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第2話:連行先は最凶の暗殺者城!?処刑人様から贈られる『最新鋭の拷問器具』

エドワード王子が星空の彼方へ消え去ってから、数日が経過していた。


現在、私――キャロル・ヴァン・アスタリアは、ガタゴトと揺れる馬車の中で、膝を抱えてガタガタと震えていた。

向かいの席には、漆黒の外套に身を包んだ『処刑人』ヴィルヘルム様が、無言で赤黒い巨大な剣を布で丁寧に磨いている。


(ど、どうしてこうなったの……っ!?)


理不尽な婚約破棄からの絶体絶命のピンチ……かと思いきや、まさかの処刑人様に直接お持ち帰りされてしまったのだ。


馬車を引いているのは、目が赤く爛々と輝く、どう見ても魔界から召喚したとしか思えない漆黒の悪夢馬ナイトメアホース

普通なら恐怖で一睡もできないところだが……不思議なことに、馬車の内装は王家専用のそれよりも遥かに豪華だった。

お尻に敷かれたクッションは雲のようにフカフカで、私が少しでも寒そうに身震いすると、すかさず最高級の毛皮のブランケットが無言でバサリと掛けられる。(※分厚すぎてちょっと息苦しいけれど)


「……キャロル」

「ひぃっ! は、はいぃっ!」


突然低い声で名を呼ばれ、私はビクッと肩を跳ねさせた。


「そう怯えるな。首を刎ねるのは、もう少し君の可愛い顔を堪能してからだ……いや、君の顔をずっと見ていたいから、首は胴体に繋げたままにしておこう」

「(それ、全然慰めになってませんからぁぁぁ!)」


『君を生かしておきたい』という熱烈なラブコールなのだろうが、処刑人の口から出ると「今はまだ殺さないでおいてやる」という死の宣告にしか聞こえない。


やがて馬車は、帝国国境沿いに位置するオブシディアン辺境伯領……その中心にある、巨大な黒曜石で造られた禍々しい城へと到着した。

天を突くような鋭い尖塔に、空を覆うどんよりとした暗雲。カァー、カァーと不吉な鳴き声を上げるカラスの群れ。

どこからどう見ても、ラスボスが住む魔王城である。


馬車から降りた私を出迎えたのは、両脇にズラリと並んだ使用人たちだった。

しかし、彼らの姿を見て私はさらに絶望を深めることになった。


「お帰りなさいませ、旦那様」


深々と頭を下げる初老の執事は、左目に眼帯をし、頬には巨大な刃物傷がある。燕尾服の下からは、隠しきれない異常な筋肉の隆起が見て取れた。

その後ろに控えるメイドたちも、一見すると清楚なメイド服を着ているが、エプロンのポケットからチラリと手裏剣や毒針らしきものが覗いている。


(暗殺者ギルドの総本部……!?)


私が青ざめていると、ヴィルヘルム様は私の肩をガシッと抱き寄せ、使用人たちに向かって宣言した。


「紹介しよう。今日から俺の妻となる、キャロルだ。彼女に指一本でも触れた者は、俺が直々に千切りにして豚の餌にする。……良いな?」

「「「ハッ! 我らが命に代えましても!!」」」


使用人たちの眼光が一斉に鋭くなり、凄まじい殺気が周囲を満たした。


(ひっ……! 完全に『ボスの女だから手を出したら殺す』っていう裏社会の掟じゃないですか!)


恐怖で腰が抜けそうになる私を、ヴィルヘルム様は「足元がおぼつかないようだな」と呟き、再び米俵のようにヒョイと担ぎ上げた。


「きゃっ!?」

「安心しろ。君の寝室は既に用意してある。長旅で疲れただろう、少し『悲鳴』を上げてもらうぞ」

「ひぇ……っ!?」


寝室で悲鳴!? それって、まさか……拷問!?

命の危機を感じながら、私は涙目で魔王城の奥深くへと連行されていった。



ガチャリ、と重厚な扉が開かれた先は、最上階にある広大な部屋だった。

天蓋付きのキングサイズベッドに、豪華な調度品。しかし、私の視線は部屋の中央に鎮座する『異様な物体』に釘付けになった。


それは、黒革で覆われた巨大な椅子だった。

背もたれや座面からは、金属製の怪しげなアームやローラー、手足を固定するためのベルトのようなものが多数伸びている。


「な、なんですか、これは……っ」


私がガタガタと震えながら指を差すと、ヴィルヘルム様はフッと満足げに口角を上げた。


「俺の専属の拷問官……いや、特級魔導具職人に特別に作らせた、最新鋭の器具だ。君のために用意した」

「わ、私のために……!?」

「ああ。これに身体を固定されれば最後。どんな頑強な者でも全身の骨を抜かれ、トロトロに溶けて甘い悲鳴を上げることになる。俺の手で直接やってやりたいところだが、俺は加減が苦手だからな。職人に最高のプログラムを組み込ませた」

「(完全に拷問器具の紹介だわ!!)」


全身の骨を抜かれてトロトロに溶ける!? 物理的にドロドロにされるということ!?

