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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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山門

「今夜はここで野営しよう」


 まもなく陽も暮れるころ、適当な空き地を見つけたので野営の準備を始める。

 野生動物の気配や痕跡もなく、一番に警戒すべき不死者アンデッドの姿も周囲にはない。


「わかりました。それじゃあ、わたし薪拾ってきますね」


 真理も野営に完全に慣れてきていた。

 俺が指示を出すまでもなく煮炊きに使うための薪を拾いに行ってくれる。

 それもそのはず、あのホームセンターの一件から十日も経てば嫌でも慣れてしまうだろう。

 何者かによって連れ去られたという双子と紅瞳レッドアイズの子供達を追って、俺達は北上をしている真っ最中である。

 この『何者か』については良く解っていない。

 連れ去られた。と言ったカテナの反応やその後の会話からしてカテナに語る気は全く無い様子。

 問い詰めたところで、絶対に口を開くことは無いだろうし、下手をすれば痛い目を見る羽目になる。

 なので、子供達を連れ去ったという謎の人物の正体については保留という形で落ち着いてしまった。

 代わりに得られたのは、謎の人物の行方。

 カテナの「……恐らく、北だ」という曖昧な情報を頼りに俺達は絶賛北上中となっているわけだ。

 北。なんていう曖昧過ぎる表現だったが、カテナに詳しい目的地を問い質してもデコピン以上の返答は返ってこなかった。

 仕方なく、ホームセンターのあった街を背にし進んでいる。

 現在は北関東に入ったか入らないかというところ。

 かつての人口密集地を避けるため主要な幹線道路は使わず、下道や酷道と表現出来る道を進んできたせいか周囲は緑に囲まれている。


「……熊ぐらいは余裕だな」


 周囲に広がる山林から、もし野生の猛獣が下りてきても俺なら軽く狩れるはずだ。

 獣の姿(・・・)に変われば猛獣なんて敵ではない。

 黒妖犬ブラックドッグの姿に変わった俺は対亡霊(ゴースト)に特化しているが、基本の肉体性能が野生動物の比じゃない。

 象や鯨なんかのデカくて耐久力があったりするのは別として、大抵の猛獣は秒で片付けられる。

 まぁ、なるべく変わりたくはないんだが。


「……というか、熊でも何でも出てきてくれ」


 普段であれば猛獣の襲撃なんて厄介事は望まないものの、いまは切実にその厄介事を待ち望んでいた。

 ホームセンターを出て十日間、旅自体は非常に順調に進んでいる。

 危惧していた真理を狙う感染者との遭遇も無く、俺とカテナがいることで亡霊と不死者アンデッドは寄り付きもせず問題なく移動出来ている。

 問題は食料が底を尽きかけていることだ。

 どんなに節約しても三日が限度だろう。

 元々、真理を地下施設へ送り届けるために用意していた装備一式だったので、こんな長旅に対応出来るわけもなかった。

 出発当初、数日もすれば何か手掛かりが見つかるだろうと楽観したのが失敗だったかもしれない。

 現にこの十日で手掛かりなんて得ることは出来ず、時間と体力と食料を消費しただけだ。


「せめて、食料くらいはどうにかしないとな」


 溜め息と共に空を仰ぐ。

 俺とカテナを襲おうなんて馬鹿で危険察知も出来ない野生動物がいないのは重々承知してる。

 食料を得ようというなら、狩りに出るしか無いが素人同然の俺に果たして狩猟なんて出来るだろうか?

