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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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亡霊

「あれはねー、セタのおじちゃんだったの」

「……うん。おじちゃんだったの」

「セタ、さん?」

「「うん!」」


 どうやら『セタ』というのは個人名みたいだ。

 双子ちゃん達はたどたどしい喋り方で、会話がちょっと聞き取りにくい。

 二人は助けてくれたお礼に、木場さんとわたしをお家に招待してくれるという。

 わたしは二人に手を引かれながら市街地のなかを抜けていく。

 木場さんと共に、頑張って二人の会話を理解しようと必死だ。


 幼い子の話すことは主観が基本。

 だから、相手に理解してもらおうとは考えずにただただ言葉を羅列していく。

 分かるよね。知ってるよね。と、自分が感じたそのままをぶつけてくるので大変だ。

 二人に、どうして屍体に襲われたの?

 という質問をし、答えとして出てきたセタという人物名。

 それまでを理解するのは大変な苦労だった。 


「そんで、お前たちは何でまたセタのおじ……ちゃんに襲われてたんだ?」


 ちょっとだけ言葉を言い淀みながら木場さんが二人に再び質問する。


「セタのおじちゃん。かまれちゃって、とじこめられてたの」

「……うん。ほかにもいっぱいとじこめられてた」

「そしたら、セタのおじちゃんが、セタのおじちゃんだったのとみんながにげたよ。って、おしえにきてくれたの」

「……うん。きてくれた」

「……ん?」


 待って。ちょっと理解できない。


「ごめんね。ちょっといいかな、アカリちゃん」

「なーに、まりちゃん?」

「……うん。なーに?」


 わたしの右手を握っているアカリちゃんが振り返る。

 それに釣られてか、左手を握っていたアキラくんも振り返ってきた。

 スカートを履いている女の子がアカリちゃん。

 ズボンを履いている男の子がアキラくん。

 見分けはついたし、名前も覚えた。

 時折、握ってる手を交換したりしてくるので、油断ならない。


「あのね、セタのおじちゃんって、二人いたのかな?」


 アカリちゃんの話は木場さんの質問への答えまで、まだまだ続きそうだったが、おかしな点がある。


 セタさんって人は、屍体に噛まれてどこかに閉じ込められていた。

 そこには他にも噛まれた人が入れられていたらしい。

 ここまでは理解できた。


 その後、セタさんって人と閉じ込められてた人が逃げたと、セタ(・・)って人が教えに来てくれたという。

 この言葉を鵜呑みにするなら、セタさんという人は閉じ込められてた場所から逃げ、その足で双子ちゃんに逃げたことを宣言しにきたことになる。

 それだと訳が分からない。

 なので、良く喋ってくれるアカリちゃんに聞いてみた。


 セタさんという人間は二人いたのかと。


 それなら納得がいく。

 同じ名で、おじちゃんと呼ばれるくらいの年齢の人物が二人いた。

 そして、片方は噛まれてしまい閉じ込められ、片方は見張りか何かをしてたのかもしれない。

 それなら、セタという人物が二回登場したのも理解できる。


「いないよー。セタのおじちゃんがセタのおじちゃんだったのがにげたよ。っておしえにきてくれたんだよー」

「……うん。そうだったよ」

「あ……そうなんだ」


 残念ながら、なにも進展は無し。

 これでは、どうにもならない。


「そういうことか……」


 木場さんがボソッと呟いた。


「木場さん、なにか分かったんですか?」

「……たぶん、な」


 木場さんはアカリちゃんとアキラくんの方に近寄っていった。


「その、教えてくれたセタのおじちゃんって、亡霊ゴーストだったんじゃないか?」


 ごーすと?

 聞きなれない単語に首を傾げる。


「そう! ごーすと!」

「……うん。ごーすと」

「そっかそっか……なるほどな」


 ウンウンと一人納得してしまう木場さん。

 わたしはなにも分からず戸惑ってしまうばかりなのに。


「まりちゃん。もしかして、ごーすとしらないの?」

「……うん。しらないの?」


 そんなわたしの様子に気付いたのか、二人が問いかけてくる。


「……亡霊ゴースト。名の通り、肉体を亡くし現世を彷徨さまよう霊魂。不死者アンデッドの一種だよ」


 木場さんがわたしの知りたかったことを教えてくれた。


「亡霊、ですか?」

「あぁ。いまの反応からすると、セタって人が二人いた理由はそれで説明できるんだよ。普通は亡霊を視るなんて出来ないんだけどな……」


 木場さんは亡霊について、かいつまんで説明してくれた。


 亡霊ゴースト


 それは一種の精神体だという。

 難しいことは分からなかったけど、要は見えないし触れないそうだ。

 人からも亡霊からも相互に触れられない。

 けど、無害ではないらしい。

 睡眠中を狙って悪夢を見せてきたり、触れなくても掠れた声のようなものは出せるらしく、人間の精神的不安を増長させるそう。


「こういった廃墟になった街や、墓場なんかには亡霊が出やすい。亡霊になるのは現世への強い未練や怨みを持つ魂だ。屍体や感染者に比べれば危険度は無いに等しいが、精神的疲労ストレスを与えて間接的な攻撃をしてくる。陰湿な奴等だよ……」

