休息はまだ遠く
子供が数日間、飲まず食わずで歩いて移動出来る距離など、たかが知れていた。
もう世界中どこを探しても舗装されていて、整備が行き届いている道など有りはしない。
経年劣化したことで、ひび割れを起こし、隆起しているアスファルトの道路。
少しの距離を歩くだけで体力は奪われる。
「……わたし、本当にこんな道歩いてこれたんでしょうか?」
真理は息も絶え絶えに疑問を口にした。
拓未が拠点としていた雑居ビルを出て、一時間程度。
距離にして、三キロも進んではいなかった。
時速に換算しても、一般的な人間の平均を下回るスローペースだ。
ただ、これは真理の体力に合わせた速度。
拓未一人であれば倍近い速度で移動が出来た。
「出来てなきゃ、俺には会えてないだろ。だから、良く観察してくれ」
「はい」
国道はずっと直線であり、坂などの起伏もない。
ただ、荒れた路面が歩きづらいだけである。
拓未と真理は隣り合わせ、歩調を揃えて歩く。
その間、拓未は周囲の警戒を、真理は周囲を観察していた。
道路上には廃車がいくつも点在し、焼け焦げていたり、圧し潰されていたりする。
国道沿いに構えられていた飲食店やコンビニエンスストアだったと思しき廃墟が幾つか見つけた。
しかし、どれも真理には見覚えがなかった。
「記憶が曖昧だったとしても、身体だけはしっかり動いてたんだ。瞳を閉じて移動してきたんじゃあるまいし、なにかしら見てるはずなんだよ」
というのは、拓未の言葉。
この言葉に従い真理は周囲をしっかりと観察していた。
どんな些細なことでも良いから思い出せるように。
この国道は真っ直ぐ進むと二つの市街地に出るための分岐路に行きつく。
その分岐路の先、どちらかから真理は来たことになる。
二択なので、どちらかを間違えても引き返しやり直せば良い。
それでも、無駄な時間と労力を省くために真理の記憶を刺激し、正解を選択出来る可能性を上げているというわけだ。
「分岐路までは、このペースだとあと半日くらい掛かるか……」
地図を見ながら拓未は呟く。
いまから五、六時間が必要となると日没をとうに過ぎている。
言うまでもなく、日没を越えての移動には大変な危険が伴う。
今夜はどこかで野営をしなければならないのが確定した。
装備が揃っているので休息を取ること自体は難しくない。
水も食料も充分過ぎるほどあり、一週間は余裕で保つだろう。
問題は場所である。
なるべくなら、屋根のあるところが望ましいと拓未は考える。
「……さて」
国道沿いに何か良い場所は無いかと、地図を確認する。
安全に休息を取るためには、やはり平坦な床と屋根がある方がいい。
屋根があれば、急な天候悪化があっても雨風がしのげ、ゴツゴツとした地面より平坦な床に寝袋を引いた方が質の良い睡眠が可能だ。
だが、なかなかめぼしい場所がない。
国道という大きな幹線道路沿いなので、ご休憩やご宿泊が可能だった特殊なホテルは見つけられた。
しかし、未成年にはまだ早いので却下だ。
それに、そういった大量の個室がひしめき合った閉鎖空間というのは好ましくない。
隠れる場所が多く、安全を確保しづらく、有事の際の脱出には不向きだからだ。
「……となると」
拓未の指が地図上を滑っていく。
現在のペースで日没前にたどり着けて、比較的安全な場所を探して。
「ここしか残ってないか……」
拓未は軽く項垂れ、頭をボリボリと掻き気持ちを切り替えた。
「木場さん、どうかしたんですか?」
その様子は真理に見られていた。
「ん、まぁ、ちょっとな。それよりもどこか見覚えはあったか?」
「……すみません。全然です」
「焦んなくていいし、謝らなくていい。とりあえずは地道に進むしかないしな」
「はい。でも、なにか思い出したらすぐ言いますから!」
「よし、その意気だ。あとちょっと歩けば、今日の休憩地点に着く」
「本当ですか!? わたし頑張ります!」
休憩。という求めていた言葉に真理は張り切って歩き出す。
だが、『あとちょっと』という言葉が示す時間を後に知り、真理は絶望するのであった。