後退りしようとする私だが、ヴィルヘルム様の大きな手が私の肩をガッチリとホールドし、有無を言わさずその拷問椅子へと座らされた。


「ひっ、や、やめて……っ」


カシャン、カシャンと、手首や足首が拘束(※実は肌触りの良い極上のシルク素材)されていく。


「怖がることはない。すぐに慣れる。さあ、思う存分鳴いてくれ」


ヴィルヘルム様が椅子の横にある魔力結晶のスイッチを入れた瞬間。

ゴゴゴゴ……と、椅子全体が低い駆動音を立て始めた。


(ああ……お父様、お母様。短い人生でした……っ!)


私はギュッと目を閉じ、襲い来る激痛に備えて歯を食いしばった。


――ギュムッ。

背中から迫ってきた金属のアームが、私の肩甲骨の下あたりにピタリと密着した。


「……え?」


――ゴリゴリゴリ、グググゥゥッ。


「あ……っ、え? あ、あんっ……!」


痛くない。

痛くないどころか……。


(な、なにこれ……すっごく、気持ちいい……っ!?)


絶妙な力加減のローラーが、私のバキバキに凝り固まった肩や腰を、的確に揉みほぐしていく。温かい魔力の波動がじんわりと身体の芯まで浸透し、血流が一気に良くなっていくのが分かった。


実は私、愚鈍なエドワード王子の代わりに、王太子としての政務や領地の書類仕事を裏で全て丸投げされてこなしていたため、年頃の令嬢らしからぬ『万年肩こり&腰痛』に悩まされていたのだ。


「あぁっ……そこ、すごく……いいですっ……はぁんっ」

「なっ……!?」


私の口から、自分でも驚くような艶っぽい声が漏れる。

しかし、魔力駆動のアームは容赦なく、私の最も凝っているツボをギュンギュンと攻め立ててくる。


「ああっ、ダメ、そんなところ強くされたら……っ、ふにゃぁぁ……」


私は完全に抗うことをやめ、最新鋭の拷問器具……もとい、『魔力駆動式・全身マッサージチェア』の快感に身を委ね、だらしない悲鳴を上げ続けた。



「…………はぁ、はぁ」


数十分後。

マッサージの全行程が終了し、拘束が解かれた私は、全身の疲労が完全に抜け落ち、文字通り骨抜きになって椅子の上でぐったりととろけていた。

恐ろしいほど身体が軽い。王都での激務の疲れが、嘘のように消え去っている。


私が恍惚とした表情で天井を見つめていると、ヴィルヘルム様が恐る恐る覗き込んできた。

なぜか彼は、耳まで真っ赤に染めて、片手で口元を覆っている。


「ど、どうだった……? 苦痛マッサージは、気に入ってくれたか……?」


少し震える声で尋ねてくる彼の額には、なぜかびっしょりと汗が滲んでいた。


「……最高、です。私、こんなに身体が軽くなったのは初めてです。ヴィルヘルム様」


私がとろんとした目で微笑みかけると、ヴィルヘルム様は「ッッッ!!」と無言で天を仰ぎ、口元を押さえたままその場にしゃがみ込んでしまった。


「ヴィルヘルム様!? どうされたのですか!?」

「いや……なんでもない。俺の心臓が、少し暴走しているだけだ……(可愛すぎる。くそっ、俺も危うく理性を失うところだった)」


後半はモゴモゴと呟いていてよく聞こえなかったが、彼はすぐに立ち上がり、コホンと一つ咳払いをした。


「気に入ってくれたのなら何よりだ。俺の領地は治安が悪く、物騒な輩も多い。だが、君だけは俺が全霊を懸けて守り抜く。……明日からは、君にこの領地を案内しよう。俺のすべてを、君に知ってほしいからな」


不器用だが、真っ直ぐで力強い言葉。

言葉選びは致命的にサイコパスで、態度は不審者そのものだけれど。


(あれ……? もしかしてこの方、実はものすごく優しいのでは……?)


拷問器具だと思っていたものが、最高の癒やしアイテムだったように。

彼が毎月送ってきていた『斬首予告状』も、言葉通りの意味ではなく……本当に、不器用すぎるラブレターだったのかもしれない。


窓の外では嵐が吹き荒れ、城の廊下からは暗殺者たちの足音が聞こえる最凶の環境。

しかし、フカフカの天蓋付きベッドに運ばれ、優しく布団を掛けられた私は、数年ぶりに心からの安らぎを感じながら、深い眠りへと落ちていくのだった。


――ただし。

この翌日から、私がこの暗殺者だらけの最凶領地を、持ち前の『政務スキル』でゴリゴリに改革(ホワイト化)していくことになろうとは、この時の私はまだ知る由もなかったのである。

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