ルート4 転生先で、皇太子にファーストキス奪われた元親友が、俺で口直ししてきた。
(どこ行ったんや、あいつ。)
午後の授業が終わっても、タクミは姿を見せなかった。
「ちょっとサボってリアルBL探してくる」なんて言って講義室を出ていったのは覚えてる。けど、ここは王立学園。庭も廊下も裏道も無駄に広すぎる。
(まったく、どこで何やらかして──)
そう思いながら裏手の廊下を通って中庭へ向かった瞬間──それは起きた。
「レオン、君のその潤んだ瞳……僕のものにしたい。」
「ちょ、おまっ──って、やめ……っ!!」
タクミは両手首を掴まれて、キスされていた。
しかも相手は、攻略対象トップバッター・皇太子!
「……っ、は……?」
タクミ、呆然。脳内処理追いつかず、視界がぐにゃる。
「ウブで可愛いな。」
そう微笑む皇太子の横顔を、タクミは涙目で睨みつけた。
「……ボケナスぅぅぅぅぅ!!」
真っ赤になった顔で怒鳴ったタクミは、バッと踵を返し──
「わぷっ!?」
そのまま俺の胸に全力ダイブ。
「アキトぉぉぉぉ……最悪や……うぅ……俺の初めて……」
「え、なんや、泣いてんの!?っていうか、ぶつかりすぎ──うぐっ!?」
顔を上げたタクミは、泣き顔のまま俺の唇を塞いできた。
──しかも、やたら長い。深い。
「んっ、んぐっ!? おい、ちょ、むり、くるし──っ!」
もがく俺、空気を求めてパニック。ようやく唇が離れた時には、肩で息してた。
「……あー、ちょっとスッキリしたかも。」
「どの口が言うとんねんッ!!」
「この口♡」
アキトは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、再度くっついてきたタクミを、結局突き放せなかった。
「……お前な、10歳でディープキスとかありえへんやろ……」
「ここにおるで。てか、上手かったやろ?」
「嫌やわ、こんな10歳。」
俺がタクミの額を軽く小突いてやろうとした、その時だった。
「──なるほど。そういう関係か。」
背筋が凍った。低く、どこか冷えた声。振り返ると、そこには──さっきの皇太子が立っていた。
「……っ」
タクミが一歩、俺の背に隠れる。
「君が……“レオンの婚約者”?」
「いや違──」
「はい♡」
「言うなやこら!!」
肩を掴んで前に出そうとしたら、タクミが俺の腕にがしっとしがみついた。まるで“誰にも渡しません”の構え。
「……そう。じゃあ、次からは気をつけたほうがいい。」
皇太子の瞳は笑っていた。けれど、その奥には──何か黒いものが見えた気がした。
「大切な人を守れない男は、王子の世界では“無能”と呼ばれるんだ。」
「はぁ!?」
「レオン、また会おう。」
そう言い残して、皇太子はくるりと背を向け、優雅に去っていった。
「……アキトぉ、怖いぃ……」
「お前のせいやろが!!」
「だって俺、アキト以外にキスされたくないもん……」
「甘えるな!! ……でもまあ……」
俺はタクミの泣き顔に、ほんの少しだけ気圧されながらも、小さくため息をついた。
「……ま、今度からは俺の目の届くとこにおれよ。」
「えっ、アキト……それって……♡」
「勘違いすんなや。皇太子に変に目をつけられないようにするためや!」
「アキト!!俺のためにありがとう!」
タクミは再びキスしようとしてきたけど、今度は顔を両手で掴んでガードすることに成功した。
「ストップやストップ!お前なぁ、キス魔か!!」
「違う!アキト専用♡」
「誰が許した!!」
「今、目の届くとこにおれ言うたやん?つまり、俺の存在を常に気にしてくれるってことやろ?それってもう、嫁ポジやん?」
「違うわぁぁぁ!!」
俺は全力で否定しながらも、タクミのめっちゃ嬉しそうな顔に、思わず気圧される。
(……なんや、この笑顔……ずるいわ。)
そして、ふと自分の状況に気づいて──
(てか、俺……ファーストキス、こいつに奪われたんやん……)
じわじわとショックが押し寄せてくる。
……地味に、いや、わりとダメージでかい。
「なぁ、アキト。初めてやった?」
「っ……お前、黙れや……」
「ふふっ♡俺の勝ちやな。」
「勝負ちゃうし!あと10歳児がイキんな!!」
タクミは、またにへらと笑って俺の腕に頬をすりすりしてくる。
……でも、そんなタクミが可愛く思えてきたのは、俺も“主人公補正”にかかってしもた証拠なんやろか。
まぁ、ひとつだけ言えるとしたら──
「ファーストキスは計画的に」。
……次は不意打ちされへんように、ちゃんと守ってやるか。