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第1話:婚約破棄と処刑宣告、そして天上から降臨する最強の男

「キャロル・ヴァン・アスタリア! 貴様のような悪逆非道な女は、僕の婚約者にふさわしくない! 今この場で婚約を破棄し、その首をはねてくれる!」


王立学園の卒業パーティーを祝う、きらびやかで華やかな大広間。

その中央で、第一王子エドワードの甲高い声が容赦なく響き渡った。


彼の腕には、悲劇のヒロインを気取った男爵令嬢がこれみよがしにしがみつき、勝ち誇った笑みを浮かべている。

周囲の貴族たちは関わり合いを恐れて一歩引き、冷ややかな視線でこちらを見つめていた。


名門公爵家の令嬢である私――キャロルは、身に覚えのない罪の数々を一方的に並べ立てられ、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

私が王子の浮気を諌め、国の財政を心配して苦言を呈してきたことすべてが、彼にとっては「婚約者への嫌がらせ」に変換されていたらしい。


「殿下、私はそのようなことは……」


「黙れ! 言い訳は見苦しいぞ! 貴様が裏で平民の生徒をいじめ、僕の愛する彼女を暗殺しようとした証拠はすべて挙がっている!」


もちろん、そんな証拠など存在するはずもない。

完全に、盲目になった王子とその取り巻きによるデッチ上げだった。

しかし、この国において第一王子の言葉は絶対に近い。


「近衛兵! この稀代の悪女を直ちに捕らえ、処刑台へ連行しろ! 栄えある王室を汚した罪、その首で購うがいい!」


エドワード王子の冷酷な号令とともに、ジャキィィン! と重々しい金属音が鳴り響く。

完全武装した近衛兵たちが、一斉に私を取り囲み、冷たい槍の穂先を容赦なく突きつけてきた。


(ああ……終わった。誰も私の言葉を信じてくれない。私の命は、ここで理不尽に終わるんだわ……)


私が絶望し、静かに涙をこぼして目を閉じた、その時だった。


――ズゴゴゴゴゴォォォォンッ!!!


鼓膜が破れんばかりの凄まじい衝撃音が響き、大広間の頑丈な石造りの天井が、一瞬にして消し飛んだ。


「な、なんだ!? 敵襲か!? 防衛魔術を起動しろ!」


大慌てで叫ぶ王子。広間にはもうもうと土煙が立ち込め、巨大な瓦礫が容赦なく床を砕いていく。

その破壊の嵐の中心に、ドスン、と重い地響きを立てて『一人の男』が降り立っていた。


身の丈を優に超える、禍々しい血濡れの大剣を片手に担いだ男。

漆黒の外套をなびかせ、前髪の隙間から覗く鋭い真紅の瞳が、冷徹に周囲を射抜く。


その圧倒的な威圧感だけで、近衛兵たちは武器を取り落とし、貴族たちは悲鳴すら忘れてその場にへたり込んだ。


帝国最強の武力にして、皇帝の懐刀。裏社会の絶対的支配者。

数々の異名を持ち、泣く子も黙る帝国最恐の存在――『処刑人』ヴィルヘルム・フォン・オブシディアン辺境伯。


それが、天上から降ってきた化け物の正体だった。


「しょ、処刑人……!? なぜ隣国の化け物がこんな場所に……っ。い、いや、ちょうどいい! その女は国家反逆の罪人だ! 貴様のその大剣で、今すぐここで処刑しろ!」


恐怖で完全にパニックになったエドワード王子が、裏返った情けない声で、格上の存在である彼に向かって命令を下す。


しかし、処刑人ヴィルヘルムは王子の言葉など一切耳に入っていないようだった。

ただ無表情に、しかし確定した死そのもののような冷たさで、ゆっくりと巨大な大剣を振り上げた。


そして、まるでハエでも払うかのような無造作な動作で――大剣の『腹(平)』の部分を、王子めがけてフルスイングした。


「へ?」


――ドゴォォォォォォォォンッ!!!


「ぎゃぶっ!?」という、カエルが潰れたような間抜けな悲鳴。

次の瞬間、エドワード王子は音速を超えて吹き飛び、大広間の頑丈な壁を三枚ほど粉砕しながら、夜空の彼方へと消えていった。


壁に開いた大穴の奥で、瓦礫に埋もれて白目を剥き、ピクピクと痙攣して沈黙する王子の姿。

それを見た男爵令嬢は一瞬で気絶し、大広間は水を打ったような完全な静寂に包まれた。


「殿下ァァァァッ!? 医官、医官を呼べぇぇ!」


近衛兵たちが大慌てで蜘蛛の子を散らすように駆け寄る中、ヴィルヘルムは私に向かって、一歩、また一歩と確実な足取りで歩み寄ってきた。

鎧が擦れ合う金属音が、まるで私の命のカウントダウンのように聞こえる。


(あ、ああ……やっぱり。王子ではなく、本物の処刑人様に直接首をはねられるんだわ……!)


私はガタガタと全身を震わせ、今度こそ覚悟を決めて、ぎゅっと目を閉じた。


しかし、いつまで経っても首に衝撃は来ない。

代わりに聞こえてきたのは、重装甲の膝が床に突く、カシャンという静かな音だった。


恐る恐る目を開けると、驚くべき光景が広がっていた。

帝国最恐の男が、私の前で恭しく片膝をつき、最高級の騎士の礼をとっていたのだ。


「……キャロル嬢。ずっと前から君を監視……いや、見守っていた。もう限界だ」


「え、えっ……?」


「これ以上、あのような薄汚い愚物に君を任せてはおけない。この俺の手で、君を一生守らせてほしい。――俺と結婚してくれ」


血濡れの大剣を床に置き、彼は真剣そのものの眼差しで、あまりにも予想外すぎる『求婚』の言葉を口にした。


私は混乱の極みに達し、思考が完全に停止した。

結婚? 私が? この、世界中で最も恐れられている処刑人様と……!?


「お、お言葉ですが処刑人様! なぜ私なのですか!? 貴方はこの一年間、私宛てに恐ろしい『斬首予告状』を毎月送ってきていたではありませんか!」


そう、私はこの一年間、生きた心地がしていなかった。

毎月決まった日に届く、真っ赤な封筒。

中を開ければ、『君の首を頂く』『絶対に逃がさない』『夜も眠れないほど君を考えている』といった、執拗で物騒な脅迫文が並んでいたのだ。


私の言葉を聞いたヴィルヘルムは、心底不思議そうな顔をして首を傾げた。


「斬首予告状? ああ、もしかして俺が毎月、魂を込めて認めていた『恋文ラブレター』のことか?」


「…………は、はい?」


「『君に首ったけだ』『君の心を絶対に逃がさない』という、俺の胸の奥から燃え上がるような熱い愛を綴ったのだが。……何か、間違って伝わっていただろうか?」


大真面目な顔で、彼はのたまう。

言葉選びのセンスが、あまりにも職業病(処刑人)に侵されすぎていた。


(全部……全部、不器用すぎるラブレターだったの――!?)


こうして、理不尽な婚約破棄から一転。

私は帝国最恐の処刑人様に、物理的に拉致されるような形で、彼の治める最凶の領地へと連れ去られることになってしまったのだった。

ご一読いただきありがとうございます!この度、連載版として二人のその後やお仕事(領地経営)での大暴れを描いていくことになりました!これから物語はさらに大きく、大陸規模へと展開していく予定ですので、楽しんでいただけましたらブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!

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