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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
21/83

警備

 ホームセンターの内情は拓未が予想していたよりも、悪いものではなかった。


 暴力による支配は見受けられず。

 階級制度のようなものが敷かれている様子もない。

 こういった閉鎖環境下で生まれやすいカルト宗教派閥も存在しないようだった。


 建物は二階建てで二百人の人間が暮らすには十分な広さ。

 二階は物資の保管場所とされていて、一階は全て居住区となっていた。

 陳列されていたであろう大量の品物は二階に運び出され、そうして空いた空間に仕切りが組まれ個別の居住空間として利用されている。

 江戸時代の長屋を彷彿とさせる光景だ。

 間仕切りは販売されていた商品で造られていて、木製であったりプラスチック製であったりと統一感はない。

 一部屋ごとに区切られているものの、かなり薄い壁一枚に隔てられているだけなので隣室の音が良く聞こえそうだった。

 それでも、パーソナルスペースがちゃんと得られているのに変わりはない。


 集団で暮らすなかで噴出するであろう住環境への不満。

 それは解消出来ているようだった。

 多人数で暮らすのであれば、個人の空間はやはり必要である。

 他人と暮らすというのはそれだけでストレスだ。

 日々の生活で他者と接触すれば、良い感情も悪い感情も抱いていく。

 一人になれる時間というのは、そういった心の整理にとても大切になる。

 そういった意味で、この住環境は大変に優れていた。


 拓未達にもそのなかの一室が割り当てられる。

 円治曰く「一番静かで寝やすいところ」ということだった。

 隣室は年老いた人間が多い。

 どうやら、区画が分けられている模様。

 割り当てられた個室に至るまでの経路で拓未はなんとなくそんな予想をしていた。

 男ばかりの区画、女ばかりの区画、男女と幼い子供が多い区画、老人が多い区画。

 ここまでの区画を思い返せば、拓未にも分かる。

 確かにここは一番静かな区画だ。

 そして、一番五月蝿いのは男女と幼い子供が多い区画だろう。


 理由は、明らかにこの個室という仕様のせいである。

 個人のプライベートが保証されていて、周囲からの視線を遮断できる壁があるのだからそれは当然のことだ。

 幼い子供が多いのにも拓未は納得できた。

 拓未が見た限りこの施設内の人口比率は、若い男女と子供が六割、中年の男女が三割、老人が一割だ。

 十数年前にこのホームセンターに逃げ込み、大人は日々を戦い命を落とし、守られていた子供たちが成長したとすれば妥当な比率といえなくはない。

 それでも、幼い子供が多いと拓未は思う。

 ここまでに来る道すがら、真理と変わらぬであろう少女が大きなお腹を抱え座っているのを見た。

 お盛んすぎると拓未は思う。

 だから、真理をそんな区画で眠らせることにならず、拓未は胸を撫で下ろす。

 同時に、円治の気遣いにも痛み入る。

 円治の容姿は愚連隊のような若者達のリーダーに相応しいそれだったので、こういった気遣いが出来るとは思っていなかった拓未だ。


「……さて」


 既に太陽は沈み、暗い夜が訪れていた。

 真理は疲労のため、もう寝ている。

 拓未は三輪のキャリーカートを手に動き出す。


「あれ、木場の旦那?」


 一階入り口を警備していた円治が意外な人物の登場に驚く。


「もしかして眠れないんですか?」

「いや、タダで泊めてもらうのは悪いと思ってな。俺も警備に参加しようと思ったんだ」

「いやいや、木場の旦那はお客さんなんだから、寝ててくださいよ。警備はオレ等に任せて」

「まぁ、そう言うなって。俺にも協力させてくれ。人手は多いほうがいいだろ?」

「いえ、結構。オレの仲間が警備をしてるんで人は足りてます」


 頑として譲らない円治。


「……実を言うと、眠れないってのは正しい」


 拓未はそんな円治に語りかける。


「こんな世界だ。夜は寝ずに警戒するのがもう日常になってる。あのまま個室に籠ってても朝まで寝られない。だったら、その時間を有効活用したいと思うのは当然だろ?」

「……そう、ですね」


 円治は拓未の言葉に納得する。

 このまま拓未を個室に追い返しても、眠れぬ夜を一人過ごすことになるだろう。

