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8  桃色姉妹 前編




 神々は笑いながら、下界の地図を広げていた。


 

「国が増えたもんだな……」



 黒銀の目の友が地図を眺めため息をつく。





      


挿絵(By みてみん)

(*ズードリア大陸マップ)






 「ま、静かに見守ってやるか……」


 シロは息をつき、黒銀の目の友と下界を覗き込んだ。













────そこはエルダードワーフが治める国『ファルダット自由国』。

 


 姉妹が初めて降り立った異国の地。


 そこは常に明るい陽射しに照らされる国。


 雨が降ることはあるが、豪雨になることはほとんど無い。


 広がるのは果てしない砂漠や荒々しい岩山。


 昼と夜の温度差は激しく、夜には気温が零度まで下がることも珍しくない。


 姉妹が生まれ育った国とは、まるで異なる環境で森林は視界のどこにも見当たらなかった────。


 


 


 ふと、姉アカリは独り言をつぶやく。 

     


 「勝手に国を出るって、決めたけど……本当に、大丈夫かしら?」



 眠る妹の横顔を見て眉を顰める。



 彼女は不安を口にする。

 


「私たち、たった二人で……私が、しっかりしなきゃ」



 彼女はそうつぶやき、妹の横で眠れずにいた。


 

 簡素な宿屋の部屋で姉は不安になっていった。


 そんな彼女たちだがこの港町を拠点にすることを決めた。

 そしてゆっくりと動き出す、まるで運命に導かれるように───。



 

 姉妹はギルド支部に通いながら、薬草の採取、弱い魔物の討伐、比較的簡単な依頼を受けるところから始めた。



───ある依頼を受けた時。


 

 姉アカリが薬草を見つめギュッと握る。



「もっとランクを上げなきゃ……!」


 

 顔を上げた彼女の”焦り”、”決意”を感じ取った妹。

 

 ジュリも全力でその背中を追いかけた。


 たとえ厳しい依頼でも二人で乗り越え、冒険者ランクを着実に上げていく。


 



 そんなある日、魔物ゴブリンの集団と戦闘になった───。


 アカリが飛び上がり桃髪を靡かせながら叫ぶ。



「ジュリ、そこで魔法!」



「【ファイラ】!」



ボォ༄༅



「ギャギャ!」

 



 燃えるゴブリン。


 ジュリは魔力(マナ)切れに息を切らせた。


 しかし、姉の思いを理解していた。

 

 ゴブリンを倒しながらついて行こうと彼女は歯を食いしばった────。






◇ 【C級への道】◇ 


 

 一年後。


 冒険を始めて約一年、ついに二人は『C級』ランクの冒険者となった。


 アカリは妹が喜びを抑えきれず、笑顔を浮かべる姿を見つめた。

 

 彼女が小声でつぶやく。


 「ジュリ、心なしか笑顔が増えた気がする……でも、不安だったよね……」


 安堵したのか大きく息をつき、胸を撫で下ろす。


 


 一方で、ジュリは姉の表情を見つめ心に留める。         


 

 「ネーが、やっと笑うようになってくれた」


  

 ジュリは姉に笑顔を見せた。

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、アカリの中で何かが弾けた。


 姉妹がお互い顔を見合わせ、吹き出す。

 

 彼女たちは着実に一歩ずつだが成長していった────。


 


 そんな彼女たちは、朝から夕方まで討伐や採取、時には雑用のような配達もこなし、日々忙しい毎日を送っていた。


 それでも夜になると、姉は【薬学】や【神代魔法】の研究に没頭し、妹は分厚い【魔導書】を手に新たな魔法を学ぶ。



 ふと、笑顔を見せる何気ないアカリの一言。

 

「束縛されない自由っていいわね」


「うん、ネーも気楽でしょ?」


 姉の顔を見ながら揶揄う妹だった。


 

 

 姉妹はそれを楽しむように、前へと進んでいった───。





◇【A級に昇格】◇ 



 さらなる試練───『A級』ランクへの挑戦。


 冒険を始めて、さらに一年と四ヶ月。


 姉妹はついに『B級』ランクに到達した。


 高ランクの魔物を討伐できるようになっていった。



 

 そんなある日、魔物ボルトパイゾンと対峙したジュリ。


「ねじ曲がれ炎、【コークスクリュー・エボリューション】!!」


 "ボォ───ォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅”  


 

 角から毛並みの良い尻尾まで、炎に包まれ焼かれていく。


 彼女は爆裂系統の魔法に特化し、A級魔物を一撃で倒せるほどに成長していた。

   


 この時のジュリだが、心境は複雑に揺れ動いていた。    


 

