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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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戦う姫の猛攻

 





「おい。シロ、お前の末裔、積極的すぎだろ」


「あちゃ、ありゃワシのかみさんの血が多く流れとるな」


「東雲さんか、肉食女神だよな。笑える」


「噂をすれば何とかだ」


「お久しぶりでございます。トランザニヤ様」


「ああ、うん」


「シノ、どうした?」


「貴方様が何日も戻らないから……」



挿絵(By みてみん)

(*女神東雲のイラスト)


「すまん。せっかく来たんだ。お前も覗いてみろ」


「『セーフティー・ゾーン』には、ファンだったダンジョン神オグリが作ったお前の……」


「いやですわ。貴方、そんな昔の事。はしたないですが……それではお言葉に甘えて」



 三人の神は下界を覗き込む。










 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇








「『セーフティーゾーン』で食事を取りませんか?」



 アカリが振り返り提案した。



 リーダーは、アカリで良かったんじゃない?……と、仲間たちと『セーフティーゾーン』へと向かった。



 ようやく、って感じだ。


 ダンジョン内に存在する”安全地帯”へ入る。

 魔物は一切出現しない。

 仲間たちも安堵したのか、息をつきながら後に続く。

 誰もいない『セーフティー・ゾーン』。

 前回すれ違ったどこか怪しい5人組もいない。

 この階層には俺たちしかいないようだ。

 ほっと胸を撫で下ろした瞬間、ふとパメラがつぶやく。


「冒険者が……疲れを癒す、『楽園(パラダイス)』とも、呼ばれる場所よねん」

 

 彼女は手を広げ、ゆっくりと身体を回しながら息を吸い込む。

 その仕草を見て、彼女も不安と緊張を抱いていたことが窺える。


 パメラの言葉に、仲間たちの緊張も薄れたように感じた。


 思いながらも周囲を見渡す。


 確かに、まるで無の空間。 四方は無色の壁。

 しかし、太陽も見えないのにその空間は明るい。

 不思議だが月が見えるーーその月はぼんやりと光を纏う。

 まるで光に抱き抱えられるかのように。


 だが、外の景色が見えるわけでもない。


 何と言うかーー透明な箱庭にでも入っているような不思議な感覚。


 さらに、ほぼ中央ぐらいに神々しい光りを放つ噴水がひとつ。 


 噴水の中心には美しい女神像の彫刻ーー翳す美しい細い手から、まるで聖水の如く清らかな水が湧き出ていた。


 どこからその水が湧き出てるのか、と不思議に思うくらいの量が溢れている。

 静かに「ぽちょん」と続いて落ちたと思えば、ザザーと流れ落ち、それを繰り返す。 ヒーリングミュージックのような水音は、確かに眠気を誘い安心感に包まれる。そして同時に癒されもする。 『楽園(パラダイス)』と呼ばれるのも納得だ。


 しかし、癒されてばかりもいられない。仲間たちに俺は声をかける。


「飯にしよう」


 口にすると仲間がほっと息をつく。

 飯の支度を整え始める仲間たち。


 ジュリとアリーが並んで椅子に座る。

 ジュリが『万能巾着』から干し肉を取り出して、アリーに食べさせている。


 気を張っていたのだろう。二人は親密そうに楽しげに話していた。


 アリー、食べる仕草……可愛いなッ!


