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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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糸が歴史を繋いだ瞬間

 



「めぐり合わせかの? 不思議じゃな」


「はは。歴史は繰り返される……か」


 神シロの顔には、困惑の色が滲んでいた。

 黒銀の目の友は多くを語らず笑っていた。


 神々は肩をすくめながら、下界を覗く。








 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇ 





「あの、パメラさん、少しいいか?」


「何かしらん?」



 振り向いた彼女と目が合い、つややかな仕草で唇に指を添える。


 その時ーー風が止まった。


 月がパメラの姿をくっきりと映し出す。


 彼女は魔女のような笑みを浮かべ、エールに指をかける。



 その時だった、長年の役目を終えたかのように……突然ーーバチンッ!

 鋭い音を立て、何かが切れる音。


 まるで導火線に、火がついたようなタイミング。


 その瞬間ーーブルルルンーー凄まじい爆風が巻き起こった。

 

 次の瞬間ーー「……しだっけえええええええええ! 」


 絶叫とともにノビの身体が宙を舞った。


 コルセットに収められていた彼女の『爆弾(ダイナマイト)』ーー


 いや、二つの弩級の胸が、解放されたかのようにーー揺れた。


 それは目の前の空気を震わせ、ノビを吹き飛ばすほどの破壊力。

 ただの揺れではなく、左右に"ブルンブルン”といまだ、大きく波動を広げる。

 空気の揺れが少しおさまると、ジュリが血相を変える


「……マジで爆発したーー」


 彼女の一言が俺の心に響く。


 一方で月明かりに照らされ、大自然の脅威と美しさを一身に宿したかのようなパメラに魅入ってしまった。



 ゴクリ。


 思わず唾を呑み込み、妄想眼ーー”死線”をそこから逃す。


 だが、その魅力と波動に、”死線”が完全に捕らえらていた。


 パメラ自身は、そんな状況に気づいていない。

 彼女は少し困ったような表情を浮かべながら、コルセットの切れた皮紐をつまんで見つめている。


 俺の脳が一瞬だけ情報処理を諦めた。

 飛ばされたノビが勢いよく戻ってくる。


 

 ピョン



 ピタン。



  抜群な聴力力を見せノビが”ケロッ”と戻ってきた。



 ーーそれを見た瞬間、脳裏に浮かぶ、懐かしい記憶。



 【ジャンピング・ピタン・バック】って、

 大技、決めやがったなッ!……くっそ。 やるな、ノビ。

 あれ?だけど俺、なんで技名知ってるんだろ?



