姉妹冒険への第一歩!
「動き出したぞッ!」
黒銀の目の友がシロの肩を叩く。
「これは語らねばなるまい」
神シロは額に筋を入れながら下界を覗きこんだ。
***
(*ズードリア大陸でのヤマトの位置)
『ヤマト』は島国であり、大陸に渡るには貿易船に頼るしかない。
アカリは『巫代家』と取引のある、ダークエルフのグリッド船長に懇願した。
グリット船長に詰め寄るアカリ。
「ねぇお願い……」
彼女が懇願しながら髪を耳にかけ、見上げる。
「お姫様方、勘弁してください! 『巫代家』の姫を連れ出せば、私の商売が……私にも、双子の娘が……命が危うい!」
怯えるグリッド船長を見つめ、静かな微笑みを浮かべる。
だが、グリッド船長の話など気にも止めず、少しだけ首を傾げ、アカリがあっけらかんと言い放つ。
「心配いらないわ。『巫代家』には、カヤノ叔母上がいるから大丈夫よ」
表情は変えずに、すっと目だけを細めた。
結局、大層な額の『大判金貨』を渡され、折れたグリッド船長は姉妹を船に乗せることを承諾した。
***
潮風を受けながら貿易船は、大陸を目指して進む。
海の魔物に襲われることもあったが、腕利きの船員達の奮闘、姉妹の活躍で切り抜けた。
「ここは後ほどな、長くなる。わかるだろ?ククク」
天界から覗く、シロは笑っていた。
***
ーー数日後。
(*ファルダット自由国の位置)
ついに姉妹はダークエルフが治める国、『ファルダット自由国』の港町に到着した。すぐにグリッド船長に『冒険者ギルド』の支部へ案内して貰うことにした。
ーー初めて訪れる『冒険者ギルド』。
姉妹は興奮と緊張が入り混じった表情を浮かべる。
船長も彼女たちに付き添い、ギルド支部の入口を3人でくぐる。
その瞬間、内部の喧騒と独特な空気に姉妹は圧倒された。
土埃が舞い、酒や葉巻の匂いが入り混じる。
初めてのギルドに緊張しながら、姉妹は板張りの床を歩いた。
あちらこちらで、装備を整える冒険者達が目に飛び込んでくる。
3人はカウンターに近づく。受付に立つ、制服を着る女性が にこりと微笑む。
彼女に向かって、アカリが一歩前に出る。
「冒険者登録、お願いしたいのですが……」
声は上擦り、緊張した様子で顔も堅い。
その言葉に受付嬢は慣れた手つきで、引き出しから一枚の魔法紙を取り出した。そして穏やかな表情で唇を動かす。
「こちらに、必要事項をご記入ください」
一瞬間が開いたが、グリッド船長が即座に前に出る。
「姫様方、ここは私にお任せください!」
彼は得意げに、手慣れた様子で魔法紙にペンを走らせていく。
姉妹がその様子を見守り、周囲を興味津々に見渡す。
内部の掲示板に貼られた依頼書の数々、調度品が目を引く。
空気には魔力の粒子が舞い、まるで活力が息づいているかのよう。
しばらくして、受付嬢が声を出し姉妹が呼ばれる。
「アカリ・ミシロさん、 ジュリ・ミシロさん、 お待たせしました。 登録が完了しました」
視線の先、彼女がニコッと微笑みながら「お二人の冒険者カードです」と、スッと二枚差し出した。
姉妹は手に取り『冒険者』カードを眺める。
「簡素なものね」
「ちぇー、……錆びた鉄色」
姉妹たちが仏頂面で、顔を上げると受付嬢と目が合う。
口元を緩める受付嬢が丁寧に説明を始めた。
「お二人のランクは『F級』です。最初は薬草の採取や小型の魔物討伐、その他、雑用が主な依頼となります。E級への昇格も、同様の依頼をこなしていただくことになります」
流れるような早口に姉妹は小さく頷く。
「……なるほど、これが、最初の一歩というわけね」と、カードを見つめつぶやき、アカリが少し眉を寄せる。
ジュリも同様にカードを眺め、肩をすくめた。
心の奥底で、ジュリは小さな不安を抱え姉を見る。
だが、アカリはすぐに微笑み、力強くカードを握りしめる。
「ジュリ、これでようやく『冒険者』になれたわ! さあ、ここからが本番よ!」
明るい声で言う姉にーージュリも思わず笑みを零した。
今更、もう後には引けない彼女たち。
アカリとジュリが笑いながらギルドの外に出ようとしたーーその時。
視界が歪んだ。
金属の軋むような音とともに、アカリの耳に“何か”が囁いた。
「……七星が揃う時、血が流れる」
「選ばれし肉食の姫よ……刃を向けるは、愛しき者かもしれぬ……」
アカリは思わず足を止める。
耳鳴りのように残る声は、ジュリには聞こえていない様子。
「……いまのは、いったい……?」
背筋を伝う、名状しがたい寒気。
明るく始まった異国での冒険にほんの一筋、不吉な影が差した。
汗まみれの笑顔を作る、彼女の胸中を妹は知らない。
だが、アカリは息をつき、あっけらかんとつぶやく。
「暑い……ジュリ、この国、暑すぎない?」
アカリは扇子で仰ぎながらギルド支部の椅子に腰を下ろす。
彼女は黒い着物の胸元を大胆に引き下げ、美脚を組んだ。
(*アカリのイラスト)
その艶っぽい仕草にーー周囲の冒険者たちも目を奪われていた。
いやらしい男どもの視線など、まるでお構いなし。
「ジュリ、私たちの格好、目立ち過ぎるわ。
着替えましょう」と。
アカリは船長にウィンクを送りつつ、街へ向かう準備を整える。
見ていたジュリが、ふと小言を落とす。
「ネー、胸と脚を自慢してるの?」
そう言いながら、悪戯っぽい目でジュリが微笑む。
その小言にアカリは目尻を下げ、口元を緩めた。
「さあ、どうかしら?」
彼女の性格通り、あっけらかんとジュリに答えたのだ。
姉妹は「ゲラゲラ」と笑い、「行こう」と声を大にしながら、冒険の第一歩を踏み出していった。
広大な異国の地で姉妹を待ち受ける運命は、まだ誰にもわからないーー。
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*文中補足
『大判金貨』はヤマトで流通する貨幣。
ズードリア大陸では金貨10枚相当の価値。
*ズードリア大陸の貨幣は価値。
銀貨一枚の価値:銅貨10枚と同等。
金貨一枚の価値:銀貨30枚と同等。
白金貨の一枚の価値:金貨10枚と同等。
ここまでお読みくださりありがとうございます。