 (ネー、驚いてる。でも、わたしをかばって、あんな怪我を……)

 

 

 胸を痛めるジュリだった。


 ジュリは姉に負担をかけまいと、新たな魔法を覚え使いこなしていった。




 数日経ったある日。


 『A級』ランクに上がるため、姉妹は他の冒険者とパーティーを組んだ。


 彼女たちはダンジョンに挑む。


 緊張した空気が流れ、姉妹たちはダンジョンを進んでいった。


 しかし、その道のりは険しいものだった。


 各階層ボスに手を焼くものの、結果は───見事ダンジョンクリアに成功。


 姉妹は喜びあい抱き合う。




───ファルダット自由国のギルド支部。


 

 受付嬢が「『A級』ランク、おめでとうございます。こちらをどうぞ」と、姉妹に差し出す。

 

 

 ジュリも私も……これで、もう大丈夫……と、そっと金色のカードを見つめ、アカリは安堵の涙を流す。



 アカリの髪が風に靡く。

 それはまるで美しい桜の花びらが散るようだった。

 

 

 姉の涙を見ながらジュリもまた、心に固めた決意を胸に秘めていた。

  

      

(ネー、辛かったね、ここまでの道のり。でもね、ナガラ兄様はきっとどこかで見てるよ)


 

 そう思う彼女は瞳にかすかな涙を浮かべた。


 

 姉妹の表情は儚げだったがその目には、希望が満ちていた。


  

 


*** 

 


 


 丁度その頃、天界で覗く黒銀の目の友が口を開く。



「彼女たち、兄を見つけられるのかっ!」


 横で下界を眺めるシロの肩を叩く。



「大丈夫だろ、希望はあるぞ。あれを見てみろ!」


 

 シロの目には姉妹の眼差しは明るく輝いて見えた。


 


*** 





 神々が眺める中───アカリが涙を拭い口を開く。


「ジュリ、この国を出るわよ……」


 彼女は髪をかき揚げ、振り向く。


 

 

 その時、目の前に映る新鮮な世界に彼女が微笑む。  


 それはまるで、彼女自身の内なる高揚感を表すようだった。



 一方、姉の様子を見てジュリは思う。

 

 ”何か大切なことが待っている”と、姉から強く伝わってくる。

 

 それは彼女の内に秘めた闘争心に他ならなかった。


 

 

 ジュリがギュッと杖を握り、小さくつぶやく。



「……絶対見つけてやるんだから……覚悟してね、ナガラ兄様」


 

 彼女は目を細め、頬を膨らませる。

 


 

 この時だった。

 

 ジュリの表情には強い意志が感じられた。


 アカリも軽く頷き、彼女たちは一歩前に踏みだす。


 目的の養子の兄ナガラを探す旅へ───。


『ファルダット自由国』を出て、他の国へ冒険に出る姉妹だった───。






◇【兄を追って】◇ 


 

 箒が飛び交う空が澄み渡る。


 ズーラシア大陸の南の国、『カルディア魔法国』のバカルデュという大きな街で、手がかりを探していた。

 

 

 探している兄の弟子───『ゴクトー』という人物の噂を聞いた姉妹。



 


「その弟子の事……詳しく教えて欲しいですわ……」


「そう色っぽく言われてもな……」


 色仕掛けで艶しく情報を引き出そうとするアカリだった。




「ちょっと───っ!ホントに知らないの──っ!」


「うるせえな!わめくな、知らねってばよッ!」


 

 正反対にわめき散らすジュリだった。



 しかし、それ以上の情報は得られなかった。


 姉妹が肩を落として大きく息をついた。


 

 その瞬間───


 ジュリは姉の表情が変わったのを見逃さなかった。




「兄様が優しく教えてくれた、剣術姿が目に浮かぶの……」



「あの笑顔を……もう一度この目で見たい!」



 アカリがますます想いが募る抑揚を見せる。


 

 次の瞬間、ジュリがアカリの手を掴んだ。



 「ネー、行こう!」

 

 

 にっこりと姉に向かって笑うジュリ。

 

 

 

 こうして、姉妹は新たな冒険の旅へ出発した────。






◇【北方遠征】◇ 



 

 その後も姉妹は旅を続け、各地で依頼をこなしながら、少しずつ北へと進む。


 峡谷に跳ね返される眩しい黄金の光、冷たい風が吹き抜ける。


 旅を続ける姉妹は、獣人が治める国『フィルテリア』に数日滞在した後、国境を越えていく──。


 


 旅の途中のある晩。


 

 姉妹はウサギを数羽捕まえ、野営の準備を始めた。



チチチ


 