 不思議に思いながらも、ノビのかっこよさに悔しくて唇を噛んだ。


 そんな俺をよそに、他方でアカリが目が丸くなっているのが笑えた。

 彼女もパメラの『爆弾』の威力に唖然としているようだ。


 そんな中、パメラが口を開いた。


「ノビ貴様、私の爆風を受けて……なんともないのか?」



「ケロロ!(当然)」



「この馬鹿弟子が……ふっ……」


 パメラがかすかに口元を緩め一つ息をついた。

 どうやら、俺同様、パメラもカエル語が理解できるようだ。

 二人の間には、師弟関係以上の何かがあると俺は感じた。


 カエル語が理解できない様子のアカリとジュリは、その様子を黙って見ていた。


 ため息かぁ…… 先生のパメラの気持ち……。

 ノビの決心に、どこか断り切れないんだろうな。


 感慨に耽け、思わず師匠とのエピソードを思い出す。


 それは俺がA級に上がる条件だった。


 雨が降りしきる山頂で俺は討伐対象、”名もち”の魔物を打ち取った。


『まぐれかゴクトー? はっはははは。 やったな、これでお前も一人前だ。 

 一緒にダンジョンに挑戦できるな……。 楽しみながらに潜ろうぜ。はっはははは』


『……師匠!その笑いかたッ!』


 不器用に笑いながら俺の頭を撫ででくれた。


 師匠との思い出が甦って、思わず瞼が熱くなった。


 ノビの気持ち、俺と重なってるな……。


 そんな思いが俺の中で膨らんでいく。

 少しだけだが、わかるような気がした俺は思いを打ち明けた。


「俺は師匠のおかげでなんとか『A級』冒険者になれたんだ。

 ダンジョンには、一緒に潜れなかったけどな……師匠なら、きっと俺を連れて行ったさ……だから、彼を連れて行ってやらないか?」


 アカリもジュリも俺の言葉に静かに頷く。


 しかし、パメラはまだ承服できないようだ。

 そんなパメラを見てノビが懇願する。


「先生! 足手まといにならないよう、絶対に頑張りまづ! 

 ダメなら……早い階層で離脱じまづがら! どうが、一緒に!」



 ノビはそう言いながら腰を直角に折る。


「早い段階での離脱も覚悟の上か……」

 

 そうつぶやくパメラは困ったような表情をしている。

 その視線がふと姉妹へと向けられた。


「桃色姉妹の意見はどうなのかしらん……?」


 その表情にはどこか不安の色が滲んでいた。


 月が雲に隠れ、少し寒さを感じてきた。

 この話に早く決着(ケリ)をつけたい。


 気になってアカリとジュリに目を向けた。

 戸惑ってるのか、二人ともそんな表情だ。


 彼女たちが口を開くのを待つ。


 俺の腕をふっと掴んだアカリの唇が動く。



 「ゴクトーさんがいいなら、私は構いませんよ」



 目の前に胸の谷間と『真紅の蝶』が強調される。



 いやいや、アカリさんや。

 前屈み、ってか、上目遣いで会釈はやめろッ!



 俺はアカリから目をずらした。

 

 心臓が持たないんですけども……と、内心『鼓動』が動きださないかとヒヤヒヤだった。

 

 アカリと俺のやり取りに面白くないのかーーじっと見つめられる視線に気づく。


 ジュリの奴、ちっ!って舌打ちか……可愛いな。

 でもな、眉間に皺、寄せんのやめたら?


 俺の内心のツッコミが冴え渡る。

 

 もちろん無言だ。 出した瞬間、吼えられるに決まってる。

 そんな俺の思いをよそに ジュリが素っ気なく言葉を投げる。


「へんたいって、どれくらい強いわけ?」



 まさに槍でも投げた感じのジュリの一言。

 さらに彼女は眉を斜めに上げる。同時になぜだか、頬も朱に染まっていたのが不思議だ。


 俺は深呼吸してからジュリに答えた。


「わからないさ。俺の師匠は大陸一の冒険者。『SS級』だったから、比較のしようがない。俺は師匠のお陰で『A級』にはなれたが、離れてからソロでやってたし、正直まだまだだ」



 その言葉を聞いた瞬間、パメラの目が見開く。



「ええええええええええええ!」



 逆にパメラの声の高さと大きさに驚いた。

 彼女の表情には、どこか驚愕と敬意が入り混じってるかのように見える。



 パメラの声と同時にその響きは、まるで雷鳴のように場の空気を変えた。


「ケロケロケロケロケロケロケロケロ?(大陸一の冒険者で『SS級』?)」


 ノビはフロッグマン特有のーー鳴き声のようなカエル語を叫ぶ。


 俺はノビを見て口元が緩む。


 その表情には「驚き、桃の木、山椒の木」いう魔法の呪文が貼ってある……ような気がするっ!


