100話
黒い焔を巻きつけた魔焔剣とジルエルの十字剣がぶつかる。
剣が重い。
ギシッと体が軋むような音がした。
ふっと軽くなったと思ったら、切っ先が鋭くこちらめがけて飛んでくる。
首をかたむけ回避すると、踏み込むと同時に斬りあげた。
黒い焔が、白い光に受け止められる。
次の攻撃を――。おれが繰り出そうとすると、そこにはもう姿はなかった。
気配におれは前方へと転ぶ。
後ろからヒョン、と空気を切り裂く音がする。
あのままだったら首と胴が離れていただろう。
飛び道具も使わないし、『指差し』もしないあたり、やっぱりリーファに介入されるのが余程嫌らしい。
すぐ立ちあがり剣を構えると、また姿が消えていた。
後ろに気配がない。右、左と視線で確認していたときだ。
フッとおれの影に、違う影が重なった。
上か――!
ジルエルが降ってくる。上段に構えた剣を振りおろした。
「ハァアッ」
おれは十字剣を顔面すれすれで受け切った。
ギシシ、と骨の軋むような音が聞こえる。
薙ぎ払うと、ふわっと浮いて距離を取った。
「何を入れたのかは知らぬが、奇怪な剣だ。しかし、私の神剣と違い物理的な剣であることに違いはない――そろそろだろう」
何のことかさっぱりわからず、おれは考えるのをやめた。
言葉の意味に気を取られている場合じゃない。
迫ってきたジルエルの斬撃に応じる。
振りあげられた剣を受けると、ふっと体が浮いた。
防御用の【灰燼】を発動させ、おれの周囲を真っ黒な焔が包んだ。
ジルエルはすでに数歩飛び退っていた。
やっぱ、焔はダメージを食らうみたいだ。
スキルを解くと、おれは一直線に疾駆した。
そろそろMPがやばい――。
攻撃の瞬間、剣でガードする瞬間だけに【灰燼】を発動させ、応戦していく。
「しつこい――」
「あんたもな」
ジルエルが力任せに十字剣を振り下ろしてくる。
打ち負けまいとおれも全力で応じた。
バギン、と聞いたことのない音がする。
おれの眼前で、魔焔剣が折れた。
解けてしまったかのように、刀身は粉々に砕けていく。
今まで刀身を包んでいた真っ黒な焔がボテっと平原に落ち、何かの生き物のように燃えている。
バシュン、と黒い焔は明後日の方角へ飛んでいった。
「ッ」
おれの動揺を見抜いてか、ジルエルがさらに攻勢に出る。
鋭い突きを鼻先でかわし、横に振りはらわれた十字剣をしゃがんで回避。
それを読んでいた斬撃が降ってくる。
抜いた鞘で一撃目を堪える。けど衝撃を殺しきれず態勢を崩した。
ッ――、ちょっとマジでやばいかも――
冷や汗が背を伝う。
そのとき、ジルエルのように瞬間移動してきたリーファがおれの前に立ちジルエルに手をかざした。
「【神域】」
ジルエルの剣がリーファの神盾を叩く。
バリリッ、と衝撃が稲妻のようになって盾の上下左右に流れていった。
「ジンタ、大丈夫!?」
「おれは大丈夫だけど、魔焔剣が――」
魔神が宿った剣だから有効だったって話だ。
スキル自体は覚えているけど、他の剣でスキルを使ってジルエルに効くのか……?
