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自由暗殺人 ノロクロ  作者: 浪川 晃帆
Ⅱ 無頼の人
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黒スマホ ‐1


  Ⅱ 無頼の人



 スマートフォンの充電が尽きた。それがつい三日前のことである。滑り込むようにデリーター登録を済ませたが、結局、通信デバイスが無ければ何の意味もなさない。

 世界で一番しょぼい殺し屋は橋の下で四回目の夜を迎えようとしていた。

 家路を急ぐ車の音。轍にたまった雨水が豪快に飛ばされ、街路灯に照らされる水沫は橋上から燦々と降り注いだ。雨垂れにびっしょりと顔を濡らし、タールのような黒雲を眺める、無職二十三歳。

 泥だらけのブルーシートを巻き寒さを凌いだ。

「ぁぁあぁぁ、ぁ、ぁぁぁ、あ」

 雨が美味い。この四日間何も口にしてない。

 数日後には身元不明の遺体になるだろう。これもある意味望んだ結果だ。不満はない。不足は無い。何も思い残すことは……。

「ぁぁ、ぁ」

 ないのか?

「……、ぁぁ……、ネトゲしてぇ」

 虚ろな瞳は、曇天を見上げる。


 どこか遠くで、ラジコンでも飛んでるのだろうか。ぼんやりしていると低い羽音のようなモーター音が聞こえてきた。音は次第に大きく、耳障りなほどに接近する。

 何かが来る……。

 それは突然に、橋の上からだった。浮遊する謎の構造物体が姿を現し、勢いよく降下すると、急速に接近。細かいプロペラ音を振りまいて、視界前面に雨水を撒き散らす。

 ――バッハッハッハッハァ、探したぞ! 新たなる使徒の卵よ!

 機械が喋った。

 現れたのは大型ドローンだった。八基のモーターで宙に浮かび、下部に装着した球体のカメラを目玉のように動かして割れたような声を流す。

「なんだこりゃ」

 ――ノロクロを名乗ったのは、汝であるな?

「ああぁ、はい。どうも」

 滞空するドローンは全身を観察するように体の回りをゆっくり飛ぶと、再び荒い音声で高笑いを飛ばした。

 ――バッハッハッハ。よろしい、確認した。全く汝という奴は、何故スマホの位置情報を切っておるんだ。お陰で三日も探したぞ。

「あぁ、はぁ、すんません」

 なんだこれは。

 ――まあよい。まずは、おめでとうと言葉を送ろう。歓迎するのである、ようこそ神秘と殺戮の世界へ。

「あの、あなたは?」

 ――吾輩? うむ。名乗りが遅れたな。吾輩は、ルドセイ・ルイ・ルシファー。フリーアサシンの運営幹部である。このドローンを通じて喋っているのだ。なに、驚くことはなかろう?

「は、はあ……」


 突然現れたアプリ運営サイドを名乗る大型ドローン。呆気にとられているとドローンは一人でべらべらと喋り始め、デリーターとはなんとかなんとかで、と聞いてもないことを説明しだした。

「はぁ……」

 まず大前提として「ああ、そうなんですか」と簡単に納得するのもいかがなものか。本当にアプリの運営がよこしたものなのかも不明だが……、しかしわざわざ疑って一悶着するのも面倒くさい。というか、頭が回らない。ぼーっとする。


 ――……であるからして、デリーターとは能力を覚醒させる。……、汝、先ほどからちゃんと話を聞いてるのであるか?

「あぁ、すんません。腹減ってて。なんも頭に入らんです」

 ――むむ。

 まさかアプリの運営がこんな形でコンタクトを取るとは驚くべきことだ、やはり相応のリアクションをとるべき状況だ。しかし現状、驚きがどうのと言う場合ではなく、空腹で脳が死んでいる。頭の中がふわふわと宙を漂い、言ってる内容は半分も理解できなかった。とりあえず出た言葉は……「なんか、食べ物ないすか?」と。しかしドローンの回答は意外にも悪くなかった。

 ―うむ、よろしい。良いであろう。

「おぉ、ホントに?」

 ――但し、吾輩が与えるのは食い物では無い。それを獲得する手段である。吾輩が此処に現れたのも、それが為なのだ。さあ、これを受け取るがよい。

 ドローンはそう言うと、胴体に抱えていた箱を目の前にそっと下ろした。

 ちょうど靴が一足入る大きさの箱で、外側は顔が映るほど艶のある黒。そこには銀の紋章が刻印され、縦向きの目玉から翼のような模様が広がっている。

 ――これはスターターキットである。

 上蓋をあけると、箱の中には発泡スチロールに道具が二つ、嵌まっていた。

 黒いスマートフォンと、同じく真っ黒い出刃包丁だった。

 ――初期装備だと思えばよい。その黒いスマートフォンは通称〈黒スマホ〉。専用の衛星回線で連絡を取れる上、デリーターに欠かせないヴェントパルサーを内蔵する。ちなみに太陽光で充電できる優れ物であるぞ?

「この包丁は?」

 ――名は〈関ノ祓魔包丁〉である。初期装備ながら日本刀も叩き折る業物だ。汝の力が示された暁には、更なる暗殺武器を授けよう。

「ほほお」

 ――よろしいかな。わからぬ事があれば、その都度連絡せよ。既に黒スマホに吾輩の番号が登録済みである。ルドセイ・ルイ・ルシファーとな。

「これ?」

 ――そうだ。ではノロクロよ。これから始まる使徒への道は長く険しいものとなろうが、汝がその領域へ辿り着かん事を、切に願っているぞ! では、さらばだ!

 と、ドローンは最後にまた音割れをしながら叫ぶと、高出力のモーターで一瞬のうちに飛び去っていった。

「使徒?」


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