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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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出発

 太陽はまもなく中天に差し掛かろうかという位置になっていた。

 拓未と真理は朝食を取り終えた後、旅の準備を進め今ようやくそれが終了した。


「ふぅ、木場さん、終わりました!」


 リュックサックに替えの衣服を詰め込み、真理が拓未に伝える。

 その服装は前日のTシャツに腰巻きシャツという、色々と危うい格好ではなくなっている。

 ショートパンツとキャップも追加され、夏らしい装いだ。


「こっちも丁度終わったよ」


 拓未も持っていく物の厳選を済ませ荷造りを完了させる。

 その格好は上下ジャージという、どうにもやる気の感じられないものであった。

 拓未にとっては見た目の格好良さよりも、機能性を重視した結果なのである。

 真理はリュックサックを背負う。

 少しの水と食料、応急処置用の医療品に替えの衣服しか入っていないので、真理の動きは身軽だ。

 それに比べ、拓未の物は数倍の重量と大きさ。

 真理のものが、軽いハイキング用。

 拓未のものは、本格的な登山用なので無理もないのだが。

 中身は医療品や日用品、食料と水に燃料等々、詰め込めるだけ詰め込んだ。


 それでも準備万端とは言い難い。

 はっきり言って準備不足。

 前日に出立を決め、半日程度の期間でことにあたったと考えれば充分すぎる出来。

 だが、もっと時間に猶予があったなら三割は軽量化出来たはずだと拓未は思った。


「贅沢は言えないか……」


 これ以上の時間は掛けられない。

 昨日、今日と天気は晴れ。

 このまま良い天気が続くと信じ、拓未は急いでいる。

 晴れてる場合と雨が降ってる場合。どちらの移動が楽かなんて考えるまでもない。


「じゃあ、行くか!」

「はい!」


 二人は荷物を持って屋上から一階にある出入口へと移動する。

 勿論、三人目の同行者も忘れてはいない。

 カテナが眠る黒い棺桶には遮光性の布をぐるぐると巻き、その上から何本かのロープで固定。

 それを拓未お手製の三輪キャリーカートに積む。

 このキャリーカート。なかなかの優れもので、本来は廃墟での物資確保と輸送のために拓未が試行錯誤して開発。

 通常のものよりも頑丈で大きな荷重にも耐えられ、段差と階段をものともしない。

 これにより、重い棺桶にはそれほど悩まされない。

 決して楽という意味ではない。

 やはり大きく重いだけあり、それなりの疲労はのし掛かってくる。


「あれ、綺麗になってる?」


 出入口から外を見た真理は予想していた光景と違ったので首を傾げた。

 昨夜、カテナによって氷塊となって路上へと落下していった感染者。

 それはビルの周辺に落下していったはず。

 きっと、悲惨な有り様になっていると真理は覚悟していた。


「……アレは、危険だから片付けといた」


 拓未は真理の疑問を解消してやる。

 感染者の遺骸。氷漬けになり粉砕されたそれは昨夜の内に処理されていた。

 普通の人間が触れればそれだけで、感染者に成り果てる厄介な代物。

 そんな危険物をビルの周辺に撒き散らし放置なんて考えられない。

 拓未はカテナに頼み込み夜の内に撤去を済ませたのだ。

 そのために深夜に起きたといってもいい。

 その代償として、現状すこし気だるいが真理には黙っておく。


「それじゃ、出発する訳だが……真理、お前のいた施設はどっちだ?」

「え、それは……」


 真理は荒廃した街並みを右に左にと首を忙しなく動かした。


「……わかりません」


 無理もない。

 真理はこの街にたどり着き、拓未に出会うまで必死に逃げ続けてきた。

 その数日間、ほとんど休息はとっておらず精神は摩耗していく一方。

 おかげで残っている記憶は曖昧である。


「木場さん、どうしましょう……」


 何故、こんな初歩的なことに気付かなかったのかと真理は自分を責めた。

 これでは、拓未の善意を無駄にしてしまう。

 少しずつ真理の瞳が潤んでいく。


「そんなことだと思ってたから心配は無用だ」


 拓未は明るい声音で真理に一枚の紙を見せる。


「木場さん、この紙って」

「地図だよ。ここら辺のな」


 拓未はそれを持って真理に説明する。


 現在位置。拓未の住んでいる街は関東地方、とある地方都市の郊外。

 拓未が住む雑居ビルのある商業区画の周囲には住宅地などがあり、その先に一本の国道が存在している。


「この国道、関西方面に向かう道はある理由で途中から寸断されている」


 それはもう綺麗さっぱりだ。

 膨大な熱量を持って焼き切られたかのようになっている。


「しかも、俺が最初に屍体を見たとき、奴等が歩いてきたのは国道の東北方面からだった」


 これにより、目的地は確定する。


「さて、それじゃ改めて出発だ」


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