「そうなんですか……」


 なんだか、目に見えない恐怖というのは気持ち悪い。

 いままでも生命の危機は何度かあったが、驚異はいつも目の前にあった。

 なのに、それが見えないだなんて。

 別種の恐怖にすこし身震いしてしまう。


「じゃあ、話を整理しよう。セタのおじちゃんってのは屍体になった。そして、肉体が死んだことで霊魂が剥離し亡霊化。肉体であった屍体の方は何かの拍子に逃げ出して、亡霊であるセタのおじちゃんがそれを知らせに来た。と、そういうことだよな?」


「「……たぶん?」」


 ダメだ。木場さんの説明、わたしには分かったけど双子ちゃん達には理解できてない。


「木場さん、わたしがもっと分かりやすく話しますね」


 わたしはもっと言葉を砕いて説明する。


「そう! まりちゃん、やっとわかった?」

「……うん。わかった?」

「ごめんね。ありがとね。わかったよー」


 つ、疲れた。

 ここまで歩いてきた肉体的疲労と子供への説明という精神的疲労が倍掛けされてるみたいだ。


「……お疲れ。やっと、セタって人のことが少し分かった」

「はい。でも、このあと二人が襲われてた理由も聞くとなると、より疲れそうですけど……」


 二人のセタさんへの疑問は解決したが、まだまだ聞かなきゃならないことはある。

 わたしとしては、亡霊という新たな不死者の登場もあり、今日はもうお腹いっぱいだ。

 出来ることなら横になって身体と精神を休めたい。

 …………でも、あれ?


「木場さん、亡霊って人を襲うんですよね?」

「……まぁ、そうだな。物理的でなく、精神的にだけど」

「でも、あの子達はなんで襲われなかったんでしょう?」


 セタさんの亡霊は屍体のセタさんが逃げたことを二人に知らせに来たという。

 まだ、話の全てを聞いたわけでもないので一概には言えないが、セタさんの亡霊は好意的に思えた。

 自身の屍体に襲わせ殺そうとした罠だという可能性もあるが、二人が話すセタさんの印象からは悪意を感じ取れない。


「それに……」


 わたしは昨夜、悪夢を見なかった。

 木場さんが泊まることを決めた霊園。

 あそこも立派なお墓だ。

 亡霊はたくさんいたんじゃないのだろうか?

 なのに、わたしは不審な声も音も、悪夢も見ていない。

 その、理由は――


「まりちゃん、もうすぐつくよ!」

「……うん。つくよ」


 アカリちゃんとアキラくんが元気良く前を指差して、その方向に勢い良く走っていく。

 手を繋いでる状態なので危うく転びそうになるが、なんとか耐えて歩調を合わせ小走りに変える。 


「どうやら、家が近いみたいだな」

「そうみたいですね。そんなに遠くなくて助かりました」

「結局、全部は聞けなかったが詳しくは到着してからでいいだろう」

「そうですね」

「でも、走るのは勘弁して欲しいな。カテナに怒られそうだ」


 横を見ると木場さんはカテナさんの入った棺桶を気にしながら走っていた。

 悪路にも耐えられる木場さん特製の三輪キャリーカートだが、振動までは防げないみたいだ。

 走る度にガタガタと揺れている。

 これは中のカテナさんも寝れないんじゃないかな。


「……カテナさん?」


 その時、ふと考えが閃く。


 カテナさんがいたから、わたしは亡霊に襲われなかった。


 そう結論が出る。

 感染者の人達はわたしを執拗に狙ってきた。

 そのせいで忘れていたが、凄く強いカテナさんに一般的な不死者は寄り付かない。と、木場さんが教えてくれたのを思い出す。

 きっと、亡霊はカテナさんが怖くてわたしに近寄ってこなかったんだろう。

 感染者たちと違い、わたしには興味がなかったのかもしれない。

 きっと、そうだ。

 一つの疑問が解決しスッキリした。

 あとは、アカリちゃんとアキラくんの問題だけだ。


「よし!」


 わたしは速度を少しだけ上げ、二人の手をを引っ張って走った。

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