表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/64

宿命の姉妹

 



「おい、シロ、お前と同じ桃髪だぞ!」


「ん?」


 不思議に思いながらも神シロは、黒銀の目の友と下界を覗いた。





 ***





 ーーその頃。



 ヒドラの騒ぎで大混乱してる『トランザニヤ』。

 その小国、北部の深い森の中、霧に包まれた山の洞窟でのこと。


 破れた黒いマントをまとう、大柄な男が横たわっていた。

その男、顔は焼けただれ、口髭も焦げ、腹から血を吹き出し、さらに前歯が四本も欠けていた。瀕死の状態でもはや虫の息。


「うぅ……」


 その男が絞り出すように呻く。

 男の意識は徐々に薄れていった。



 一方、傍で声がする。その声は柔らかくどこか透き通る響き。


「【エクストラ・ヒール】、もう一度!【エクストラ・ヒール】!!」


 緑色の柔らかい癒しの光が、その男を包み込む。


 一つの黒い影が杖を握り、【治癒魔法】を唱えていた。


 その影の主の視界は魔力(マナ)の消耗により薄れ、杖を握る手が震える。

 それでも男を救うため、何度も【エクストラ・ヒール】をかけ続けた。

 

 次の瞬間、眩しいほどの陽の光が洞窟に差し込んだ。

 手をかざすその黒い影の主。


「これで命は繋がったわね……」


 つぶやきながら、その影の主は一息ついた。


 洞窟の中に緑陽の爽やかな風が舞い込み、その正体があらわになるーー桃色の、ポニーテールに束ねた髪がさらりと靡く。


 その黒い影の主は、黒のレザーキャップを目深に被った。 


 翻した漆黒のローブから白い腕が伸びる。

 華奢な腕、艶やかな肌、細い指、美しい爪、それは決して男のものではなかった。

 その女性は、青い宝玉付きの金の杖を巧みに操る。


 男を見る彼女の瞳が加減一つで、赤や碧に見える。

 魔法を繰り出すその姿は、息を呑むほど神秘的で美しい。

 けれど、彼女はキュートな『魔導士』だった。


 ”芥子(けし)柄”のハンカチで額の汗を拭きながらポツリ。

 

 「薬が必要ね……」と。

 

 片眉を上げ、彼女はにっと笑った。

 そして腰に下げた*『万能巾着』から小瓶を取り出し、薄黄緑の液体をためらいもなく一気に飲み干す。


「ふぅ……魔力が回復したわ……」


 急に真面目な顔になり、じっと男を見つめる。


 次の瞬間、彼女は大きく息を吸いこむ。

 頬がプクッと膨らんだその刹那、空気がかすかに震えた。


「【アストラル・ゲート】!」


 唱えたと同時に白い魔法陣が展開し、空気が軋む音が響く。

 眩い光が彼女の身体を包み、やがて金の杖に集束する。


 杖の先端が光を放ち──魔法陣から【門】が浮かび上がる。


「【フローター・レヴィ】!」


 続け様、彼女が唱えると黒いマントの男が宙に浮き、門の中へ吸い込まれていく。


 彼女も迷わずその【門】をくぐったーー。



 ***




 神シロはその様子を一部始終見ていた。シロは思考を巡らせる。

 

 その愛らしい外見からは想像もつかぬーー凄腕の『魔導士』だ。


 超高度な魔法。


 それに膨大な魔力量を駆使し、*【多重魔法】を何の迷いもなく、驚くほど軽々と無意識に操ってのけるとはーー。


「名も知らぬ男の命を救うために、その力を惜しみなく使うか……この子がここまでやるか……」


 つぶやく神シロの顔には、笑みがこぼれていた。



 *** 



 桃色の髪の女性が、研究室で乾燥した薬草を石臼で擦っていた。


 彼女の名前はアカリ・ミシローー天上で見守る神シロの末裔。


 粉末になった薬草の爽やかな香りがふわりと部屋に広がる中、ふと感じたのは【膨大な魔力】の波動だった。



「ん……?」



 アカリはその【膨大な魔力】の波動に覚えがあり、思わず手を止め身構える。

 居間が急に明るくなり、空間が歪み白い魔法陣が突如として現れる。

 やがて、 【門】から見知らぬ男が浮かび上がった。


「……な、なに……?」


 アカリの心臓は跳ね、息が止まった。

 目の前で、白い魔法陣から、誰も知らぬ男の姿がゆっくりと浮かび上がる。

 その瞳には、どこか懐かしい光が宿っていたーーだが、確信は持てない。


 「……この人、一体……?」


 門を潜った女性は焦りで言葉がうわずっていた。


「ネー! ネー! ネーってば!! この人を治す薬を調合して!!」


 叫び声とともに現れたのはーートランザニヤの洞窟にいたキュートな魔導士。


 ーージュリ・ミシロ、少し歳の離れたアカリの妹だった。


 挿絵(By みてみん)

