99話
ガチャ運シリーズ3巻目が6月15日発売予定です!
各書店や通販サイト等で予約受付中ですので、この機会にぜひどうぞ!
黒い炎を包まれた魔焔剣の構えを解いて、おれは息をつく。
レベルの上がる音がして、久しぶりに確認すると、大幅に能力が上昇していた。
クリスティ戦やジギー戦、さっきの一撃の経験値のおかげだろう。
―――――――――――
種族:人間
名前:風見仁太
Lv:81
HP:55000/55000
MP:900/26000
力 :4800
知力:3500
耐久:2000
素早さ:1200
運 :999999
スキル
黒焔 灰塵 真・恫喝 ホモキラー
勇者見習い ←NEW(戦闘時全ステータス上昇 戦意高揚)
ジャイアントキリング ←NEW(対象が自身より高レベルの場合、レベル差に比例して全ステータス上昇)
―――――――――――
勇者になるって言った後に神に一撃を与えたせいか、クリスティにあったスキルをおれも覚えていた。
ふと気づいた。
倒したのなら、何かしらの痕が残るのに、ジルエルのいた場所には何も残っていなかった。
「おかしな剣を持っているな、貴様」
後ろから聞こえた声に振り返る。
斬ったはずのジルエルがそこにはいた。
手応えは十分あったはず。
どうやら神様ってやつは、一筋縄じゃいかないらしい。
「いいだろ、この剣」
軽口を叩いて、剣を掲げて斬りかかる。
あっさりかわされるが、魔焔剣を横に薙いだ。
蜃気楼か何かのようにジルエルの姿がかすんで消える。
クソ、鬱陶しい……。
「どうした、一般人。こちらからもゆくぞ」
指を差された。
は? ゆくぞって……、何それ。
「消えろ」
「――ジンタ! 避けて!!」
リーファの金切り声におれは切羽詰まった何かを感じ、後ろに飛びのく。
次の瞬間、手品か何かのように、おれがさっきまでいた地面が消え去っていた。
ベコッ、と大きなクレーターが出来たようにくぼんでいる。
「……何だよ、それ――」
「気をつけて、ジンタ。わたしたち神族が持つ【創造力】のスキルよ」
リーファのスキル欄にあったあれか。
何にでも変えられるって能力。
……けど、自分の意思ひとつでスキルが発動するわけじゃないらしい。
対象を指差して、どうするのか発声する必要があるようだ。
それなら、そうさせないように戦うまでだ。
魔焔剣を横に構えジルエルへ突進する。
「フン、小賢しい」
ジルエルの背後には、十字架を模したいくつもの短剣が円になって浮いている。
おれが接近するや否や、切っ先がこちらへむき飛んできた。
ギン、と一本を叩き落とす。さらに、二本、三本と弾きながら前へと駆ける。
にっとジルエルの口が笑むのが見えた。
空気の裂ける音。
後ろからかすかに聞こえる。
予感と共に振りむきざまに剣を振った。
最接近した一本を砕き、他の三、四本を回避。
追跡機能がついていたらしい。
神のくせに姑息な手使ってきやがる。うるさいくらい頭の中ではレベルアップの音がする。
背をむけていたせいで、ソレに気づかなかった。
「死ね」
冷たい声に神を振り返れば指を差されていた。
ジギー戦で使った全方位の防御用【灰燼】で防げるのか――?
少なくともジルエルの『指差し』は物理現象の類じゃなかった。
まずい――。
一瞬、死を覚悟したとき、おれの目の前にリーファが割り込んだ。
「【神域】ッ!」
無色透明の何かを止めようと、両手をジルエルに突き出した。
凄まじい炸裂音と同時に大きな地震が起きる。
「大丈夫よ、ジンタ。【神域】は物理、魔法、概念現象のすべてを防ぐ世界最高の神盾だから」
少しだけ横顔をのぞかせて、いつものようにリーファは笑った。
「見てるだけなんて……嫌なの」
「いいのかよ?」
「神同士が下界で争えば、その世界に多大な影響が出るし、最悪滅ぶけど、それはむこうも知っている。人質とって、回りくどくわたしを従わせようとしたのはそういうことなの。滅ぶと、神サマも色々と困るのよ」
「じゃリーファは、ジルエルの抑止力になるってことか」
「そういうこと。けどこれは、ジャンケンでずっとグー同士を出し続けているようなものだから、勝つためにはパーが必要」
「パーつっても、魔焔剣の【灰燼】は効いてないみたいだし……」
「え? 効いてるわよ? HP、五分の一減ってるけど? あ。ジルエル様のステータスは見えないんだっけ」
早く言えよ、それ。
焦りまくった割にケロっとしてるから効果ないもんだと……。
本当に効果がないんなら、おれが接近しようが何しようが問題ないはずだ。
それをジルエルは嫌がった。
二回目の攻撃のときも、きちんと回避した。
リーファの話はマジらしい。
「魔焔剣は効果あるんだな!?」
「うん。わたしたちと出自の違う『神』が宿っているからだと思う!」
ジルエルを倒すことに、希望が見えてきた。
「防御と回復は任せて! 回復はともかく【神域】はわたしの近くじゃないと無理だからね?」
「リーファが戦闘ではじめて頼もしく感じる……」
「余計なひと言はいいからっ」
いつものノリでのやりとりに、おれがどこか懐かしさを感じていると、ジルエルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
「リーファ、貴様。この世界、滅んでもいいということだな?」
「そんなことさせない! わたしは、あくまでジンタを守るだけだから」
「この後、神でいられると思うなよ」
リーファはジルエルをまっすぐ見据えた。
「上等よっっ! あそこの事務仕事も結構限界だったしね! 有休もないし、女神同士なんかちょっとギスギスしてるし」
ほぼ愚痴じゃねえか。
おまえんとこの職場環境なんて知らねえよ。
「フン。だから戻りたくない、と」
「「いや、そこじゃない」」
おれとリーファは揃って手を振る。
「それだったら、わたし、ただ職場から逃げ出したダメな子みたいじゃない」
違うのか? と思ったけど口にはしなかった。
「……違うのか?」
聞いちゃったよ、上司が。
もしかすると、天界ではそういう認識だったのかもしれない。
仕事サボって下界で遊んでいて、交信に応じない駄女神。
客観的な情報を総合すると…………その通りだった。
「な。何よその目……何か誤解してない? ねえ? ねえってば。……違うからね?」
おれはジルエルに魔焔剣をむける。
「というわけだ。リーファはここにいたいし、おれもリーファにいて欲しい。大人しく帰ってくれないか?」
鼻で笑うと、ジルエルはこっちを睨んだ。
「女神が味方するとわかれば、ずいぶんと強気になるのだな」
「ここにいたいってリーファが言って、そうなるように協力してくれる。それだけで十分心強いんだ。女神の力は関係ない――」
言い終わる前におれは駆けだした。
ジルエルがまたおれを指差し「死ね」と命じた直後だった。
リーファがジルエルを指差す。
「キャンセル」
空気が張り詰め、少し息が苦しくなる。
おれ以外の生物もそうなのかもしれない。
神同士の力がぶつかれば、それだけこの世界に影響を及ぼすんだろう。
ジルエルの力を相殺してくれるんなら、おれは回避することも考えなくていい。
チ、とジルエルが舌打ちした。
「私が直に串刺しにしてやろう」
光が手元に収束すると、そこにはさっき現れた十字架を模した剣があった。
足下でヒョンと振り、こちらへむかってきた。
「人間風情がッ」
「なんか文句あんのかよ、神風情が――――ッ!」




