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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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桃色姉妹 前編

 



 神々は笑いながら、下界の地図を広げていた。



「国が増えたもんだな……」



 黒銀の目の友が地図を眺めため息をつく。







 挿絵(By みてみん)

(*ズードリア大陸マップ)






「ま、静かに見守ってやるか……」


 シロは息をつき、黒銀の目の友と下界を覗き込んだ。







 ***







 ────そこはエルダードワーフが治める国『ファルダット自由国』。



 姉妹が初めて降り立った異国の地。

 そこは常に明るい陽射しに照らされる国。

 雨が降ることはあるが、豪雨になることはほとんど無い。

 広がるのは果てしない砂漠や荒々しい岩山。


 昼と夜の温度差は激しく、夜には気温が零度まで下がることも珍しくない。


 姉妹が生まれ育った国とは、まるで異なる環境で森林は視界のどこにも見当たらなかった。



 ふと、姉アカリは独り言をつぶやく。 


「勝手に国を出るって、決めたけど……本当に、大丈夫かしら?」


 眠る妹の横顔を見て眉をしかめる。

 彼女は思わず不安を口にする。


「私たち、たった二人で……私が、しっかりしなきゃ」


 そうつぶやき、妹の横で眠れずにいた。

 簡素な宿屋の部屋で姉の不安はピークになっていた。


 そんな姉は不安を抱えながらも、この港町を拠点にすることを決めた。

 そして運命はゆっくりと動き出す、まるで導かれるように───。



 ***


 姉妹はギルド支部に通いながら、薬草の採取、弱い魔物の討伐、比較的簡単な依頼を受けるところから始めた。



 ───ある採取依頼を受けた時。もちろん安価な依頼だ。

 しかし、容易くクリアできる依頼でもなかった。


 姉のアカリは薬草を見つめ、涙ながらにそれをギュッと握る。


「もっとランクを上げなきゃ……!」


 顔を上げた彼女の”悔しさ”、”決意”を感じ取ったのは妹。


 妹のジュリも全力でその背中を追いかけよう、と。

 少なからずも姉の足枷にはなるまいと、そう心に誓っていた。


 たとえ厳しい依頼でも乗り越え、彼女は冒険者ランクを着実に上げていく。



 冒険者になってまだ日も浅いある日、魔物ゴブリンの集団と戦闘になった。


 アカリが飛び上がり桃髪を靡かせながら叫ぶ。


「ジュリ、そこで魔法!」


「【ファイラ】!」


 ボォ༄༅



「ギャギャ!」



 ジュリの魔法で燃えるゴブリン。

 だが、ジュリは魔力(マナ)切れに息を切らせていた。


 しかし、姉の思いも理解していた。


 ゴブリンたちを倒したが、実力はまだ姉には及ばない。

 妹は歯を食いしばってーー必死について行こうとしていた。





 ◇ 【C級への道】◇ 




 冒険を始めて約一年、ついに二人は『C級』ランクの冒険者となった。


 妹が喜びを抑えきれず、笑顔を浮かべる姿を姉のアカリは見つめていた。


 アカリが小声でつぶやく。


「ジュリ、心なしか笑顔が増えた気がする……でも、不安だったよね……」


 安堵したのか大きく息をつき、胸を撫で下ろす。

 しかし、その瞳にはうっすらとした涙が潤んでいた。



 一方で、ジュリは姉の表情を見て心に留める。         


 ネーが、やっと笑うようになってくれた……。


 思いながらジュリは姉に笑顔を見せた。

 その言葉を聞いた瞬間、アカリの中で何かが弾けた。


 姉妹がお互い顔を見合わせ、吹き出す。


 彼女たちは着実に一歩ずつだが成長していった────。


