第36話「包囲網」
紫炎の元を訪れるリューヤ。リューヤを見張っていた視線は、監視へと変わっていた。一部へのラストへと繋がる第36話
紫炎のいる館に近づくにつれて言いようの無い不安は消えていった。だが、それは安心感からではなかった。
G山で出会ったあの連中の気配が、この森を包んでいた。連中は間違いなくいる。しかし、リューヤがどう誘おうと動く気配は無い。まるで、狙いを付けた山猫が飛び掛る瞬間を待つように、気配はじっとりと静かに付き纏っていた。その緊張感が、中途半端な不安を打ち消し、リューヤの精神を引締めていた。
捕獲から監視に任務が移行したのだろうか?
リューヤが単独で行動しているにも係らず、彼らが動きを見せないのは奇妙だと言えた。あのG山での事が嘘のようである。
リューヤは絡みつくような視線を身に纏いながら、紫炎教団の本部の門の前に立った。
リューヤが呼び鈴を鳴らす前に、ドアは、ギィッという音を立てて開いた。
門が開くのを泰然と眺めたままのリューヤの視野に、二人の同じくらいの背格好をした少女が飛び込んで来た。紫炎の侍女の鈴と鋼である。
「ようこそ。」
「龍也様。」
「紫炎様が」
「お待ちです。」
鈴と鋼は代わる代わるにそう言った。
「俺が来る時間も分かってたって事か・・・・」
リューヤは半分不貞腐れ半分冷徹にそう言った。
「紫炎様は」
鈴が言い、鋼が続ける。
「多くを知るお方」
「不思議な事では」
「ありますまいに。」
リューヤは物静かな二人を見下ろしながら、少し目を細め、口を開いた。
「紫炎は気づいているのか?」
「ここは籠」
「そう伝えろと」
「おっしゃいました。」
鈴と鋼は再び交互に言った。
「ならいいさ、何か対策もあるんだろうさ。さあ、案内してくれ。」
鈴と鋼は振り返りリューヤを先導した。
どれ程の対策があるにしろ、これだけのプロに囲まれれば脱出も簡単ではあるまい。いや、これだけの人数がこの森に配備されているという事は、紫炎教の制圧までありうるだろう。
リューヤはその考えを胸に紫炎の元へと向かった。覚悟は決まっていたが蛇の生ごろしのような感覚がつきまとう。
どこの機関が動いてる?
西城やアレクシーナなら何か知っていたかも知れない。その事を聞くのを失念した事を、リューヤは酷く後悔した。
だが、最低でも西城からアレクシーナへ「どこかの機関が動いている」という事は伝わっているはずだ。それでなお、リューヤを単独任務につけたのだから、最悪の結果はないのだろう。
リューヤは半ばやけくそ気味になり、踏ん切りをつけた。
暫く歩いて、以前と同じ講堂の前に案内された。紫炎は人と遭う時はここと決めているのだろう。
「お入り下さい。」
「紫炎様が」
「お待ちです。」
鈴と鋼はそう言って道を開け、リューヤを進むように促した。