―――――――――――
種族:人間
名前:風見仁太
Lv:101
HP:105000/120000
MP:100/40000
力 :6200
知力:4400
耐久:3000
素早さ:3400
運 :999999
スキル
黒焔 灰塵 真・恫喝 ホモキラー
勇者見習い ジャイアントキリング
運否天賦 ←NEW(各戦闘につき一度だけ、運の数値を任意のステータスに上乗せ出来る)
女神の寵愛 ←NEW(女神に愛されている)
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運否天賦か。ここぞという一撃にはおれの運数値が役立ちそうだ。おれ自身のスキルで、ようやくまともなやつを覚えた。
……あと、なんか、ちょっと照れるスキルを覚えてる……。
シリアスな場面なのに吹き出しそうになった。
そんなリーファは、おれに背をむけてジルエルの攻撃を防いでくれている。
「休暇が欲しいのなら届け出を提出するのが筋だろう」
「だからぁ! 別にサボりたくて下界にいるわけじゃないって、さっきから言ってるでしょ! もっともっと大切なものを見つけたの!」
「天界には天界のルールがあるのだぞ」
ルール……?
そういや、おれはどうなんだろう。
勝手にこの世界に無理やりきちまったけど。
天界から何かの操作をして強制的におれを連れ戻せるんなら、転移したときからそうしてるだろう。
その天界のルールってやつは、おれには適用されてないんじゃ……?
魔焔剣に魔神が宿っていたから攻撃が有効だった――それも理由のひとつなんだろう。
けど一番の理由は、使用者が神の定めたルールの外にいる人間――『おれ』だからじゃないのか?
「もぉー! ルール、ルールって! パワハラもモラハラも断固拒否よ!」
「フン、神の座にある者の言葉とは思えんな。口やかましく、自己中心的。……戻っても、神で居続けられないのだからもう構わんが」
「別に女神の地位とか、わたしキョーミないからっ! ご自由にどうぞっ」
呆れを通り越したジルエルが、沸々と怒りを湧きあがらせているのがわかる。
そっか……、とリーファが小さくつぶやいた。
「神だから連れ戻しに来てるのよね……ジルエル様は……。だったら――」
おれに横顔を見せる。
「さっき言ってくれたことってホント!? 『おれもリーファにいて欲しい』ってやつ。それは、わたしが女神サマだから?」
「んなわけねえだろ。リーファがリーファだからだ。女神だから一緒にいて欲しいってわけじゃない」
「よかった。……だったら、わたしが迷う理由はもうない――」
微笑したリーファが防御を解くと、反撃を警戒したジルエルが少し距離をとった。
リーファが両手を胸におく。
「何をする気だ、女神リーファ」
「ジンタ。文字通り、わたしが、あなたの剣となる――」
リーファの体が光りはじめる。ジルエルが焦るように言った。
「【創造力】を自らに使えば――もう元には戻れないのだぞ!」
「女神の地位なんてどうでもいい! わかったの。わたしは、この世界にいたいんじゃない。ジンタと一緒にいたいだけ――」
さらに光が強くなる。おれは眩しさに目を細めた。
「たった一人の人間のために神の地位を捨てるだと――バカがッ」
「バカじゃないと恋なんて出来ないわよ――ッ!」
一層激しくなった発光現象におれは目をつむった。
目の裏まで貫いた強い光がおさまり、目蓋を開ける。
そこには、何ら変わらないリーファがいた。
「リーファ、剣になるってさっき……」
「え? うそ? あ、あれ……そのまんま??」
ステータスをのぞいてみる。
――――――――――
【神剣リーファ】
元は女神。人の姿になることも出来る。
HP +100000
MP +100000
力 +10000
知力 +10000
スキル
【神域】1/10 消費MP500
物理、魔法、概念現象の一切を防ぐ世界最強のシールドスキル。
【神光】1/10 消費MP400
強力な聖攻撃魔法
――――――――――
アイテム用のステータスになっていて、レアリティはないけど、神剣って表示されている。
「あれ? お、おかしいわね……?」
きょろきょろと自分を見まわしたリーファが、「えいっ」と可愛らしく掛け声をかけると、ひーちゃんがそうなるように、また体が光った。
次の瞬間には、リーファは確かに剣になっていた。
光の粒子をまとう神々しくて美しい剣が、ふわふわと宙に浮いている。
柄を握ると声が聞こえた。
『ジンタ、わたしを使ってジルエル様を追い払って!』