 そんな彼女たちは、朝から夕方まで討伐や採取、時には雑用のような配達もこなし、日々忙しい毎日を送っていた。


 それでも夜になると、姉は【薬学】、【神代魔法】の研究に没頭し、妹は分厚い【魔導書】を手に新たな魔法を学んでいる。


 ふと、笑顔を見せる何気ないアカリの一言。


「束縛されない自由って、いいわね」


「うん、ネーも気楽でしょ?」


 姉の顔を見ながら揶揄う妹だった。


 姉妹はそれを楽しむように、前へと進んでいった───。





 ◇【A級に昇格】◇ 



 さらなる試練───『A級』ランクへの挑戦。


 冒険を始めて、さらに一年と四ヶ月。


 姉妹はついに『B級』ランクに到達した。

 冒険者のランクから言えば、高ランカー。依頼も日に日に増えていく。

 彼女たちはそれでも、依頼をこなしギルドからも信頼を得ていった。

 すでに、高ランクの魔物をも討伐できるようになっていた。


 そんなある日、『A級ランク指定討伐魔物』ボルトパイソンと対峙した。

 山小屋のような大きさで、牛のような角を持つ魔物だ。

 その皮膚は硬質で刃物が役に立たないことから、『A級ランク指定討伐魔物』としてギルドに登録されてる厄介な魔物だ。

 普通ならBランク冒険者が4〜5人でパーティーを組み討伐にあたる。もちろん剣士、魔導士、治癒師は少なくともパーティーにはいなければ、到底この魔物は倒せないのである。


 しかしーーこの時アカリとジュリは二人きり。

 それでもジュリは意識を集中し、魔力(マナ)を高め詠唱する。


「ねじ曲がれ炎、【コークスクリュー・エボリューション】!!」


 "ボォ───ォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅”  


 角から毛並みの良い尻尾まで、ボルトパイソンが炎に包まれ焼かれていく。


 彼女は爆裂系統の魔法に特化し、A級指定の魔物を一撃で倒せるほどに成長していた。

 けれど心境は複雑に揺れ動いていた。 

 それはジュリが詠唱を唱える間、アカリが囮となり、 ボルトパイソンを巧みに惹きつけていたからだ。  


 (ネー、驚いてる。でも、わたしをかばって、あんな怪我を……)


 胸を痛めるジュリだった。

 姉に負担をかけまいと、必死に新たな魔法を覚え、使いこなしていった。


 数日経ったある日。


 ギルドから推薦されるように『A級』ランクに上がるため、姉妹は他の冒険者とパーティーを組んだ。


 彼女たちはダンジョンに挑む。


 緊張した空気が流れる中、姉妹たちは魔物を次々と倒し、ダンジョンを進んでいった。

 しかし、その道のりは険しいものだった。

 各階層ボスに手を焼くものの、結果───見事ダンジョンクリア。


 姉妹たちのパーティーは、喜びあい抱き合うのだった。



 *


 ───ファルダット自由国のギルド支部内はざわついていた。

 それもそのはず、たった4人のパーティーがダンジョンをクリアしたのである。しかも女子4人で体格もさほど良くはなく、見かけはどう見ても華奢な方だ。


「マジかよ」

「信じられねぇ」 


 体躯の良い冒険者たちが口々に囁く。

 しかし、姉妹たちのパーティーは気にも止めず、受付に向かう。


 受付嬢が「『A級』ランク、おめでとうございます。こちらをどうぞ」と、姉妹に差し出す。


 ジュリも私も……これで、もう大丈夫……。


 と、そっと金色のカードを見つめ、アカリは安堵の涙を流す。

 彼女の桃色の髪が風にはらりと靡く。

 それはまるで、美しい桜の花びらが舞うようだった。


 姉の涙を見ながらジュリもまた、心に固めた決意を胸に秘めていた。


(ネー、辛かったね、ここまでの道のり。でもね、ナガラ兄様は、きっとどこかで見てるよ)



 そう思う彼女にもかすかな涙が光っていた。

 姉妹の表情は儚げだったがその目には、希望が満ちていた。



 


