第39話 見送り&見送られ&出発
エルトリア王国 隠れ家
「ねぇ見てケイト。ケイトに新しい武器を買って来たの」
「トレイ、どこから持って来たんだこれは?」
「んーっとね、そこの露店で売ってたの。なんでもなかなか出回らない一品なんだって」
「これはハルバードっていう武器でね。斧と槍の両方を合わせ持つ武器なんだ」
「へー、ねぇねぇ!それよりさ!ケイトはこれをもらえて嬉しい?」
「あぁ、もちろんさ。トレイがくれる物ならなんだって嬉しいよ」
「本当!嘘じゃないよね!?」
「僕がケイトに嘘なんてつくもんか」
「嬉しい!うふふ」
はしゃいでいる二人の子供の元に、コツコツと音が忍び寄る。
「っ!トレイ、こっちに来て」
「ケイト、どうしたの?」
「あら、そんなに身構えないでよ二人とも」
「あ、エースさんだ」
「…僕たちに何の用ですか?」
エースは二人の顔を順に見るとため息をついた。
「トレイ、そんなに構えられたらお姉さんびっくりしちゃうわよ?」
「…僕はいかれた人達とケイトを関わらせたくないだけです」
「あら、心外ね。お姉さんショック受けちゃうわ」
トレイという少年はエースに対して持ったハルバードを構えたまま威嚇をする。エースはそれも意に介さないように話を続ける。
「貴方達に仕事よ。場所はさくら村、詳しくは追って伝えるわ」
「…わかりました。用が済んだならすぐに出て行ってください」
「嫌われちゃってるわね。それじゃ、トレイもケイトもまた今度ね」
それだけいうとエースは後ろを向いて手を振りながら出て行った。
「ケイト、顔怖いよ?」
エースが去った後も険しい顔を続けるケイトにトレイが優しく声をかける。
「ごめんトレイ、また仕事だってさ」
「大丈夫よ、私ケイトがいるなら大丈夫」
「…そうだな。なんかあったら兄ちゃんが絶対守ってやるからな」
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宿屋 銀の槍
「もう居なくなっちまうのか、寂しいな」
「私たちはいつでも待ってるから、戻って来てね」
「早いお別れですが…泣きません!またごんどあ"いま"じょう"!!」
いや泣いちゃってるし…あー鼻水出てる出てる。
3人に見送られていよいよ俺たちはさくら町へと旅立つ日になった。3人に見送られて旅立とうとしたわけだったのだが。
「ほらほらリリーちゃん、泣かないの」
「うぅ、グスッ、泣いてませんよぉ」
「侑季君、出発しづらいです」
そんなボソッと言うな、俺も思ってるんだよ。あれだけ元気な子なのにこういうときはしおらしくなるんだもんなぁ。
…いや、俺は泣いてないからな。
「またいつか、きっと会えるから。だから今は笑って、ね?」
「…はい!笑って見送ります!」
「うん!私たちも笑って見送られるね」
「なにを言ってるんだか」
「あら、いいじゃないあなた。しばらく会えなくなるんだからこれくらいは」
ミーシャはこういうとき頼りになるっていうか…人と関わるのがすごく上手いんだよなやっぱり。
王女っぽい上品さとか、そういうのはあんまりない気がするけど。って余計かそれは。
「では、行きましょうか」
「うん!行こっか」
それじゃあ、名残惜しいけど。いろんなことがあったし、すごくお世話になった。またここに戻ってこれるように、元気で帰ってこないとな。
「それじゃあ」
「「「行ってきます!」」」
「「「行ってらっしゃい」」」
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暇だ。
馬車に揺られて旅を初めて2日目。そろそろ俺の暇つぶしリストも底を尽きてきた。
ちなみにこの馬車はギルドから手配されてた。間違いなくあの人は職権濫用だけどありがたいのでそこは黙っておく。
「侑季君、地図はありますか?」
「ん、ああここに」
「…ここからは特に危険な道はないようですね。気をつけるとしたら襲撃でしょうか?」
「そうだな、あまり気を張り詰めすぎるのもよくないが」
何事もなく進んで行ったとしておおよそ3日でつくと言っていたから、明日につくのかな?その間誰かからの襲撃もないとは限らない。
特に…エースが来るかも知れない。
ミーシャもエリルもそれはよく分かってると言った感じだ。と思っているとミーシャが突然とんでも無いことを言い出した。
「ねぇ侑季君、もしエースがもう一回来たら話すことって出来ないかな?」
「話す?」
話すって…あれと?
「うん。この前はほとんど何もわからずじまいで終わっちゃったからさ」
たしかに話して見たい気もするけど。でもそれは。
「危険すぎます。相手は味方か敵かもわからない相手です」
「俺もエリルに賛成かな。いくらなんでも危ないと思う」
エースの助言?でさくら村で何かが起こるだろうことは予測できている。
そう考えればエースは俺たちの手助けをしてくれたのかも知れないけど、やっぱり手放しで信用できる相手ではない。
「でもさ、もしエースが敵だったら私ってすでに死んでるんじゃないかな」
「それは…そうですが」
「それにさ、もしエースから情報を手に入れることができれば。もっと色んな核心に迫れると思うんだ」
こういう時のミーシャは強情っていうか、なかなか譲らないんだよな。
「…わかった」
「侑季君、さすがにそれは」
「ただし、俺たち3人…できれば迅雷さんも揃ってる時だけだ。それ以外の時はすぐに逃げる」
ミーシャの言ってることもエリルの心配も間違ってない。
たしかに情報はエースから引き出せたら強いし、だからといってそのために天秤にかけるのがミーシャの命では重すぎる。
仮にエースと対話をする可能性があるとしたら、俺たち全員が揃ってる時のみだ。
それでも危ないかもしれないけど、下手に一人の時に行動するよりは安全だろう。
「エリルもそれでいいか?」
「…不安は残りますが、それが妥協できる最低のラインです」
「ミーシャも、それでいいな?」
「うん、みんなが納得してくれるんなら私はそれでいいよ」
「よし、じゃあそれで…ん?」
俺のギルドカードが光ってる?
「紫色ってことは、迅雷さんからかな」
『侑季君、聞こえとるか?』
やっぱり、予想通りだ。
「迅雷さんですね、聞こえてますよ」
『そろそろ出発した頃かと思って連絡してみたんやけど』
「はい、今は馬車でそっちに向かってます」
『そか、それでな。そこに全員揃っとるか?』
「はい、全員います」
『いるみたいやな。よかったよかった』
わざわざ連絡を取りに来たってことは、なんかあったってことかな?