 確かに変身すれば、驚異的な身体能力と狩りに役立つ嗅覚と聴覚が大幅に強化される。

 ただ、それだけで狩猟が成功するとは思えない。

 どんなに性能が優れていても慣れない行為はきっと上手くいかないだろう。

 例えば、包丁よりも切れ味が良いからと日本刀を使っても美味しい料理が作れないのと同じ。

 俺という存在はきっと狩猟に向いていない。

 それに、変身前の状態でも野生動物は本能的に俺を恐れて近寄ってこない、それなのに変身なんてすればどうなってしまうか。


「木場さん、どうしたんですか難しい顔して?」


 両手で薪を抱えながら真理が帰ってきていた。


「……いや、なんでもない」


 それでも、ここで引き返すなんて選択肢はない。

 手掛かりは何もないし、食料も無いがそれでも進む。

 俺と真理は円治の頼みを聞き届けた責任がある。

 アカリとアキラ、紅瞳の子供達は必ず救わなければならない。


「ちょっと辺りを見回ってくる。そろそろ陽も沈んでカテナの奴も起きるだろうし、何かあったら……」

「はい。カテナさんを叩き起こせばいいんですよね?」

「……あぁ、その通り」


 もう一々説明するまでもなかったらしい。

 真理が集めてきてくれた薪で火も起こしたし俺は出るとしよう。


「いってらっしゃい。木場さん」

「あぁ、行ってくる」


 空き地から程近い林道を目指して俺は歩く。

 目的はもちろん食料の確保。

 向いていないのは承知してるが、試さないとは言っていない。

 林道の入り口にはご丁寧にも看板が立てられていた。

 細かい文字はところどころ月日の経過によって読めなくなっているが経路案内板のようだ。

 この林道の先には、山門やお寺があるらしい。

 そこを抜けると幾つかの下山ルートもある様子。

 全盛期はハイキングコースとして人気だったのが予想できる。


「とりあえず、山門までで良いか」


 一応の目的地は決まった。

 真理を長い時間待たせるのも悪い。今日のところは、この付近にどんな動物がいるかの調査でいいだろう。

 林道を進んでいれば匂いなどの痕跡があるかもしれない。

 わずかな痕跡でも俺の感覚なら、充分その痕跡を残していった獣の存在を把握出来るはずだ。

 あわよくば、何かしらの戦利品があったら良いがあまり期待はしないでおく。

 現在地から山門までの所要時間は経路案内板によると三十分。

 往復で一時間の道のりのようだが、俺の足なら半分ほどの時間で行けるだろう。


「よっ!」


 軽い調子でスタートを切る。

 僅かに傾斜の掛かっている林道。ハイキングとして来るならこの傾斜が心地よい疲労を生み、目的地に到着した際の達成感を後押ししてくれたことだろう。


「ま、俺には関係無いんだけど」


 俺はそんな林道を平地でのランニングのようなスピードで走っていく。

 基本的な性能が普通の人間とは違うから出来る芸当だ。

 もし、こんなことを普通の人間がすれば五分と持たずにバテてしまうだろう。

 流れていく暗い林の景色を横目にしながらも、俺の鼻と目には情報が飛び込んでくる。


(……猪、狸、あ、野犬もいる。それにやっぱり熊もいるんだな)


 匂いを嗅いだだけで何の動物がいるかが直ぐに解った。

 それは人間である俺が解ったというより、俺のなかにいる黒妖犬が理解していたといっていい。

 俺には獣臭いとしか感じないものを、俺の中の黒妖犬が判別してくれている。

 遠い英国から日本に連れてこられ、俺――木場拓未と混ぜられた黒妖犬。

 そんな、彼ないし彼女が持っていた知識だ。


「……到着」


 人が通らなくなり整備も行き届かなくなった林道は走りにくかったが、おおよそ予想通りの時間で山門には到着した。

 目的としていた動物の調査は完了し、古びた山門を眺めていても意味はない。

 獣臭と濃い緑の匂いに鼻がムズムズしてきたし、来たばかりだがさっさと帰ってしまおう。


「さて、と」


「――て」


「ん?」


 真理の待っている野営地に引き返そうとしたその時、声が聞こえた。

 人の声だ。


「――って」


 どうやら声は山門の向こうから聞こえているみたいだ。

 俺は山門を抜けて様子を確かめる。


「あれは……」


 山門を抜けた先、まだ距離的にはかなりあるが人影がこちらに向かい走ってきていた。


「もう、待ってってばあっ!!」


 それは叫びながら何かから逃げる少女だった。



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