『Caravan・Climb』の夜編 5 〜『ヤマト』の風、ビヨンドに吹く〜
ゴクトーさん、相変わらずΣ('◉⌓◉’)
雲間を覗き込んでいたトランザニヤが顔を上げる。
「ひょんな形で、ゴクトーの奴、また歯車が噛み合ったみたいだな」
そう言って黒銀の目を細める。
一方で神シロと女神東雲は、地上でゴクトーと巡り合った、
自分たちの末裔から目が離せないでいた。
ーーその頃ゴクトーは、ビヨンド村の夜市、
高級インナーブランド『Caravan・Climb』の屋台前で、
クオン・カゼシロのインナーサイズを測る、ミリネアとココを待っていた。
◆(女神東雲が語り部をつとめます)◆
屋台の更衣室は見かけによらず割と広々としていた。
大きな鏡の横の物掛けにはーー
脱いだ服をかけるハンガーがいくつかかけてある。
ミリネアとココに連れられて入ったクオンの表情は、堅かった。
更衣室に入る前までは、初めてつけるブラトップに胸を躍らせていたのだが、
出会って間もない女性ーー
それもスタイル抜群のエルフたちに、自身の白い肌を見せるには、
いささか抵抗があった。
彼女は武家の家で生まれ育ったものの、その育ち方は複雑だった。
風代家は『ヤマト』では副将軍家でもあり、表舞台には出ないーー
『暗部』の家柄。忍術と魔法を組みあわせた『忍法』を得意とする家で育った。
彼女はたまたま『忍』のギフトを持って生まれーー
一族末端、それも貧しい家の『風祭家』に生まれたが、風代家の養女となり、
幼少の頃より過酷な修行に耐え、まさに『忍』人生だった。
そんな彼女が人生初のお洒落をする。
つけたことのないインナー装備の『ブラトップ』をつけるのだ。
胸が躍るのも無理はないーー
それも男を手玉にとる中忍、クノイチともなれば、
尚更、男は安易に落ちるだろうと、クオンは内心喜んでいた。
「クオン殿、では測りますので、
上着とスカートを脱いでいただけますか?」
いざ、着物を脱ぎ、鎖帷子で全身を覆われたクオンの身体を見て、
ミリネアの手が止まる。
白いサラシを巻いた豊かな胸。細い腰と美しい桃尻。
さらに黒のTバックのような褌、
その美脚とスタイルは目を見張るものだった。
「あまりジロジロと見られると、オノはどうして良いのやら……」
クオンがポツリと零した。
その言葉に慌てたココが、口を開く。
「クオン殿、鎖帷子と褌は、外していただけますか?
我は向こうを見ておりますゆえ、ミリネア姫様に測っていただければ」
そう言ってココがニコリと微笑む。
その言葉にクオンの目が丸くなる。
「ひ、姫様ですと? どちらの姫様であられるか?」
鎖帷子を脱ぎかけたまま、クオンが姿勢を正す。
その仕草にミリネアがクスッと小さく笑いを漏らし、唇を動かす。
「ワタクシのことは、後ほど……今はサイズを……ね?」
そう言って脱ぎかけの鎖帷子を外すのを手伝う。
そのミリネアの態度と言葉に安心したのか、
クオンが褌も外していく。
一方、ミリネアが優しい声色で褌を外すクオンに零す。
「あら、可愛らしいパンティですわね」
「このパンティなるものは、以前ファルダット自由国の……」
「そうですか。とてもお似合いですよ。では、失礼しますね」
そう言ってミリネアがクオンの胸を測り出す。
一方のクオンは姿見を見ながら頬を赤く染めている。
クオンの背中から胸の前でメジャーを止めて、ミリネアが促した。
「はい、では、腰回りとお尻のサイズも測ります」
手際よく測られるクオンはまるでお人形、
いやマネキンのように固まっていた。
更衣室にはクオンの息を飲む音だけが静かに響く。
「はい。終わりました。クオン殿、お疲れ様でございました」
と、ミリネアが丁寧にメジャーを巻きながらニコリとしたーー。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
女主人と目が合い、俺は急に恥ずかしくなる。
しばしの沈黙。
その沈黙を破るように肩に乗るコガラが念話を寄越す。
《「あるじ、まだーー」》
《「もう少しにゃ」》
「ハッ!」
やってしまった。
スケスケの紫のドレスに黒のロゴ入りブラトップがボヨンと揺れたーー
女主人の姿に見惚れてしまって、思わずアリー語で答えてしまった。
《「それ、モフねぇ!》
コガラが念話で俺にツッコミを入れてきた。
初めての事に思わず目が丸くなる。
やはり、コガラは相当知能が高いと改めて思い知らされた。
そんな中、3人が更衣室から出てきた。
ミリネアが女主人に、小声で耳打ちする。
「『Fカップ』、アンダー55でした。
ショーツも『M S』サイズで問題なさそうです。
『Caravan・Climb』の上下セットを……用意していただけますか?」
「わかったわ。ひとセットで良いのかしら?」
