第2話 腰痛。
(まったく、うちの息子たちはどいつもこいつも…女運が悪すぎるわ)
ユリアーネはお茶会に着ていったデイドレスを脱ぎながら、一度沈んでしまった気持ちをなんとか上げようと、夕食時にはオレンジのドレスを選んで着ることにした。
跡取り息子だった長男は、こともあろうか歌姫と恋に落ちた。
(まあ、一時の、若い頃の思い出のワンシーンよね)
なんて悠長に構えていたら、その女と駆け落ちしてしまった。
愛想のいい、人受けする息子だった。学院時代からモテていたから、気にもしなかったのに…。
(まさか、駆け落ちまでするとはね)
…どうせその女、うちの財産狙いに決まっている!と大反対したのは私だけど。
うちは伯爵位だが、領内に色水晶を産出する鉱山を持っていて、自慢じゃないが裕福だ。嫁などより取り見取りのはず。なのに。
「僕は爵位も財産もいらないよ」
長男はサラッとそんなことを言って、4年前に出て行ってしまった。今はフールにいるらしいと風の便りに聞いた。
次男坊は夫に似たのか寡黙で口数が少ない。
跡を取るべき爵位がないので、学院を出てからは領地の鉱山の管理者にした。真面目でこつこつと仕事をして、領地のお隣にある商業都市ハイモに宝石の裸石を売る店を作る予定で滞在中に、飲み屋の女に騙されたようだ。
「その人と…フローラと結婚の約束をしている」
と、爵位を継ぐことになっても見合い一つしない。私が見つけてきた侯爵家のお嬢さんとはお茶を飲んで終わってしまったし。
そのフローラという女は、うちの跡目相続のごたごた中に失踪したらしい。それであきらめるかと思って放っておいたら、いまだに探している。もう、4年になる。
はあ…。
領地にある鉱山用の事務所でばあやが、一度だけ訪ねてきたその女を見ている。
夜に突然訪ねてきた、厚化粧の、身なりの貧しいどう見ても平民の女だったらしい。
…ありえないでしょう?
…実は…まだ次男坊はその女と出逢ったハイモ市内を探しているが、そこにいないことを私は知っている。私だけが知っている。
一通だけ、しばらくしてから次男坊のランドルフあてに届いた手紙を持っているのは私だからだ。ばあやがうまいこと隠して私宛に送ってきてくれた。差出人はイニシャルしか書いていなかったが。
【王立病院で働くことになりました。F。】
見なかったことにしよう。知らなかったことにしよう。そう思って過ごしてきたのに……。今日うっかり聞いてしまった。別人だと思う。思うけど…気になるじゃないのよ!!!
「ああ!もう!」
思わず叫ぶと、侍女も食卓に座る夫も、びっくり眼で私を見た。
夕食時にテーブルに座るのは、夫と私だけ。
跡取りになったランドルフは領地から帰らない。何度か騙して呼び出して、お見合させようと画策したからかもしれない。あの子はもう…私や夫が倒れたと知らせを出してもきっと帰ってこないにちがいない。
今日お茶会をした皆さんのお宅では、嫁姑問題はあっても、食卓には息子と嫁と…孫がいるのだ。
「もう!あなた!もっと気にしてください!ランドルフはもう25歳になるんですよ?」
思わず立ち上がって、黙ってもぐもぐと晩御飯を食べている夫に八つ当たりをする。
「……」
「なんであなたはそうも、ランドルフにそっくりなんですか!」
銀色がかった綺麗な金髪は年相応に白くなった。紫色の瞳。私が舞踏会でひとめぼれしたときのままの体型。それに昔から口数が少ない。
「……ユリアーネ、座りなさい」
夫にそう言われて、私はぷんすか怒りながら勢いよく椅子に座ろうとして……ゴロンと転げ落ちて、腰をしたたか打った。メインダイニングの天井をじっくり見たのはいつぶりだろうか。
あきれ顔の夫に担がれて、一番近い客間に運ばれた。主治医が呼ばれて、とりあえず湿布をして様子を見ることになった。
腰が痛いので、大き目のクッションを抱きかかえるように丸まって横になる。猫にでもなった気分だ。でも…腰が痛い。
腰が痛い?
…あら。怪我したら入院できるのよね?