(*ジュリのイラスト)



 手を振り上げて、大げさな身振りで彼女は語る。

 汗を掻きながら必死な表情でアカリに頼んだのだ。


「ジュリ……あなたは、いつもせっかちね」


 アカリの肩から力が抜け、思わず息をついた。

 でも心の奥では、小さな不安がまだくすぶっていたーー果たして、この人は本当に大丈夫なのか、と。

 ジュリが髪を耳にかけながら、静かにつぶやく。


「……どうなの……?ネー……この人って助かる?」


 そう言いながらジュリは、大柄な男を客室のベッドに寝かせた。


 一瞬、目を開き黒いマントの男が譫言(うわごと)のようにつぶやく。


「…アン……ド……兄……の匂い……」


 その言葉を聞いた瞬間、姉妹は困惑する。

 アカリが顎に指を添えて、推理を巡らせる。


「誰のことだろう……この人、異国の人よね……」


 言いながら彼女は棚にある薬瓶を掴み、すぐその男に飲ませた。


「今晩が峠ね……あとはこの人次第……」


 アカリは彼の喉元に手を当て、真剣な表情を見せる。


 一方、連れてきたジュリはため息をつき、微かに唇を噛んだ。



 マントの男が寝落ちする。

 見届けた姉妹は静かに客室を出た。



 ***


 

 アカリはキッチンで煎茶を淹れ、茶菓子を置きソファに座った。


 ジュリがくすっと笑って、アカリの腕に寄りかかる。


 二人は熱いお茶を飲みながら話を始めた。


「それにしても、二年と九ヶ月もかかったわ……はいっ」


 ジュリは不満げな顔で小さな布袋をアカリに投げる。


「っしょ!」

 

 アカリが素早くキャッチーー「ジュリなら見つけられる、そう思っていたわ」


 そう言いながら彼女は満面の笑みを浮かべた。


 すぐ、アカリは布袋の中身を確かめる。


 瞬間、顔に驚きと喜びの両方を浮かべた。


「これ凄いわ!ジュリ、本当に凄い!」


 アカリの手から出てきたのは黄金色に輝く鉱石。


「これって、『黄石英』の十倍の価値、希少な*『黄金石英コガネセキエイ』よ」


 アカリはジュリを抱きしめ、喜びを爆発させる。


「『黄石英』と言う鉱石を探して欲しい」ーー


 ジュリは姉アカリの頼みで二年以上もの間、大陸中を探し回った。


 最終的には隔離された国ーー『トランザニヤ』まで足を運び、ようやく探し出したのだった。それはまるで『宿命』に導かれるように。


 アカリは悪戯っぽく、冗談混じりに話す。


「報酬は何がいい? お金? イケメン? 何でも言って!」


 ジュリは照れながら少し拗ねたように答えた。


「じゃあ……」


 ジュリは小声で漏らすと顔を朱らめ目を伏せた。


 アカリは笑いながらジュリを再び抱きしめた。


「うふふ……報酬はそれでいいの……?」


 アカリはお茶をすすりながら、ふと懐かしい記憶に目を細めた。

 姉妹が、かつて暮らしていた、あの遥か遠い島国の日々を。


 姉妹は笑い合い、昔話に花を咲かせるのであった。




 




【文中補足】


 *『万能巾着』ーー


 所持者が持ち運べる「巾着」。収納魔導具。

 現実より高度な魔法的性質を持つことが多い。

 小さく見えるが、内部は広さが現実の体積を超える。

 いわば「空間の歪み」を利用した超小型の亜空間。


 所持者が巾着を開閉するだけで、内部の収納物を取り出したり、追加でしまえたりできる。食料などは傷まず、そのままの状態で維持できる。



*【多重魔法】ーー同属性、または複数を重ねて使う魔法。


 *『黄石英キセキエイ』ーー地殻に最も多く含まれる鉱物で、二酸化ケイ素。無色透明のものを水晶と呼び、不純物によって紫水晶アメジスト黄石英キセキエイなど、様々な色に変化する。硬く風化に強いため、砂の主成分にもなり、宝石、ガラス、陶磁器などに利用される。


 *『黄金石英コガネセキエイ』ーー天然樹脂の化石、琥珀が含まれる超希少な鉱石。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