 *** 





 丁度その頃、天界で覗く黒銀の目の友が口を開く。


「彼女たち、やったな。さすがシロの末裔だ」


 横で下界を眺める神シロの肩を叩く。


「もう大丈夫だろう、あれを見てみろ!」



 シロの目には姉妹の眼差しは、明るく輝いて見えた。




 *** 





 神々が眺める中───アカリが涙を拭い口を開く。


「ジュリ、この国を出るわよ……」


 彼女は髪をかき揚げ、振り向く。

 目の前に映る新鮮な世界に彼女が微笑む。  


 それはまるで、彼女自身の内なる高揚感を表すようだった。


 一方、姉の様子を見てジュリは思う。


 ”何か大切なことが待っている”と。

 姉から強く伝わってくる。それは強い絆で結ばれてる姉妹だからこそわかる芸当。彼女たちの内に秘めたスキルに他ならなかった。


 ジュリがギュッと杖を握り、小さくつぶやく。



「……絶対見つけてやるんだから……覚悟してね、ナガラ兄様」



 彼女は目を細め、頬を膨らませる。

 その表情には強い意志が感じられた。


 アカリも軽く頷き、彼女たちは一歩前に踏みだす。


 目的の養子の兄ナガラを探す旅へ───。


『ファルダット自由国』を出て、他の国へ冒険に出る姉妹だった───。






 ◇【兄を追って】◇ 



 箒が飛び交う空が澄み渡る。


 ズーラシア大陸の南東の国、『カルディア魔法国』のバカルデュという大きな街で、手がかりを探していた。


 探している兄の弟子───『ゴクトー』という人物の噂を聞いた姉妹。



「その弟子の事……詳しく教えて欲しいですわ……」


「そう色っぽく言われてもな……」


 色仕掛けで艶しく情報を引き出そうとするアカリ。

 一方で、


「ちょっと───っ!ホントに知らないの──っ!」


「うるせえな!わめくな、知らねってばよッ!」


 正反対にわめき散らすジュリ。



 しかし、それ以上の情報は得られなかった。

 姉妹は肩を落として大きく息をつく。

 その瞬間───ジュリは姉の表情が変わったのを見逃さなかった。


「兄様が優しく教えてくれた、剣術姿が目に浮かぶの……あの笑顔を……もう一度この目で見たい!」


 アカリの想いが募る一言。彼女は内なる抑揚を見せる。

 ジュリがアカリの手をそっと掴む。


「ネー、行こう!」


 にっこりと姉に向かって笑う。


 こうして、姉妹は新たな冒険の旅へ出発した────。



 ◇【北方遠征】◇ 




 その後も姉妹は旅を続け、各地で依頼をこなしながら、少しずつ北へと進む。


 峡谷に跳ね返される眩しい黄金の光、冷たい風が吹き抜ける。


 旅を続ける姉妹は、獣人が治める国『フィルテリア』に数日滞在した後、国境を越えていく──。


 旅の途中のある晩。

 姉妹はウサギを数羽捕まえ、野営の準備を始めた。


 チチチ


 崖の巣の上で『B級指定魔物』ロック・バードの雛の鳴き声がする。

 成長したロック・バードは、およそ人間の身長の3倍はある、大きな翼が特徴の魔物だ。



 パチッ


 薄墨色の夕暮れ、冷たさを増す風が焚き火の炎を揺らし、二人の影を長く伸ばす。

 ジュリは焚き火をじっと見つめていた。


「……ネー、なかなか掴めないね……兄様と弟子のこと」


 言いながら彼女は肩をすくめ、ため息をついた。


 妹の表情に「不安よね」と答えるアカリ。

 だが、それを払拭するかのようにアカリが口を開く。


「ジュリ、あなたはせっかちね。……心配いらないわ、必ずナガラ兄様の話はどこかで聞けるはずだから……」


 アカリはかすかに口角をあげ微笑む。


(ここまでは、なんとか来た。でも、獣人の長老、……オブニビアさんの言葉が気になる)