 思いながらじっと眺めていた。 その光景に微笑ましさも感じる。 

 俺の視線に気づいたジュリは、スカートをギュッと下げ、足を閉じる。

 鋭い目で俺を睨み返す。


 ……見てませんけども。


 そう思いながら目をはぐらかした。

 自然と俺の目はパメラとノビのーー名付けた『師弟コンビ』に。


 このコンビ、ノビがパメラのご機嫌をうかがいながら、食事の準備を進めていた。

 ノビの顔は真剣そのもの。手際よく料理を作る様に感心する。


 へぇ意外だな。

 パメラは何もしないのな。


 どかっと座るパメラ。彼女はどうやら料理を作るのは苦手らしい。


「ししししし!」


 二人のやり取りがあまりにも滑稽で、思わず笑い声を漏らした。


 だがその瞬間、仲間たちの視線を集めてしまう。恥ずかしくなり顔に熱が籠る。


 居た堪れなくなったさ。


「腹へったな」


 誤魔化すように肩をすくめポツリ。


 食事を準備しなければ。


 そう自分に言い聞かせるようにーー折り畳みの『*レンジャーシート』を取り出して、腰を下ろした。


 女将さんからいただいたパンと、肉屋のおばちゃんにまけてもらった"肉”を取り出す。その瞬間ーー生暖かい風が頬を撫でた。


 その風とともに、洗い立ての洗濯の香りが鼻腔をかすめる。

 ふと顔を上げるーー目の前に現れたのはアカリだった。


 彼女は俺をじっと見つめる。


 そして彼女はどこか怪しい笑みを浮かべてーー


「リーダー様……ご一緒しても、よろしいですか?」


「ん?ああ……でも、その呼び方……」


 ”ドキッ”


 一瞬、心臓が跳ね上がる。


「鼓動、出るな」


 胸を押さえ心の中で命じた。

 アカリは小さな折り畳み椅子を取り出して、組み立てる。

 それを俺の真正面に置く。

 そしてーー彼女は優雅に美脚を組みながら座わった。


挿絵(By みてみん)


 『セーフティー・ゾーン』、落ち着いた空間に緊張感が漂う。


「攻略開始ですわ……」


「っえ?」


 アカリの声は小さすぎて聞こえなかった。

 彼女は目が合うとニヤリ。瞳に一瞬、閃くーー『猛虎キラン✧』。

 

 ゴクリ


 思わず固唾を呑む。

 俺が名付けた『猛虎キラン✧』。まるで猛獣のような鋭い視線と威圧。


 直感的に異様な【覇気】を感じ、めまいがする。

 意識は遠のき、目の前がゆらゆらと歪んでいった。

 頭の中でカチッとした音が響く。

 俺は自分の”癖”の世界へとゆっくり沈んでいった。


【妄想スイッチ:オン】


 ──ここから妄想です──


 美脚の奥から現れたのはーー『青銅のトライアングル』。


挿絵(By みてみん)

(*ゴクトーの妄想上の魔物)


 チーン… チーン…


 青銅のトライアングルは、透き通る高い金属音が鳴り響かせる。


 それはまるで地獄の黙示録のようにーー耳を切り裂く破壊音。

 完全にその音に支配されていく。


「ククククク」


 『青銅のトライアングル』が、噛み潰したような声で笑う。


「シタギ……頼む」


 思わず口から出たその言葉。

 なぜ、その言葉が出たのか理由すらわからない。

 だがこの瞬間、確かに俺の口から出た言葉だった。


「あっしにお任せを。【妄想護身結界】──!」


 敵の視線を逸らし、注目を一点に集める防御魔法をシタギが駆使する。


挿絵(By みてみん)

(*赤絹・シタギ。ゴクトーの妄想キャラクター)


 続けて彼女が唱える。


「契約のもと、シタギが命じる。 力を秘めしーートライアングルよ 。『妄想図鑑』に収監せよーー!」


「そんな魔法が……」


 青銅のトライアングルは、狼狽えながら『妄想図鑑』に収まり消えていった


 【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──


「お、お役に立ててよござんす……」


 シタギは魔力(マナ)を使い果たしたのか、蒼白な表情で『妄想図鑑』に消えいるように収まった。


 俺は我に帰り、意識を取り戻した。


「”はっ”……シタギ……」


 焦りと動悸が同時に押し寄せる。

 妄想と現実が日に日に、曖昧になっていく。

 じとりとした冷や汗が額に滲む。


 一方、アカリは真剣な表情で唇を動かす。


「第一段階は、まずまずですわね」


「何か言ったか?」


 アカリの小声の囁きめいた声は俺には、届かなかった。


 トライアングルの破壊音が、今でも耳にこびりついている。


 そんな俺を他所に、アカリが悪戯(いたずら)っぽい目に変わる。


 どうしてこうなる?

