紅瞳
――紅い瞳は死を招く災厄の印。
決して、生まれてはならない子。
決して、生かしておいてはならない子。
決して、愛してはならない子。
決して、愛されてはならない子。
人々はその子等を『紅瞳』と呼称した。
血のように紅い瞳を持って生まれる忌み子。
人々は彼等の誕生を恐れた。
◆◆◆
「……ふん、紅瞳か。相変わらず、何の捻りもない名だな」
カテナは紅い瞳で夜空を仰いだ。
その顔はすこし憂いを帯びていた。
「して、あの小娘はどんな反応をした? 自らの父親が紅瞳のみを求める子買いとやらの一味と知ったのだろう?」
「……あぁ」
紅瞳は高い確率で迫害を受ける。
特異な容姿を持つためだ。
純粋な日本人を両の親として持っていても、その瞳は紅に染まっている。
個人差もあるが、瞳だけでなく髪や肌の色も一般的なそれと駆け離れる者も少なくない。
そんな彼等は、人間の共同体のなかでどうしても目立ってしまう。
それも悪い目立ちかただ。
世界が崩壊する前は、そんな特異な子供は生まれてこなかった。
年長者のほとんどが異常な事態だと騒ぎたて、生まれてきた紅瞳を処分し、在らぬ噂を吹聴。
その噂は人々の間で広まり、紅瞳たちの立場を悪くした。
ほとんどの紅瞳は生まれた時点で殺され、運良く生き残っても酷い仕打ちを受けることになる。
真理の父親――日下雅人は、そんな紅瞳を買い取っていたらしい。
「……真理は、その話を聞いてショックを受けてたよ」
「それは、自身の父が人間を物のように買おうとする男だったからか?」
円治の話――正確に言えば、瀬田が円治に語った情報だ。それによれば、子買いは紅瞳の購入に対価を用意していたという。
もちろん金銭の類いではない。
貨幣経済など、とっくに滅び紙幣や硬貨などに価値は無くなっている。
子買いが用意していた対価は薬品と食糧だった。
食糧は備蓄に適した物を大量に、薬品は傷薬から抗生物質の類いまでを一通り揃えていたという。
その条件を飲まない人間はいないだろう。
疫病神とさえ言える紅瞳を貰ってくれるうえに、その見返りが貴重な食糧と薬品だ。
瀬田のもとにも、子買いは来たというが追い払ったらしい。
その時、日下雅人と面識を持ったという。
「違う。自分が父親の本当の娘じゃないかもと思ったからだ」
拓未は、日下雅人という男に悪い感情を持っていなかった。
円治達からすれば、過去に共同体内にいる仲間を買おうとした悪人。
そんな印象に違いない。
だが、拓未はこう思っていた。
迫害されていた紅瞳を保護した男。
「真理から聞いたんだ。施設のなかでは、小さな子達の面倒を見てたって。忙しかったけど、楽しい生活だったってさ」
安くない対価を支払ってまで、紅瞳を求めた日下雅人。
なんらかの目的があったのは違いない。
それでも、買われていった子供たちが劣悪な状況に置かれなかったのは確かだ。
それは、その施設で暮らしていた真理が証明している。
「だから、真理は……」
そんな父親が何をしようとしていたかを確かめるつもりだ。
円治から話を聞いた真理は、すぐに個室へと帰った。
明日に備えるために。
『私は、間違ってしまった……』
その言葉の意味を知るときが、ようやく来たのだ。
たとえ、明日にまた雨が降ろうとも、拓未についていくと真理は決めた。
足手まといにだけは絶対にならない。
そう固く誓い真理は英気を養うのだった。
「……ふん、だからこそ私にその施設の探査を任せたというわけか」
今宵、カテナの使い魔の全ては件の地下施設へと放たれていた。
街にある地下鉄跡などは後回しだ。
「それで、どんな感じだ?」
いまカテナの脳内には使い魔から発信される情報が集まり、地下施設の仔細な見取り図を完成させようとしていた。
持たせてある紙にペンが機械的に動き、地下に隠されていた構造体の全てが精密に描き込まれていく。
「デカイ。見てみろ駄犬」
「……これは」
描かれた見取り図に拓未は驚愕する。
そこには十一階層にも分かれる巨大な構造体の姿が描かれていた。
「これは、なかなかに面白い……」
カテナの紅い瞳がギラリと怪しい光を帯びるのを拓未は見逃してしまうのだった。