 その表情にはどこか不安が混じっていた。


 胸の痛みとともに、刺すような風がアカリの頬を撫でた。

 そして夜は更けていった。



 ***


 それでも彼女たちは諦めずに旅を続けていた。

 姉妹は新しく覚えたスキルも試していく。


 そんなある日のこと。

 ふと、ジュリがつぶやく。


「新緑の木々、まるで大地の匂いね」


 彼女が悪戯っぽい表情を姉に向けた。

 エルフが治める『マヌエル』の森林地帯を何とか抜け───北上を続ける姉妹。




 だが── 


 あれ以来『ナガラ』と『ゴクトー』の噂は、一切聞けはしなかった───。






 ◇【ゴマ・ケル区街】◇



 旅を続ける姉妹がたどり着いたのは、エルダードワーフが治める『ゴマ』という国。ズードリア大陸では北東に位置する国。


 いくつもの鍛冶屋から怒鳴る声が聞こえ、喧噪が後を経たない。


 立ち込める金属が溶けるけるような蒸気が漂う。


 この大きな街、『ケル区街』の拠点に、兄探しの活動を始めることにした。



 ───冒険者ギルドケル区街支部内。



 姉妹たちは受付で素っ気なく話す。


「これは見事。 Aランク指定魔物、ウルボルトの討伐、ご苦労様でした」



「解体をお願いします。肉はいただきますわ。残りは買い取りで」



 蝶ネクタイをする小さなエルダードワーフのギルド職員は、アカリの言葉に頷く。


 その時、一人の冒険者が隣の男の耳元で囁く。



「おい。あの二人って『A級』の。それも依頼達成率ナンバーワンの……」



 それがきっかけで、ギルド内がざわつき始める。



「美人の姉妹だっぺ……異国の冒険者だべな?」


「どんな依頼もこなすっていう凄腕の?」


「ああ、間違いねぇ……桃色姉妹だ」


「おお、あれが……色っぺぇねえちゃんだちだな、おい!」


「お前ら、知らねえのか……?ありゃ桃色姉妹だ……下手なこと言うもんじゃなえぞ、お前、明日にはお釈迦になってるぞ……」


「ひぃ─── そ、そ、そりゃ逃げるしかないっぺ!」




 彼女たちは知らないうちに、二つ名で呼ばれるように。

 ギルド支部の往復を続ける姉妹は、いつしか噂の的になっていた。



 ***



 数日後。



 『ケル区街』のギルド支部の酒場で耳にしたのは─── 



「アドリア公国に新しいダンジョンが出現したらしいぞ」


「ああ、それな。そのダンジョンってのは、B級以上の冒険者奨励らしいな」


「そのダンジョンってなもし、何階層まであるんか……? まだわかって無いらしいんやろ」


「ダンジョンってぇのは…すんごい、お宝が眠っとるんやろね?……七星の武器とか……」


「命を落とす冒険者も、いるって聞くぜ?」


「ダンジョンと言えば…… 『メデルザード王国』と『カイド』の国境に、あのダンジョンもあるよなぁ……?」


「ああ...あのダンジョンか……『SS級』に認定されたあのナガラのパーティーが   攻略した……最難関と言われてる、ダンジョンだろう……?」





 久しぶりに聞いた『ナガラ』の名前に姉妹は目を輝かせた。

 この瞬間、ジュリが両手を掲げアカリを見つめた。


「行くしかないっしょ!ネー!」


 彼女の表情は明るかった。



 ***



 その夜。


 アカリの夢に響いた、声なき声。


「七星が揃う時、肉が裂ける。

 選ばれし姫よ、刃を向けるは……血を分けた者かもしれぬ……」


 思わず唇に手をやり、肩が震える。


「何だったの……今の夢……」


 そうつぶやくと頬を引き締めた。



 だが、その横でジュリはそれを知らぬまま、安らかに寝息を立てていた───。















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