「……いえ、全色いただきたいと思います」
ミリネアの返答に、今度は女主人が目を丸くした。
「そんなに……!? ぼぼぼぼぼ。ゲホゲホッ……むせちゃったわ。
嬉しいけど……ちょっと待ってね。
今、用意できるのは8種類の色よ。
ひとセット金貨1枚。だから……合計で金貨8枚になるわね。
さっきの分も合わせると、金貨16枚ほどになるけれど。
結構な額よ。持ち合わせは大丈夫?」
提示された金額に、クオンがポカンと口を開けたまま固まっている最中、
一方で「その笑いかたッ!」と心中で突っ込み、
俺は金貨の入った小袋を取り出した。
「これで頼む。釣りはいらない。迷惑をかけた分だ」
金貨が入った重みのある小袋を覗きこみ、ニタリと笑みを溢す女主人が、
かなり機嫌良さ気に口を開く。
「また買いに来ておくれ。ほら、これを持って」
紙袋を受け取るクオンの口元が緩んでいたのが、印象的だった。
文化は違えど、女子はやはりお洒落には興味があるのが窺える。
その場から動けずにいるクオンに、ミリネアが嬉しそうに声をかける。
「種類を揃えていただきました。これでクオン殿も……
お洒落女子の仲間入りですわ」
その言葉クオンが袋の中身を確認する。
頬を朱く染める彼女を横目で見やり、俺はミリネアに念話した。
《「任せて良かったよ……サイズや色のことは俺じゃわからないしな」》
《「ご主様、貸しですから……忘れないでくださいませ?」》
ミリネアが俺に微笑み、次いで女主人に頭を下げた。
彼女のその仕草は堂に入っていてーーそれでいて優雅で上品だった。
さすがとしか言いようがない。
女主人もそのミリネアの品の高さに、
どこか気まずそうに深々と頭を下げていた。
察したのか、肩に乗るコガラの爪に力が入った。
思わず口を開き、促す。
「行こう……アカリとジュリに会わせるよ」
そう言って俺は歩き出した。
ミリネアとココも無言で頷き、屋台を後にする。
一方で、クオンが慌てた様子で足を止めた。
「あ、あの……これの代金を支払わねばならぬ……お待ちくだされ!」
その言葉にココが小さく笑う。
彼女が穏やかな口調で、クオンに声をかける。
「閣下のあの顔、きっと貴殿に、プレゼントしたかったんだと思います」
「プレゼント……?それは何だ? オノが知らぬ言葉……」
クオンが目を丸くしながら、聞き慣れない言葉の意味を尋ねる。
すると、ミリネアが振り返り、軽く肩をすくめた。
「クオン殿、待ち合わせの時間をーーだいぶ過ぎてしまいましたので……
ここはどうか、それを納めてください。
ご主様、急ぎましょう」
言いながらミリネアが"ぐいっ”っと俺の腕を絡め取る。
彼女の動きに、一瞬たじろいでしまった。
読まれても、仕方ないが……。
柔らか過ぎるんですけどもーー!
内心叫ぶ俺にミリネアとコガラ、さらにココまで、
「「「ククククク」」」と噛み殺したような声を漏らす。
一方のココも俺の腕を絡めとり、挟まれる形に。
まるで捕まった宇宙人のように引きずられていく。
その様子に、ただ固まるクオンにミリネアが発破をかけた。
「行きますよ、クオン殿!」
我に返ったのか、クオンが顔を赤くしながらも後を歩き始めた。
一方で俺は、二人の温もりを感じつつ、行き交う人々の視線が気になる。
喧騒の中、囁かれるガヤガヤが耳に届く。
周囲からの視線も痛い。
《「あるじーー! ミリネアおおねいちゃん、ココねぇ! おなかすいた!」》
肩に乗るコガラが、俺の顔を覗き込みながら、(◍˃̶ᗜ˂̶◍)な顔で念話を飛ばす。
その顔に、俺は思わず苦笑する。
「コガラ、ごめんね。急ぐから!」
「コガラちゃん!我をココねぇって、呼んでくれるなんて嬉しい!」
ミリネアとココもコガラの言葉に笑顔で応じていた。
一方でクオンが呆然とした表情でその光景を見つめる。
やがて、集合場所に近づくにつれ、
待ち合わせのメンバーたちの姿が見える。
するとそこからこちらを目掛け、一斉に声が飛んできた。
「へんダー!遅ーーいっ!」
ジュリの透き通った声が響く。
「ったく、それがなければ可愛いのに……
ま、出会った頃に比べればマシか……」
俺が思わず小声で漏らす中、
アカリが目を細め、じっとこちらの様子を窺っていた。
「ダー様、遅いので心配しましたわ。顔が随分と赤いようですけど……?」
「その目、怖いな。『猛虎キラン✧の目』はやめて……
ビヨンドのダンジョンを思い出すから……」
アカリの問いに思わず漏らす俺の声は極小すぎて、
夜市の雑踏に沈むように踏み固められていく。
そんな中、漆黒のローブを翻すパメラが口元を両掌で包み込み、
まるで山頂で、その光景と山彦を楽しむかの如く声を大にする。
「ヤッホーー!ゴクちゃーーん、遅かったから心配したわん!
