異性に生まれ変わりましてよ
お久しぶりです。
いやぁ、本当に遅くなってしまった。
今日からデータをとらせて欲しいって言われて、身長体重とか記入して、全身写真と顔写真を撮った後、さっそく実験台として機械を使ってみた。
だがしかしだ。
慣れない!!
機械を使った際のこの不快な音楽。
順に耳朶をを打って行く音は、確実なダメージを私に与えてくるのだ。
だめだ。
やっぱ、姫さんとは趣味が合わないみたい……。
おうふ、そろそろ苦しみで吐血しそうだぜ。
そう思ったのはどうやら私だけではないらしく。
「……はぁ……。姫、頼みますから、さっさとこの趣味のおかしい音楽を変えてください。頭が狂いそうですよあなたのせいで」
「むぅっ……!」
はっきりきっぱり、そしてばっさり。
王子さんは切り捨てた。
さすがだ、容赦が無い。全く無い!
素晴らしいほどに加減をしない。
大きな筒状の機械の中で、椅子に座りヘルメットを被りながら着実に変身を遂げつつ、ヘルメットに付属されているヘッドホンから聞こえる圧巻の口ぶりに感動さえした。
この広い広い敷地のラスボスは王子さんかもしれない。
そして趣味が悪いといえば、この建物。
様々なカルチャーが取り入れられていて、これまた理解に苦しんだ。
おそらくだが、この趣味の悪さは姫さんによるデザインじゃないかと。
よくもこの容赦のない王子さんを押さえ込んで、やりたい放題出来たもんだ。好き過ぎて許しちゃったのかもな、って思うと、ラスボスは姫さんの可能性が出てくる。
そこまで考えて、ようやっと大音量の不快極まりない音楽が終わった。
ということは。
終わった……か?
私は男性になれたのか?
夢と現実の境目にいるような気分の中で、終わりましたとヘッドホンから聞こえる王子さんの声と共に、筒状の機械が開けられ光が指す。
暗闇から急に明るくなったため若干の眩しさを感じつつ手をかざしながら、すぐ近くにいる彼にありがとうと声をかけた。
そして気付いた。
声まで男性の物に変わってる事に。
低すぎず、中性的だと捉える事が出来なくもない声だった。耳朶を打つそれはとても優雅で心地が良い。
何というか、つまり。
私好みの声だ!!
「いいえ。さぁ、こちらへ」
差し伸べられた手を取り椅子から立つ。
明るさに慣れ、視線を王子さんと合わせると驚いたように目を見開いた。
「っ……!!」
「うん?なんだよーそんな出目金みたいな顔しちゃって」
かなり失礼なことを平気で言う姫さんに、思わず苦笑してしまう。
出目金とは随分な例えだ。仮にもこんなに整った人に言う言葉ではないだろ。
まぁでも、逆に言えばこんな事を王子さんに言えるのは、姫さん位なものな気がする。
「あ、……だって彼女……いや、彼か。彼を見れば解ります」
さすが、元がいいだけある。
小さく口の中で呟き、あたしの事を優しくエスコートして自分の前に導いた。
「ほら、ね?とても綺麗で美しくて、惹き込まれる魅力があるでしょう?」
くすくすと、それはまるでイタズラが成功した子供のような笑み。
「っ、な、き……?ホントに那希なの?!」
「ん?あぁ、そうだぞ兄ちゃん」
なんて声出してんだよ我が兄貴は。
びっくりしすぎだろ。
「な、な、な、那希?!い、いけめんだなぁっ!!」
きらきら、きらきら。
本当に綺麗な目をしてる。この小さくて可愛い天使ちゃん。
「ぬふっ、羽恋ちゃんむぎゅー」
「あうあう……」
「おい那希」
「はい何でしょう」
「一発ヤらせろ」
「ぶっ……!!」
あまりにも直球な志摩先生の言い草に思わず吹き出す。
そしてその直後、遊乃先生が履いていたスリッパをすぱーんとぶん投げてきた。
「志摩、貴方昔から思ってたけど本物の馬鹿でしょ」
「いーってぇなぁ!なーんーだーよーその言い方。遊乃だって解んだろこんだけ整ってりゃ」
「んー、そうだね……。確かに一夜を共にしたら楽しいかもしれない」
「え、や、ちょっ……!遊乃先生っ」
「ふふ、冗談だよ」
この方が一番解らない。
どこまでが冗談でどこまでが本気か。それをなかなか読み取らせてくんねーんだよな。
「ふーん、なるほど。声質自体はそこまで変わってねーな。ちょっと低くなったか。……ふんふん。身長は……168から183になったか。でけえな」
ぶつぶつ呟きながら早速記録を取り始める姫さん。
「で、体重は52から72か。なるほどな。よし、今回分のデータは取れた。後は全身写真と顔写真を撮って終了だ。さんきゅな」
「いえいえ」
「んじゃあ昼メシでも食いに行くか。もう十四時手前だし混んじゃいねぇだろ」
「ん、そうだね。よければ二人も、どう?」
「いや、オレらはやんねぇーといけない事がまだあるからさ。いいや。行ってこいよ」
結局お昼ご飯は、姫さんと王子さん以外のメンバーで行く事になった。
ガールに戻んのは後でいいやって。
この時の私は呑気に構えてたわけだ。
……この後、どうなってしまうか、そんな事は露ほども知らずに。