人、特に女の方には気をつけることね」
「あんたは一体」
「話はそれだけ、それじゃあね♡」
エースはそれだけ言うと一瞬にして迅雷の目の前から姿を消した。
「…消えた」
自身があっけなく手玉に取られたことへの不甲斐なさと、エースへの得体の知れない不気味さに呆然とするだけだった。




