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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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四人目

 ――長い夜は終わりを迎え明くる朝がやってきた。


「…………ん、ぅ」


 日下部真理は眩しい陽光に促されて目を覚ました。

 微睡む意識ではあったが、ずっと感じていた苦しさと不快感は無くなっていて気分は良かった。


「……木場さん、鈴さん」


 開いた瞳の先で心配そうに自身を見守っている人間達の名を真理は口にする。

 二人して酷い有り様だった。

 傷つき汚れてボロボロの二人は真理が意識を取り戻したのを確認すると互いに笑顔を浮かべて喜びあう。

 真理はその微笑ましい光景に自身も笑顔を浮かべた。

 そして、再び眠りにつく。

 きっと、たくさん眠っていたはずなのに眠気は全然治まらない。

 穏やかな寝息を立てて真理は夢の世界へと墜ちていった。


「……うん、大丈夫。真理ちゃん治ったよ」


 キョンシーから受けた毒の完全な解毒が完了したと確認出来た鈴が拓未に宣言する。

 もう真理がキョンシー化する事は無い。


「よ、良かった……」


 拓未はふらふらとした様子でその場に座り込んだ。

 目を覚ましたと思った真理が再び眠りについた時は焦ったが、それは単に疲労回復の為だと鈴に説明された結果である。

 ――拓未達はなんとか間に合ったのだ。

 昨夜、キョンシーの打倒に成功し牙を入手することに成功した二人。

 夜が明ける前に解毒薬を調合し寝ている真理にそれを飲ませた。

 飲ませた直後はもがき苦しんだ真理だったが、今はそんな様子一切無い。


「……ありがとね。拓未」

「え?」

「アンタのおかげで、アタシは師匠を倒せた。師匠が別のナニカに変わる前に葬ってあげられた。本当に感謝してる」

「……鈴」


 キョンシーは灰と化した。

 桃木剣により首を切って、牙を引き抜くと鈴はキョンシーに火を掛けた。

 五体をバラバラに切断した程度ではキョンシーを完全に倒したとは言えなかった。

 時間が経てば再生する。

 それが分かっていたから鈴は火を掛けた。

 符術により発火したキョンシーの肉体は灰だけになってこの世から消え去った。


「その灰、どうするんだ?」


 鈴の傍らには灰を納めた壺があった。

 キョンシーを焼いた際に持ち帰っていたのである。


「ここに埋葬していくわ」

「いいのか? 故郷に連れて帰って葬るんじゃ、」

「ううん、いいの。アタシも福島県って聞いてただけで師匠の正確な出身地を知らないし……」


 旅に出た当初、鈴は何がなんでも正確な出身地を探す気でいた。

 拓未達についていき福島県に辿り着いたなら、一人きりでも探す気でいた。

 だが、いま鈴のうちにその気持ちはない。

 もし、自身がこの灰を手にして福島県を探し回ると宣言すれば拓未は協力を申し出ると分かったからだ。

 そうすれば、また危険に巻き込んでしまうかもしれない。

 そんなのはもう嫌だった。

 それに、たとえ一人きりであったとしてもそんな無茶をする気はもう無い。

 鈴は思い出したのだ。

 自らの師匠が――父親が抱いていた最後の願いを。


「……生きるよ。師匠よりも、ずっとずうっと長くアタシは生きてやるんだから」


 ――この地獄を生き抜いて欲しい。

 その一心で村地延允は鈴を厳しく鍛えてきた。

 自身がいなくなろうとも強く逞しく生き抜いていけるように持てる技術の全てを授けたのだ。

 たとえ恨まれることになろうとも鈴の為を思って。

 だから、鈴もその思いに報いることにした。

 もし、一人きりで出身地を探せば自身は危険に晒され死んでしまうかもしれない。

 それでは師匠の思いに報いられない。

 だからこそ、鈴は出身地探しを諦めたのだ。


「ま、ここも福島県なわけだし文句無いよね師匠」


 そして、鈴は一つの決意を口にする。


「というわけで、拓未。師匠の灰を埋葬して、真理ちゃんが回復したら四人で北を目指すわよ!」

「あぁ…………って、四人(・・)?」


 拓未は旅の面子を数えてみた。

 黒い棺桶に入っているカテナに視線を向けて指を一本立てる。

 寝ている真理に視線を向けて二本目の指を立てた。

 そして、自らを含めて三本目。

 すると、真理が自身を指差しながら拓未の指を握って四本目を立てさせた。


「ふふん! 感謝してもいいのよ。アタシみたいな天才道士が仲間に加わってあげるっていうんだからね!」

「…………は?」


 完全に調子を取り戻した鈴。

 不遜な物言いで拓未に上から目線で仲間入りを宣言する。

 師匠からの生きてくれという願いを思い出した鈴。

 この世界を一人きりで生きていくのは厳しい。

 だから、鈴は拓未達の仲間に入ることにした。

 とある吸血鬼のことは気に食わなかったが些細な事だ。


「じゃあ、拓未。アタシは真理ちゃんに体力を取り戻して貰うために野鳥でも狩ってくるから。留守番よろしくね〰」


 ヒラヒラと手を振ってその場から去っていく鈴。

 その顔はとても晴れやかだった。


 こうして、鈴は拓未達の旅に加わったのだった。

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