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自由暗殺人 ノロクロ  作者: 浪川 晃帆
Ⅰ うつせ身
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ノロクロ


 さんさんと降りしきる雨。

 一級河川に掛かる橋の下で降雨を凌ぎ、今後の身の振り方を考えていた。家に戻ることもできず、お金もなければ、一晩泊めてくれと頼み込むあても無い。持ってきた物は、間もなく充電が尽きるスマートフォンが一基だけ。

 くろすけは、なぜ助けたのだろうか。嫌がらせにしても質が悪い。状況は最悪だ。

 パソコンを失い、ネットゲームができないどころの騒ぎでなく、殺人という形で住む部屋を追われてしまった。だからといって警察に届け出ることも無意味だ。このアプリを介して行われた一連の殺害計画は発覚しようがない、無論素人考えにすぎないが、少なくとも〈フリーアサシン〉はその辺の対策は入念にとられていると思う。それに、そもそも殺そうとしたのはこちらも同じだ。本気では無かったにしろ、未遂には違いない。

 だが、あの父親は本気だった。本気で、出来損ないの愚息を抹殺しようとした。

 人に殺されかけた気分はどうだろう。

 全くもって気分のいいものではない。これは完全なる存在の否定なのだ。


 河原に手頃な石を見つけては、川の中に投げ込んだ。

 人の人生を勝手に始めさせておいて、思うように行かなければ、その人生を勝手に閉じさせる。いや、作ったものが失敗作だったために、責任をとって処分しようとしたのか……。

「だったら自分の手で殺しに来いや! くそったれ!」

 一段と大きい石を両手で思い切り川の中へ放り込んだ。

 どぼんっと、でかい水しぶきを上げて、土色に濁った水の中に石は姿を眩ました。

 いつの間にか、また胸の中がひどく燃えさかっていた。

「てめぇの都合で死ぬかってんだ! くそやろう!」

 しかし腹が減る。燃焼するにも、燃料がなければいつか消沈してしまう。

 腹が鳴る。

 金はない。

 いっそ家に帰って金をとってこようか、あの父親から手切れ金として当面の生活費を奪い取るのも手だ。まるでやってることは強盗だが。

 いや待て、この自分が泥棒や強盗をすることに一体なんの非があるというのだろう。

 自分がこうなったのは、そもそも勝手に産み落とされたのが原因だ。歪んで育てたやつの責任だ。排斥した世間に落ち度がある。救おうとしない社会制度が問題だ。それで犯罪者が現れたとして、糾弾されるいわれは無い。だろ?

「そうだ! 俺の何がいけないってんだ! 全部てめえらのせいじゃねえかよ!」

 降りしきる雨に向かって大きく口を開き、大気を体内に吸い込んだ。

「俺には! お前らを滅茶苦茶不幸にして、最高の人生を最低に叩き落とす権利があんだよ! くそったれが!」

 その、『最高』の言葉で、あのデリーターの言っていたことを思い出した。確か元々バーの店員だったとかなんとか。

 残り少ないバッテリーに、最後の賭けに出た。

〈フリーアサシン〉起動。あったはずだ、まだ試していない機能がひとつ。


『依頼する/デリーター登録/使い方ガイド/利用規約』


 これだ。デリーター登録というのをまだ押してみたことがない。この開かれた自由殺人市場は、誰でも殺人を依頼できて、そして、誰でも殺人を代行できる場所なのだ。

『デリーター登録』をタップ。

 そこからの流れは、少し長かった。

 説明書きをあらかた読み、『同意する』にチェック。アカウント登録、パスワード設定、そしてユーザー名、ではなく今度はデリーターネームとして設定する。


『ノロクロ』


 これでいい。自分の本名はこれだ。現実の糞みたいな名前こそが偽物だ、そしてその糞名で生きる糞ニートは今まさに消滅するのだ。

『ノロクロ』登録。

 願わくば、この名でもう一度あの人に会えたら、と言う無体で滑稽で実に頭の悪い希望的観測もこめて……。

 いまここに一人。新たな暗殺者が世界に誕生した。





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