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自由暗殺人 ノロクロ  作者: 浪川 晃帆
Ⅴ 魔天使のしらべ
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路地裏


  Ⅴ 魔天使のしらべ 



 それから、どこをどのように彷徨っていたのかも覚えていない。何ヶ月も経ったような気もするし、数秒しか経っていなような気もした。


「……どうすれば、どうすればいい。いや違う、どうもこうもないんだ。死ねばいいんだ。死ねば、いや、でも駄目だ。右那が、ライトホープが……、それはだめだ、じゃあどうすればいい、どうすれば、ぁぁ、どうもこうもない。死のう。いや、でもライトホープが……」

 一人同じ事を繰り返し呟きながら、拙い足取りで、どこへ行くわけでもなく、同じ場所を回っていた。

 確かに、いっそ死ねばいいのだ。そうすれば全てのしがらみから解放されるだろう。

 けれども。それが出来ないのは、頭を抱える度に彼女の見せた寂しそうな笑顔が思い浮かぶからだ。

 そうして答えに辿り着く事がなく。時間と命を無駄に継続した。

「与破音、助けてくれよ。俺ももうだめだ、何もかも駄目だ」

 それで彼が答えてくれたらどれだけ楽になれるだろう。今はただ彼の言葉が欲しい。いつものさわやかな口調で「死んでいいんだよ。のろくん」と言われたい。たったそれだけで救われる。

「あぁぁ、死にてえよ」

 公安省は強大な組織だ。一度連れて行かれた以上、右那を取り戻すなどできやしない。使徒である珀斗を出し抜くことも常識的に不可能だ。そして何よりも、右那本人がこの手を拒絶した。いや、つまるところそれが全てなのかもしれない。

 自分は、右那を、ライトホープを引き留められなかったのだ。

「与破音、くろすけ、俺はどうすればいいんだ……」


 ――『まぁ頑張ることだ、ノロクロ。汝が諦めなければ道は必ず開けよう』

 

 ふいと思い出した言葉が頭をよぎった。誰が言った言葉だったろう。なんていい加減な教示なのだ。非道く無責任で、何の根拠もない……。ルドセイ。そうだった、あの人の連絡先なら知っている。

「もしもし」

 黒スマホを取り出して、思いつくまま、すがるように電話を掛けた。


 ――吾輩である。何か用であるかノロクロよ。

「力をください、くれ。あの斎場とかいう奴と、珀斗を超える力をくれ」

 ――……ふむ。汝は少し疲れているようであるな。声が悪いぞ。とりあえず休むことである、神能とはそう急激に身につけるものではないのだ。

「じゃあどうしろってんだよ。いや、どうすればいいんだ。このまま指くわえて見てろっての? 無理じゃん。だから、この前みたいに力をくれよルドセイ」

 電話の向こうは何かを察するよう一瞬の間を空けたが、しかしルドセイは冷然と言葉を続けた。

 ――たわけたことを抜かすのでない。甘えるな。吾輩は汝に魔法のような力を無償で与える存在では無いのだ。汝はだだをこねる子供であるか? 理解せよ、世の中には自身の力ではどうにもならぬことなど山とある。それを知って人は初めて己を知るものだ。

「辛辣だなルドセイ。やっぱ俺みたいな奴はニートがお似合いってことじゃねえか」

 ――そうであろうな。ここで汝が地べたに伏して寝てしまえば、そのとおりである。

「はっははは。今まさにそうしようとしてんだよ。だってよ、どうすりゃいいんだって話」

 ――……進め。

 ルドセイは鋭く突くように言い放った。

「いや、進めって? それで間に合うならとっくにやってるっての」

 ――ではなぜ吾輩を頼る。寝ておればよかろう。汝が堕落に沈むというならば吾輩に報告などいらぬ。

「……、どうすればいいんだ。なあ、教えてくれルドセイ。いま俺に出来ること、教えてくれ」

 そうだ。そうなんだ。 

 諦めたくないんだ。心も体も潰れてしまいそうな今、心と体を潰そうとするものの正体は、決して諦められないという強烈な執着心そのものなんだ。

 だから、どんなに醜かろうとも縋り付く。この苦しみこそが今残っている最後の力だ。


「ルドセイ。教えてくれ。どんな手段でもいい、痛みも苦しみも、絶望も、俺は受け入れる。ただ右那を助けたいんだ。ルドセイ……」

 すると、再び一瞬の沈黙の後、ルドセイは開き直るよう声高らかに喝破した。

 ――よかろう! 汝がまだ諦めておらぬなら、希望の炎は決して絶えぬとも。よいか、汝は既に知っているはずだ。我々が如何にして力を手に入れるのかと。

「……業」

 ――いかにも。業を積み、そして神能を解放する、その道の果てに究極の存在へと変化を遂げ、使徒へと至る。この原理を忘れたわけではなかろう? ならばノロクロよ、直ぐに行動を始めるのだ。公安も珀斗も汝を待ってはいない。

「それで間に合えばこんなに悩んじゃいないって。けど。そうだよな。それしかない。俺みたいな奴に、そんな楽勝な近道があるわけねえんだ」

 ――今は信じることである。悩むのは全てが終わってからでもよかろう。さて、特別であるぞ? 汝の黒スマホに吾輩イチオシの殺人依頼要項をトップに挙げておいたのである。

「それをやればいいのか?」

 ――汝に覚悟があるのであれば、である。無論なんの保証もあるまい。全ては汝の心次第といったところだ。だが進め、ノロクロ。少なくとも吾輩は、まだ汝の可能性を見限ってはいない。きっと吾輩は汝以上に汝を信じていよう。さぁ行くのだ。ノロクロ。

「……わかった」 

 電話が切れた。

 掴みたいものがあるなら悩む時間こそが無駄である。今動く時なのだと。顔も見たことも会ったこともない男に、強く背中を押された。

 そして、黒スマホの画面を切り替えると、ルドセイの推奨する殺人依頼要項がトップにでかでかと表示されていた。その内容が、これだ……


『対象=ヒトと地球の未来を考える会 構成員および管理者』

『報酬=$1000,000』

『期間=(指定)7月3日』

『地域=(指定)日本国、新国会議事堂前』


 ……一体誰だ。こんな馬鹿げた依頼を出す輩は。とても正気で書いたとは思えない内容だ。きっと、人が一人死ぬってことの意味を理解してないガキか、それをわかった上でわくわくしてるサイコパスか、どの道まともな人間の依頼ではない。完全に狂ってる。

 けれど、今はこれに懸けるしか道は無い。しかしながら自分にとっては、これが究極的に都合が良い。流石ルドセイのお勧めと言える。

「そうだよ、俺がこいつらを嬲り殺すのに気が引けるわけねえんだ。何の躊躇いもねえの。で、こいつら何人いるわけ。まぁ知らねえけど、こいつらが束になって首を揃えても、与破音の墓の前に添えるには全然足りねえんだってのな」

 急に元気が湧いてきた。

 体の奥のほうから沸々を込み上げる興奮、怒り、喜び、その全てを結集した、最高級の高揚感である。

「最高に愉快じゃねえか。見てろよお前ら、俺は最強だ……」



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