 崖の巣の上で魔物ロック・バードの雛の鳴き声がする。

 



パチッ



 薄墨色の夕暮れ、冷たさを増す風が焚き火の炎を揺らし、二人の影を長く伸ばす。



 ジュリが焚き火をじっと見つめ口を開いた。



「……ネー、なかなか掴めないね……兄様と弟子のこと」


 

 彼女は肩をすくめ、ため息をついた。


 

 妹の表情に不安が滲んでいる、と察するアカリだった。


 払拭するかのようにアカリが口を開く。



「ジュリ、あなたはせっかちね。……心配いらないわ、必ずナガラ兄様の話はどこかで聞けるはずだから……」


 

 彼女はかすかに口角をあげ微笑む。



(ここまでは、なんとか来た。でも、獣人の長老、……オブニビアさんの言葉が気になる)

 

 

 その表情にはどこか不安が混じっていた。


 胸の痛みとともに、刺すような風がアカリの頬を撫でた。



 

 それでも彼女たちは諦めずに旅を続けた。


 姉妹は新しく覚えたスキルや【魔法】も試していく。



 ふと、ジュリがつぶやく。


 「新緑の木々、まるで大地の匂いね」


 彼女が悪戯っぽい表情を姉に向けた。

 


 エルフが治める『マヌエル』の森林地帯を何とか抜け───北上を続ける姉妹。





だが── 


 あれ以来『ナガラ』と『ゴクトー』の噂は、一切聞けはしなかった───。






◇【ゴマ・ケル区街】◇



 旅を続ける姉妹がたどり着いたのは、エルダードワーフが治める『ゴマ』という国。


 いくつもの鍛冶屋から怒鳴る声が聞こえ、喧噪が後を経たない。

 

 立ち込める金属が溶けるけるような蒸気が漂う。


 この大きな街、『ケル区街』の拠点に、兄探しの活動を始めることにした。


 

 


───冒険者ギルド支部。



 姉妹たちが受付で素っ気なく話す。



「これは見事。 A Aランク指定魔獣、ウルボルトの討伐ご苦労様でした」



「解体をお願いします。肉はいただきますわ。残りは買い取りで」



 ギルド職員の蝶ネクタイをする小さなエルダードワーフは、アカリの言葉に頷く。

 

 

 その時、一人の冒険者が隣の男の耳元で囁く。



「おい。あの二人って『A級』依頼達成率ナンバーワンの……」



 それがきっかけのようにギルド内がざわつき始める。



 

「美人の姉妹だっぺ……異国の冒険者だべな?」


 「どんな依頼もこなすっていう凄腕の?」


 「ああ、間違いねぇ……桃色姉妹だ」


「おお、あれが……色っぺぇねえちゃんだちだな、おい!」


「お前ら、知らねえのか……?ありゃ桃色姉妹だ……下手なこと言うもんじゃなえぞ、お前、明日にはお釈迦になってるぞ……」


「ひぃ─── そ、そ、そりゃ逃げるしかないっぺ!」



 

 彼女たちは知らないうちに、二つ名で呼ばれるようになっていた。


 ギルド支部の往復を続ける姉妹は、いつしか噂の的になっていった───。


 

 


 

 数日後。



『ケル区街』のギルド支部の酒場で耳にしたのは─── 



「アドリア公国に新しいダンジョンが出現したらしいぞ」


「ああ、それな。そのダンジョンってのは、B級以上の冒険者奨励らしいな」


「そのダンジョンってなもし、何階層まであるんか……? まだわかって無いらしいんやろ」


「ダンジョンってぇのは…すんごい、お宝が眠っとるんやろね?……七星の武器とか……」


「命を落とす冒険者も、いるって聞くぜ?」


「ダンジョンと言えば…… 『メデルザード王国』と『カイド』の国境に、あのダンジョンもあるよなぁ……?」


「ああ...あのダンジョンか……『SS級』に認定されたあのナガラのパーティーが   攻略した……最難関と言われてる、ダンジョンだろう……?」



 


 久しぶりに聞いた『ナガラ』の名前に姉妹は目を輝かせた。



 この瞬間、ジュリが両手を掲げアカリを見つめた。



「行くしかないっしょ!ネー!」


 

 彼女の表情は明るかった。


 




 その夜。


 アカリの夢に響いた、声なき声。



 「七星が揃う時、肉が裂ける。

 選ばれし姫よ、刃を向けるは……血を分けた者かもしれぬ……」



 アカリは唇に手をやり肩が震える。



「何だったの……今の夢……」



 アカリはつぶやくと頬を引き締めた。



 だが、ジュリはその横で安らかに寝息を立てていた───。











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