 それは拓未にとって、とても退屈で無駄な時間となる。

 暗い室内に一人起きてるのはきっと辛い時間になってしまう。

 それなら、まだ働いてもらったほうが拓未のためにも良いのではないか。

 円治はそう考えた。


「……仕方ない。わかりましたよ旦那」


 円治は拓未に警備の手伝いを頼むことにする。

 実際のところ、警備の手は足りていない。

 先程は拓未を追い返すために嘘をついたのだった。

 ホームセンターの敷地は広い。

 昼夜交代のシフト制で人員を割いているが、全域をカバー出来てはいない。

 一定の位置に人員を配置しているが、その距離は互いに目視出来ないほどに離れている。

 警笛などを持たせているが、不測の事態への対処は遅れてしまうのが現状だった。


「つーわけで、旦那にはここの警備をお願いします」


 円治は拓未を連れ立ち、警備をしてもらう場所へと案内した。

 ホームセンターの裏手の一角だ。


「位置的に手薄になりやすい場所だったんで、かなり助かります。近くのヤツまで結構距離あるんで、なんかあればコレ使ってください」


 円治は予備の警笛を拓未に渡す。

 拓未が警備をする場所はもとから高い塀が敷地と外を隔ててあるので、警備を疎かにしがちになる場所だった。


「じゃあ、旦那よろしくお願いします」

「あぁ、寝れないからっていう俺のワガママ聞いてくれて、ありがとな」

「いえ、こっちこそ助かりました。オレもそろそろ自分の持ち場に戻ります」


 そう言って円治は持ち場に帰っていった。


「…………眠い」


 円治がいなくなったことを確認し、拓未は本音を漏らす。

 拓未が眠れないから警備をしたい等と言ったのは真っ赤な嘘である。

 布団の上で横になれば、すぐにでも眠れる自信が拓未にはあった。

 昨夜もほとんど寝ていない拓未なので、本音を言えば早く眠りたかった。

 しかし、そうもいかない。


「カテナ」


 一言、その名を呟いた。

 円治がいなくなった時点でキャリーカートに乗せられていた黒い棺桶の拘束は外されている。

 名を呼ばれたことで、カテナがその姿を現した。


「さっそくだが、索敵頼む」


 カテナは使い魔を形成し周囲に放った。

 その顔には不満が滲み出ていた。


「毎夜、毎夜、同じ作業ばかり。もう私は飽きてきたぞ駄犬……」

「だからって、手は抜くなよ」

「そう思うのなら、早くあの娘がいたという施設を探すのだな」


 カテナが拓未達に着いてきた目的はその施設を訪れるためだ。

 その理由は面白そうだから。

 閉塞した世界で退屈しているのは人間だけではない。

 不死者の王――吸血鬼のカテナも退屈に殺されるような気分で日々を過ごしている。


「ふん、どうやら周囲に不死者の反応はない」

「本当か?」

「たぶんな」

「たぶん?」

「私とて、万能ではない。放った使い魔には街の表層のみを捉えさせている。もし、地下や上空にいる不死者がいても、それは探知範囲外だ」


 現在、カテナは使い魔に路上や屋内施設を探知させている。

 その作業のみで一晩は必要になってしまう。

 地下鉄跡や地下街などの地下施設まで調べる暇はなかった。


「……一応はそれで充分か」


 もし、地下に不死者がいても現在はカテナが地上部分を索敵中。

 地下から地上に上がってきた時点で、カテナは感知することができる。

 地下施設は翌日に繰り越しても構わなかった。


「ところで、駄犬」

「なんだ?」

「貴様、ヒトの群れに加わったのか?」


 カテナの言葉に拓未は沈黙する。


「確か、私と初めて出会ったあの夜に語ったはずではなかったか、貴様は――」

「黙れ」


 空気が重く固まる。


「…………一時的に、ただ居るだけに過ぎない。それだけだ」

「……ふむ」


 拓未は俯き再び沈黙した。


「それならば、何も言うまい。あの夜、我が居城を守る番犬として貴様を生かした。そのこと忘れるなよ」

「……あぁ」

「……ならば良い。私は散歩に出るとしよう。何かあれば戻ってくる」


 カテナは闇に姿を消した。


「…………俺は――」


 拓未は何かを思いだし言葉を詰まらせ、


「だから、貴様は駄犬だと言うのだ。拓未……」


 カテナは不機嫌に夜を往くのだった。

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