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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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銃弾

「えいさー!」

「ほいさー!」

「えいさー!」

「ほいさー!」


 互い違いの掛け声が船上に大きく響く。

 骸骨の船員が一子乱れぬ統率された動きで縄を引いていた。

 縄の先は船外に延びていて骸骨の船員が縄を引く度にそれは船上に近づく。


「そら、あともう少しだ。気張れえ!」


 どんどんと船上に近づく膨らんだ漁網を確認し一体の骸骨が号令を掛ける。

 それに従い縄を引く骸骨も力を込める。

 肉も皮も存在しない白骨の身体のどこにそんな力があるというのか。

 人間四人分の重量を有する漁網はとうとう船上に上げられた。


「ほんじゃま、ご開帳~っと」


 一体の骸骨が漁網へいそいそと近づき、白骨の手を無遠慮に伸ばした。

 次の瞬間、


「――触るな」


 白骨の手は無数の骨片へと姿を変えた。


「……ぁ、ん?」


 骸骨は一瞬の内に消えた己の腕を呆けたように見つめ、次いで自身の腕を粉砕した相手を見た。

 ――黒妖犬(ブラックドッグ)

 黒き獣と化した木場拓未が二人の少女と棺桶を背に立ち塞がっていた。


「――グァウッ!!」


 口の端から獣の唸り声を漏らし拓未は骸骨を文字通りに蹴散らす。

 腕だけでなくその全身を骨片へと変じられた骸骨。

 だが、頭部――頭蓋骨のみは無事だ。

 頭蓋骨はボールのように甲板を転がり、一体の骸骨に拾い上げられる。


「ダハハハハ! こっぴどくやられたなぁ兄弟!」

「うるせぇ! 見てたんなら助けろってんだよ!」

「それは無理だろォ。気づいたときには片手がブッ飛んでて、数秒と経たずに全身バラバラ。助ける余地なんざ、無えっての」

「そりゃ、そうかも知んねえが……」


 バラバラにされた身としては怒りが収まらない。

 頭蓋骨のみで何が出来るでも無いが、文句だけは言えるのでそのまま言葉を連ねようとするも、


「ま、仇は取ってやんよっ」

「ちょ、おまえ、待――」


 頭蓋骨は放られてしまう。


「さてさて、アイツはいったい何なのかねェ」


 手放した頭蓋骨の代わりに舶刀が両手に握られる。

 一本は手に馴染み、一本は借り物であるせいか微妙な違和感を感じる。

 その違和感を振り払おうと持ち方を変えてみたり、軽く投げては掴みを繰り返す。


「……人狼(ヴェアヴォルフ)、獣人、そんなとこだろ。もしかしたら、どちらでもないナニカだ」


 舶刀を弄ぶ骸骨――エドワルドの隣に一体の骸骨が並ぶ。

 手には古めかしいピストルを携え、腰には大きめの雑嚢を吊るし、仲間を蹴散らした黒獣を警戒し冷静に分析した。


「人狼か獣人ねえ……人狼だったら、銀の剣なり弾頭なり用意しねえと分が悪いなァ」

「……生憎とそんなものは無いな。第一、人狼で無かったなら銀なんて柔らかい金属、なんの役にも立たん」

「だなあ、とりあえずは普通に行くかねェ」

「……あぁ」


 エドワルドが舶刀を弄ぶのを止めると同時、火薬と弾を込める骸骨――ハインリヒ。

 二体の骸骨が戦闘の準備を完了する。


「……油断、するなよ」


 その言葉をエドワルドに投げると同時、ハインリヒは引き金に指を掛けた。

 瞬間、煙と炸裂音に続いて鉛弾が発射される。


「――ッ!?」


 鉛弾は狙い違わず黒獣の胴体部に着弾する。

 しかし、それは皮膚にも肉にも届くことはなく、硬い獣毛に押し阻まれた。


「ハッハァ! アイツ、銃弾を弾きやがった!!」

「……そう、みたいだな」


 効かないと見るや、ハインリヒは古めかしいフリントロック式ピストルを捨てる。


「……恐らく、コイツらも駄目だろうな」


 雑嚢からは歴史を感じさせる古めかしい銃が続々と掴みとられ甲板に捨てられる。

 南北戦争時に広く使われていたというパーカッションロック式リボルバーや、大戦期に活躍したという半自動小銃。

 どれも黒獣を狩るには火力が足らないという判断だ。


「……これにするか」


 それらの代わりに雑嚢から取り出されたのは、いわゆるアサルトライフルと呼ばれる代物だ。

 近代に開発された戦争のための兵器。

 その火力は先程まで使っていた骨董品と言って差し支えない数百年前のピストルとは比べようもない。

 特にハインリヒが手にするのは相当な物だ。

 九十年代前半に米軍が正式採用した自動小銃。

 名をM4カービン。


「そんなのって、アリかよ……」


 取り出された銃の威容に拓未は苦しげな声を上げる。

 こちらに銃撃を放ってきた骸骨が使っていたのは実に古めかしく威力も大したことない銃だった。

 銃弾は皮膚にすら届かず弾けたことで安堵していたというのに、骸骨が次に取り出したのはどう見ても近代的な銃だった。

 改造され頑健な肉体を手にいれた拓未ではあるが銃撃された経験はほとんどない。

 荒廃し尽くしたとはいえ、ここは日本なのだ。

 どこぞの銃至上主義国家と違い、銃を手に入れる手段なんてほとんどない。

 だから、拓未は銃撃の経験が少ない。

 迫害の結果、猟銃で撃たれたことは確かにある。

 しかし、いま遠くから自身を狙う人を殺すことに特化した武器に相対する機会は無かった。

 拓未は銃口を睨む。

 いつ銃弾が発射されても対処出来るように。

 現状は最悪だ。

 目的も分からない不死者の群れが支配する空飛ぶ船の上。

 自身の後ろには二人の少女と疲弊した吸血鬼。

 それらを守れるのはただ一人。

 黒妖犬の力をその身に宿した自身――木場拓未だけなのだ。

 拓未はどうにか現状を打破しようとする。

 船はもう飛び降りれる高度を逸してしまった。

 脱出は不可能と見ていい。

 ならば、取れる選択は背後の少女達を守りながら骸骨を倒し船の操舵を奪う。それしか手は無かった。

 無茶で無謀な夢物語。

 見えるだけでも甲板に骸骨は数十体はいる。

 船内にだって骸骨は潜んでいるだろうから、数は倍以上になるだろう。

 それでも、拓未は諦めない。


「…………絶対に守る」


 決意の言葉を口にすると同時にアサルトライフルから銃弾が放たれる。


 ――銃弾は獣の肉を食い破った。

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