 ……ってか、ここでリタイヤするのか? 俺っ!



 慌てて『アイテムボックス』をあさり、なんとか凌ぐ。

 焦ったいのか、アカリが次の行動に打って出た。

 彼女は椅子から立ち上がる。


「第ニ段、行きますわよ」


 その声はまたしても俺の耳には届かなかった。


 彼女がスッと近づき目の前でしゃがみ込む。

 そしてそっと囁く。


「……ずっと前から見ていたの、気付いていましたわ。やっぱり、殿方ってこういうの……お好きですものね」


 その声は驚くほど艶っぽい。


「ふぅーー」


 彼女はついでのように耳に息を吹きかける。


 ああ、もうダメだ……!



 その瞬間、場の空気が変わった。

 石鹸のような香りが漂い、理性を破壊していく。


 精神は追い詰められた。

 

 ここは休む所、『セーフティー・ゾーン』のはずだが……。

 今は、話題を変えるしかない。

 ”死線”、控え目にしろ。


 心中、妄想眼に命を下した。

 恥ずかしさと動揺を隠しながら、パンと乾燥腸詰を取り出す。


「これ……食べないか?」


 目をあちこちに彷徨せ、アカリに言った。

 それは彼女も耳を疑うほど。

 アカリは不思議そうな表情ーーその瞬間。


 "スパスパッ!”


 腸詰を(てのひら)に乗せ、【桜刀・黄金桜一文字】で切り分けた。


 俺は目を伏せ、さりげない態度で一言添えた。


「パンに挟んで食べると、美味いらしい……」


 乾燥腸詰をアカリに手渡す。


 だがーー緊張と動揺で手が震える。


 アカリは受け取ると俺の手に一瞬だがその温かい手を乗せる。

 彼女は頬を朱に染め、艶やかな唇を動かした。


「叔母からうかがいましたの。挟んで差し上げると、殿方はお喜びになる、と……」


 甘い声で小さく囁き、パンに腸詰を挟んで俺に差し出す。


 その瞬間、前屈みの彼女の『峡谷』から覗くーーまるでその青い波紋を一輪ずつ大きな輪に広げる、名付けるならーー『カルデラ湖』。


 それが目の前に姿を見せる。

 それは十分な破壊力だったし、身動きも取れなかった。

 ”死線”を奪われた瞬間、感覚は鈍くなり、『それ』以外が映らなかった。


 頭は完全に真っ白になっていく。

 めまいがしてぐわんと目の前がぼやけてくる。


 『妄想図鑑』、そう名付ける力が発揮される。


 【妄想スイッチ:オン】


 ──ここから妄想です──


 図鑑のページがパラッと音を立て捲れた。


 『ドキドキドキ!どいてくんな!旦那、リミッターが外れますぜ』


挿絵(By みてみん)

(*ゴクトーの妄想キャラクター)


 胸の『江戸っ子鼓動』は、俺の目の前をがむしゃらに駆け抜ける。



 【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──


 「失礼しやした。ではあっしはこれで……」


『江戸っ子鼓動』はスッと消え入るように『妄想図鑑」に収まった。


 我に返り、意識を取り戻す。


「ハッ? 鼓動まで……」


 妄想と現実の狭間で揺れ動く自分。

 意識を集中して現実に戻ろうと頭を振った。


 その瞬間、鼻から"ツ ーーッ”と流れる感触。

 そんな状況の中、ふと、鋭い視線を感じる。


「ちょっと 、へんダ ーー? それ鼻血? 魔物の攻撃でも受けたの?」


 ジュリがこちらに向かって不思議そうに言う。

 彼女は首をかしげながら続ける。


「ネー、しょうがないから【ヒール】掛けてあげなよ!」


 その言葉にアカリはクスッと笑い、肩をすぼめた。


 おい、ジュリさんや……

 【ヒール】 じゃねぇって、今、【デス】 だよッ!

