38.天界の女王
アン女王はヒューとメリルの様子を天界の私室から水晶球を通して見ていた。
せっかく宝物庫からあの魔剣を持ち出して渡してやったのに役に立たない男だ。
くそっ、今度はどうやって葬ってやろうかあの女。
アンはヒューにお姫様抱っこをされて寝室に入っていくメリルに舌打ちして映像を止めると、席を立った。
ドアを開けてもう一度宝物殿に向かう。
今度は対になっている呪いの指輪を持ち出すとそれを私室に持ち込んだ。
この指輪をした男女は必ず女性が死ぬという呪いの指輪だ。
これをあの二人に渡して今度こそあの女を葬ってやる。
アンがニンマリと指輪を見ていると執務室の扉がノックされた。
「何の用?」
「私です。アン女王。お呼びとお聞きしましたので・・・。」
扉の外で元第三王女の伴侶の声が聞こえた。
「入りなさい。」
アン女王の声に衛兵によって開かれた扉から銀色に輝く翼をもったトーマスが私室に入ってきた。
そう言えばここで水晶球を見る前に王宮の侍女に彼を呼ぶように言ったのをすっかり忘れていた。
ちょうどいい。
先程の不愉快な思いを紛らわせるのにはぴったりだ。
アンはトーマスに近寄ると彼の輝く銀色の翼の付け根を撫でた。
すぐに彼はアンを抱き上げると隣室のベッドに彼女を運ぶと覆い被さってきた。
「アン女王。」
熱い声を上げるトーマスを満足げに見たアンはそのままベッドで彼の銀色の翼に手を触れた。
扉の外に控える衛兵は今宵の警護を終えたら歓楽街に行こうと二人とも目線で語り合った。
翌朝、トーマスの胸の上で目を覚ましたアンは自分の体に違和感を覚えて顔に手を持ってきて指に嵌っている指輪に気がついた。
「なんでこれが私の指にあるのよ?」
「大丈夫ですよ、アン女王。」
そう言ってトーマスは自分の手を女王に見せた。
「な・・・なんでお前がこの指輪をしている。」
「なんでって、朝起きたら机の上にトーマスとアンと書かれた指輪があったら、普通恋人からの贈り物だと思うでしょ。」
「なんだと。」
トーマスの話に彼女は自分の指に嵌っている指輪を見た。
表面には確かに”アン”と書かれていた。
自分の胸に置かれている彼の指に嵌っている指輪にも確かに”トーマス”と書かれている。
だが昨日宝物庫から執務室に持ってきた時は、そこには何も書かれていなかった。
なんで。
これは違う指輪なの?
いや今の体の怠さから考えて、それはない。
何とかしてこれを外さなければ死んでしまう。
「いいからこの指輪を外しなさい、トーマス。そうしなければ私という天界の女王がいなくなるのよ。何を考えているの?」
「ああ、それなら問題ありませんよ。あなたの代わりに私の息子と甥があなたの後を継ぎますから。」
「何を言ってるの、トーマス。いいから私を放しなさい。」
アンの命令にトーマスの腕は逆に離さないように強く彼女を自分の胸に抱きしめた。
「大丈夫ですよ。あなたは知らないでしょうがこの指輪は女だけでなく、その指輪をしている両方が死ぬので寂しくないですよ。」
「な・・・なに訳がわか・・・ら・・な・・・い。」
アン女王の体から急速に力が抜けていった。
トーマスは遠い目をしながら彼女が執務でいない時に水晶球を通して見た下界で生きている自分の息子の顔を思い浮かべた。
これで君が母の敵をとる必要はなくなるから安心しなさい。
そして偽りを続けなくなってホッとする自分がいた。
あの世に行ったら妻になんて言い訳しようか。
トーマスは靄がかかる頭でそんな事を考えていた。
その後、執務室でいつまで待ってもやって来ないアン女王を迎えに、侍従と侍女が女王の部屋を訪ねるとベッドで裸で抱き合って冷たくなっているトーマスとアン女王を見つけた。
慌てて侍従が宰相に知らせると駆けつけた彼の命で女王はすぐに病死と発表された。
それから間もなく天界に後継者争いの戦乱が巻き起こった。