……ちょっとーー!?
ミリネア教授、ココ師団長も! ゴクちゃんの腕を離しなさい!」
彼女が鋭い視線で俺たちを一瞥し、ミリネアとココを窘める。
その大きな声には、どこか嫉妬が滲んでいるようにも感じるのだが。
その一方でパメラに寄り添うノビも、
自慢げにゲコッと喉を鳴らし、口を開いた。
「したっけ、無事でよかったんさ。
ゴクどーさん、ついでにポデドジップスも買ってきまじだケロッ!」
ノビがカラフルなポテトチップスを抱えるその様は、
どこか面白く見えてしまうのが不思議だ。
……ノビや、お前の訛り、酷くなってるぞッ!
……ってか、カエルにしか見えんが。
思わず口元を緩めてしまう。
そんな中、パメラが「あ、アリーちゃん、はい、これ!」と、
白い冷気を立ち上げるペプシュ・コーラをアリーに手渡す。
アリーがそれを嬉しそうに受け取り、
「パメラしゃんありがとにゃ!」と零しながらーー
彼女がモフモフの尻尾をピンと立て、口を開く。
「ゴクにぃ遅いにゃ! お腹空いたにゃ!」
言ったそばからピョンと飛び跳ね、空腹をアピール。
その無邪気な姿を見て、心を和ませる俺を他所に、
片眉を吊り上げ、イブが腕を組み、睨みを効かせる。
「殿! 誰かに暗殺されたんじゃなかろうかと、ヒヤヒヤしたぞぇ……
じゃが、妾は待ちきれんくて、ひとつ買い食いした程じゃ!」
その言葉は周囲の喧騒までもピタリと止める。
屋台前の獣人が怯えながら、二つの月に目を泳がせた。
風もいささか強くなり、獣人の芝犬のような茶色い獣毛がさらりと靡く。
一方で俺はこの光景に思わず声が漏れた。
「イブの暗殺者たる殺気の方が、よっぽど怖いんですけども……」
ズカズカとこちらに歩み寄るイブにたじろぐ俺を他所に、
クロニクが満足げに胸を張る。
「ま……兄貴なら大丈夫だと思ってたけどな。
羊肉の串焼き、買い占めてきたやったぜ。ははははは」
その横で、ミーアがミリネアを見て続けた。
「ミリネア姉様、遅いからうちも心配した。
ミンシア姉様が待ってるから早く、行こう」
そう言ってミーアがミリネアの腕を掴む。
そんな中、 漆黒のローブを風に靡かせ、
白髪で長身、白い軍服が目立つーー
師団長のキキが眉間に皺を寄せる。
「ゴクトー殿、あたしらも心配した……。
ウッホ、でも、ゴッホホ。揚げ物、買ってきた!」
まるでゴリラかと思ったのはさておき。
師団長のガリと双子のマルル、メルルも黙って頷く。
一方で脳の整理が追いつかず、散らかりながらも、俺は一言謝罪した。
「みんな、すまん」
待ち合わせ場所には、
買い出しを終えた仲間たち一同が揃っていた。
皆が「ほっ」とした表情を見せる中、
アカリ、ジュリ、パメラ、イブの視線が鋭さを増す。
ゴゴゴゴゴ……!
俺は背筋に稲妻のような衝撃を受けた。
その時ーー不意に背後から聴こえてきた声。
「お久しぶりです……アカリ姫様、ジュリ姫様……」
振り返ると、クオンが跪き、深々と頭を下げていた。
その姿に場の空気がガラリと変わったーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