 死ぬほどの呪文、かけられたんデスけども……。



 内心思う俺を他所にジュリは、呆れたように見つめる。

 アカリと目が合うと頬を膨らませる。そして彼女は肩をすくめ、大きく息をついた。どこか不機嫌な様子。


 他方、何事かと俺を真剣な眼差しで見てアリーがポツリ。


「はにゃ血……にゃにか……不思議な【覇気】を感じりゅ」


 そう言うと垂れ耳をピンと立たせ尻尾も立てた。

 アリーはこの異様な雰囲気を察したようだ。


 獣人ならではの勘なのか……。

 このアカリの猛攻(アタック)に、彼女は気付いたのか?


 だが、獣人とは言えアカリの先ほどの一言は聞こえてはいないはず。


 言い終えた彼女の表情を窺いながら、思考を逡巡させる。


「大丈夫だ」


 鼻血を拭いながらアリーに答えた。


 だが、ピタリと止まっていた風がアカリの着物を翻す。

 目の前には網タイツのような鎖帷子と『青三角』。


 これがっ!

 “戦う姫君”かッ!、勝負の上下っ!


 目を見開き固まる。


「リーダー様。どうしました?この色はお気に召しませんでしたか?」


「……言い方……あ、あぁ……ありがとう」


 現実を目の当たりし、動揺しながらもパンを受け取る。


 その瞬間、手がアカリの指先に触れた。

 一瞬、彼女の視線が『虎』から“猫”へと変わる。


「ふふ……私、パンは人に食べさせるより、食べさせてもらうほうが、好きなんですわ」


 そう言って、少し唇を尖らせながら見つめる。


 こ、これは……ど、どうすりゃいいッ!?


 そう狼狽えたのも束の間ーー背後から、呪詛めいた声。


「『青のセット』とは……なかなかやるじゃない。アカリちゃん」


 パメラはそう言うと俺の前にスッと立つ。

 彼女は腕組みをしながらため息をつく。


 その声はどこか悔しさが滲んでいるように感じる。

 心境はますます複雑になっていく。


 混沌とした空気が漂う。

 そんな中ジュリは赤面していた。

 彼女はアリーの顔をクッションにして、視線をそらす。


 一方、空気を読まない男がしれっと口を開く。


「しだっけ、先生……たまご焼き、焦げるケロ……」


 ノビだけが、なぜかパンを焼きながら小さくつぶやく。


 だがそれどころではないのだ。


 衝撃と目の前の“姫の猛攻”にどう対応するか、頭の中はフル回転していた。


 ここがっ!……俺の戦場かッ!


 俺の思いなどお構いなくアカリが再び動く。さらに彼女は両肘で胸を押し上げる。


 挑発的な仕草を見せ艶っぽい唇を輝かせる。

 そして、彼女は悪戯っぽく美脚を徐々に広げたーー


「まぁ可愛い♡……それならば、もっとパッカーンですわ。クスッ」



 それっ!【トドメデス】ーー即死の魔法ですかッ!?


 その瞬間ーー意識は完全に飛びかけた。

 もう目の前は真っ暗である。

 


「もう! 本当に【ヒール】掛けるよ! これ以上、ネーに遊ばれないで!」


 ジュリの声がどこか遠くから、聞きこえる。


 アカリさんや、 "パカッ””クスッ”ーー名付けるなら『パカックス』って造語にしましょうか? それッ!やめて、欲しいんですけどもっ!


 内心思いながらギリギリ意識を保つ。


 静寂の中、誰もがそれぞれの“戦い”に挑もうとしていた。


 この“昼食”は、単なる休憩では終わらなかった。

 ダンジョンよりも手ごわい、バトルロイヤルが今、幕を開けるーー。


 ……ってか、俺は今際の際で何を考えてる?

 なぜ、こんなにも女性の下着に弱いのか……

 これは免疫耐性をつけなばならないな……。


 空腹と羞恥、それとーーアカリの猛攻で混乱と半死。

 薄れゆく意識の中で、俺はジュリの治癒魔法【ヒール】で救われたーー。






【文中補足】


 *レンジャーシートーー騎士団や小国の軍兵が使っているケドの木の樹脂でできてる弾力のあるシート。特大シートに至っては、大人20人は容易に腰を下ろすことができる。





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