表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/30

4  姉妹




「おい、シロ、お前と同じ桃髪だぞ!」


「ん?」



 黒銀の目の友と神々は下界を覗いた。













───その頃。



『トランザニヤ』北部の深い森の中、霧に包まれた山の洞窟。


 

 破れた黒いマントをまとう、大柄な男が横たわっていた。


 顔は焼けただれ口髭も焦げ、腹から血を吹き出し、さらに前歯が四本も欠けていた。



 

「うぅ……」



 

 その男が呻く。



 やがて、男の意識は徐々に薄れていった。


 

 

 一方、傍で声がする。


 柔らかくどこか透き通る響き。

 



「【エクストラ・ヒール】、もう一度!【エクストラ・ヒール】!!」


 

 緑色の柔らかい癒しの光がその男を包み込む。


 

 

 一つの黒い影が杖を握り、【治癒魔法】を唱えていた。


 その影の視界は魔力(マナ)の消耗により薄れ、杖を握る手が震える。


 それでも男を救うため、何度も【エクストラ・ヒール】をかけ続けた。



 その時、眩しいほどの陽の光が洞窟に差し込んだ。



 手をかざすその黒い影。



「これで命は繋がったわね……」


 一息ついた女性。


 

 その正体があらわになる───


 洞窟の中に緑陽の爽やかな風が舞い込む。


 一瞬、桃色の髪が靡き彼女は黒のレザーキャップを目深に被った。 


 翻した漆黒のローブから白い腕が伸びる。


 彼女は青い宝玉付きの金の杖を巧みに操る。


 男を見る彼女の瞳が加減一つで、赤や碧に見える。


 魔法を繰り出すその姿は、息を呑むほど神秘的で美しかった。



 けれど、彼女はキュートな『魔導士』。


挿絵(By みてみん)


 ”芥子(けし)柄”のハンカチで額の汗を拭きながら、彼女は小さくつぶやく。



「薬が必要ね……」


 

 片眉を上げ、にっと笑った。


 彼女は腰に下げた『万能巾着』から小瓶を取り出す。



 ためらいなく薄黄緑の液体を一気に飲み干す。



 「ふぅ……魔力が回復したわ……」



 急に真面目な顔になり、じっと男を見つめる。

 

 そして、彼女は大きく息を吸いこむ。


 頬がプクッと膨らんだその刹那、空気がかすかに震えた。



「【アストラル・ゲート】!」



 白い魔法陣が回転し、空気が軋む音が響く。


 眩い光が彼女の身体を包み、やがて金の杖に集束する。


 杖の先端が光を放ち──魔法陣から【門】が浮かび上がる。



「【フローター・レヴィ】!」



 黒いマントの男が宙に浮き、門の中へ吸い込まれていく。


 彼女も迷わず【門】をくぐった──。








 

 シロはその様子を一部始終見ていた。


 彼は思考を巡らせた。


 その愛らしい外見からは想像もつかぬ──凄腕の『魔導士』だ。


 超高度な魔法。


 それに膨大な魔力量を駆使し、【多重魔法】を何の迷いもなく、驚くほど軽々と───無意識に操ってのけるとは───。


 

「名も知らぬ男の命を救うために、その力を惜しみなく使うか……この子がここまでやるか……」



 シロの顔には笑みがこぼれた。





◇◇  





 桃色の髪の女性が研究室で乾燥した薬草を石臼で擦っていた。


 彼女の名前はアカリ・ミシロ……天上で見守る神、シロの末裔。


 粉末になった薬草の爽やかな香りがふわりと部屋に広がる中、ふと感じたのは【膨大な魔力】の波動だった。



「ん……?」



 アカリはその【膨大な魔力】の波動に覚えがあり、思わず手を止め身構える。



 居間が急に明るくなり、空間が歪み白い魔法陣が現れた。



 やがて、 【門】から見知らぬ男が浮かび上がった。



「……な、なに……?」



 アカリは驚き、状況が理解できずに立ち尽くす。



 門を潜る彼女は焦りで言葉が上ずる。



「ネー! ネー! ネーってば!! この人を治す薬を調合して!!」


 

 叫び声と共に現れたのは先程の『魔導士』。



───ジュリ・ミシロ、少し歳の離れたアカリの妹だった。



 手を振り上げて、大げさな身振りで語る。

 

 汗を掻きながら必死な表情でアカリに頼んだのだ。



「ジュリ……あなたは、いつもせっかちね」



 アカリは胸をほっと撫で下ろしながら安堵した。


 ジュリが髪を耳にかけながら、静かにつぶやく。



「……どうなの……?ネー……この人助かる?」



 そう言いながらジュリは、大柄な男を客室のベッドに寝かせた。


 

 

一瞬、目を開き、つぶやく黒いマントの男。



「…アン……ド……兄……の匂い……」



 

 その言葉を聞いた瞬間、姉妹の表情が一変した。


 アカリが顎に指を添えて、推理を巡らせる。


 「誰のことだろう……異国の人よね……」



 言いながら彼女は、棚にある薬瓶を掴み、すぐその男に飲ませる。



「今晩が峠ね……あとはこの人次第……」



 アカリは彼の喉元に手を当て真剣な表情を見せる。


 一方、連れてきたジュリがため息をつき、微かに唇を噛んだ。

 

 


 姉妹は静かに客室を出る。




 アカリはキッチンで煎茶を淹れ、茶菓子を置きソファーに座った。


 ジュリがくすっと笑って、アカリの腕に寄りかかる。



 

 二人は熱いお茶を飲みながら話始めた。




 「それにしても、二年と九ヶ月もかかったわ……はいっ」


 

 不満げな顔で小さな布袋をアカリに投げる。



「っしょ!」



 アカリがキャッチ───



「ジュリなら見つけられる、そう思っていたわ」



 そう言いながら彼女は満面の笑みを浮かべた。


 すぐ、布袋の中身を確かめる。


 瞬間、顔に驚きと喜びを両方浮かべた。



「これは凄いわ!ジュリ、本当に凄いわ!」



 アカリの手から出てきたのは黄金色に輝く鉱石。



「これって、『黄石英』の十倍の価値、希少な『黄金石英コガネセキエイ』よ」



 アカリはジュリを抱きしめ喜びを爆発させる。



 「『黄石英キセキエイ』と言う鉱石を探して欲しい」───


 ジュリは姉アカリの頼みで二年以上もの間、大陸中を探し回った。


 最終的に隔離された国───『トランザニヤ』まで足を運び、ようやく探し出したのだった。



「報酬は何がいい? お金? イケメン? 何でも言って!」



 アカリが悪戯っぽく、冗談混じりに話す。


 

 ジュリは照れながら少し拗ねたように答えた。



「じゃあ……へんダー……」


 

 ジュリは顔を朱らめ目を伏せた。

 

 アカリは笑いながらジュリを再び抱きしめた。



「うふふ……報酬はそれでいいの……?」



 アカリはお茶をすすりながら、ふと懐かしい記憶に目を細めた──

 姉妹が、かつて暮らしていた、あの遥か遠い島国の日々を。




 姉妹は笑い合い、昔話に花を咲かせるのであった───。










気が向いたらブックマーク、

広告下の【☆☆☆☆☆】に★つけていただけると、ありがたいです。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