 まるで雷雨の中、泳ぎ回るオタマジャクシのように目をぐるぐる回す。

 ノビを見るパメラの眉に皺が寄るのがわかる。


 彼女は俺に問いかける。


「SS級……? まさか、あなたの師匠ってーー」


 俺は軽く頷いてこう言った。


「……そう。ナガラ。俺にとって、一番の冒険者だった……伝説をたくさん残して、突然消えたけど、優しい人だった」


 その言葉に何か言いたそうだな……と、俺はヒヤヒヤしながらノビを見ていた。


 案の定だ。


 空気が読めない彼は一歩前に踏み出してこう言った。



「しだっけ、先生より強いひど、見だごとないんさ」


 パメラが『爆弾』を押さえながら絶叫する。



「……貴様ァァァァァァは……黙ってろおおおおおおお!!」


 大丈夫、揺れてないと、安堵したのも束の間。

 彼女の額には、ピキピキと音を立てながらの青筋が浮かぶ。



「しだっけ、オラだって、先生のごと尊敬じでるわげで……!」



 ノビが足元の小石を蹴った。


 ふと、ジュリが俺の横にきて耳元で囁く。



「バカね。このカエル……!」



 俺はジュリの一言に胸が痛む。

 彼女は小石を蹴りながらいじけた素振りを見せる、ノビの背中を見つめていた。


 なんとも言えぬ状況の下ーー「ふふふ」


 アカリは口元に手を当てて笑っていた。


 この場の雰囲気をまとめる、救世主の如く彼女が口を開く。


「じゃあ、決まりですね。ゴクトーさんの推薦もあるし、

 ノビの情熱も伝わってきたわ。パメラさん、行かせてあげましょうよ。

 ……でも、途中で無理そうなら即撤退。それでいい?ノビ?」


 アカリの言葉にジュリがムスッとしながら頷く。

 

 パメラも「仕方ないわね」と、言って肩をすくめた。

 彼女はノビを見ながら、ため息混じりに諦めの言葉を落とす。


「まぁ……私の気が変わらないうちに、荷造りしなさい。

 集合は冒険者ギルドに明朝*9クロック。遅れたら置いていくわよ?」



「わがっだんさ!」


 ピョン。


 ノビが片手を上げ、跳ねながら答えた。


 こうして場の空気は和らいでいったーー。




 ◆(ここから、天の声がラストを紡ぎます)◆



 勇気を出して『勝負』ともいえる、お気に入りの『緑』を身につけ、アピールしようと心に決めていたのにーー。



 ジュリはそう考え、唇をきゅっと噛んで視線を落とした。


 心の奥で、悔しさと焦りが渦を巻く。



 けれど。それを口に出すことは……できなかった。



 ゴクトーの視線。

 胸を強調するネーが独り占めしているーー。

 嫉妬と敗北感が、さらに募っていく。


 くっ……なんであの人の前だと、わたしはいつもこうなるの!?


 小さく拳を握りしめて、ジュリはうつむいた。


 胸の奥では感情が火花のように散っていた。



 もう……次こそは絶対に負けないんだから。

 お気に入りの『緑の下着』ーー今度こそ見せてやるんだから!


 そう心に誓いながら、ジュリは密かに闘志を燃やしていた。


 こうして、ジュリの気持ちも伝わらないまま、物語は進んでいったーー。



 ーーその直後。



「で? さっきからずっと気になってたけど、その掴まれてる腕。

 どういうつもりかしらん、ゴクちゃん?」



 パメラが冷たく、つややかに微笑む。



 ゴ、ゴクちゃんッ!? ああ……。

 『これ』見られてたんですか……やっぱりッ!



 ゴクトーは思いながら目をはぐらかす。



 アカリが同時に「ぷっ」と吹き出した。



 ノビはキョトンとしたまま、何のことかわかってない。



「くっ! こっちは真剣だったんだぞ!」



 ゴクトーは叫んだ。



 酒場のテラスに「ゲラゲラ」とした笑い声が響く。



 だがーーその裏でそれぞれの想いが静かに燃えていた。


 パメラの胸の奥に灯った、何か懐かしい感情。


 ノビの心に宿る、絶対に認めてもらいたいという願い。


 アカリの胸元に忍ばせた秘密の『紅い蝶』。


 ジュリの『緑の下着』に込めた、密やかな恋心。




 それぞれの“糸”と”宿命”が交錯する中、旅の幕はまた、新たに開かれようとしていたーー。











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