ファミレス ‐5
* * *
それから目覚めるのに時間はかからなかった。
ポケットの中のバイブレーションに気が付き、星空を仰いだまま黒スマホを耳に当てた。
「ルドセイか」
掠れた声で小さく発する。
――違う。
違った。スピーカーの向こうは女の声。聞き覚えはあるが、右那でも輪音でもない、頭がまだはっきりしないせいか、全く思い出せない。
――狛ヶ根珀斗だ。
息を吐くのが苦しく「は?」という言葉は音にならなかったが、この疑念は向こうにも伝わったらしい。
――貴様の疑問に答えている暇はない。要件のみを伝えるぞ。いいか、急いでその場から離れろ、そして斎場という名のモヒカンの男とは決して戦うな。奴は公安の造った使徒紛いの化け物だ。貴様は必ず敗北し、右那様を失う。
「はは」
――? なにがおかしい。
「はっはっはっは。あははは、ははは! もう戦った。ボッコボコにされたよ。あははは」
――なんだと!
スピーカーを破壊するほどの大声が鼓膜を叩き付けた。
――右那様はどうした!
「行っちゃったよ。自分から。まぁ、そうでなくても守れはしなかった」
――なぜ行かせた!
「なんだよ、お前も殺す気なんだろ」
――この馬鹿が! 公安の目的は右那様の抹殺ではない! あのクソ共は、我々の神聖な力を解析するために、あの方を実験材料に使うんだ! そんなこともわからんのか貴様は!
「な、なんだよそりゃ……」
以降、スピーカーの向こうで珀斗がけたたましく叫んでいたが、その一切は耳に入らず、頭の中には、あの悍ましい地下施設の光景のみが浮かんでいた。
――実験は拷問にも等しい苦痛を右那様に与え、息絶えるまで続けられるんだぞ!
「おい珀斗、教えろよ。その連れてかれる場所っての、どこだ」
――思い上がるな、デリーターふぜいが。貴様など何もできはしない。右那様は私は救い出す。
「それで殺すってのか、右那を。助けて、殺して。なんなんだおまえ」
――これ以上貴様と話すことはない。消えろ。
そして電話は切られた。
まだ体は動く。全身の筋肉が悲鳴を上げているが、今はそれさえも無視できる。
足を引きずりながら歩き、駐めてあったバイクに寄りかかった。
「ちからだ、ちからが要る。公安を叩き潰して、珀斗を凌駕するちから……」
しかし寄りかかった体は力が入らず、再び地面に倒れこんだ。
空を仰ぎ、もう一度伸ばしたその右手は決して星に届くことは無い。




