模擬戦編 3 〜 砕け散る甲羅とパメラの叫び〜
次鋒戦です( ´θ`)ノ
雲のソファからスクッと立ち上がる、
女神東雲の顔に笑顔が宿る。
一方で隣で白鬢を撫で付け満足そうに目を細める神シロ。
そんな二人の表情を見ながら、
黒銀の目を雲間に落とすトランザニヤがポツリ。
「初戦は、アカリちゃんの大金星だな」
そう言って目尻を下げ口元を緩ませた。
ーーその頃ゴクトーたちは、
イブたちとの初戦を終え、次に誰を次鋒にするかの作戦会議中。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
こちらににじり寄るエリナがじっと俺を見つめ、
顔を朱らめながら耳元で囁く。
「初戦勝利おめでとう。
アカリ・ミシロは戦えないでしょう?
次鋒同士の対決にするしかないわね」
艶やかな唇を動かしながら、唐突に俺の腕を脇に抱え込んだ。
「んんっ……? どうした急にッ!」
プルッとした感触が腕に伝わり、耳まで熱が籠る。
「……いきなり、腕を掴むな……!」
思わず口から飛び出す、
動揺を隠せない俺の言葉。
柔かすぎるだ……ろッ!
まぁ嫌いじゃないですけども。
思いとは裏腹でーー必死に腕を引き離そうとするも。
アマゾネスの彼女の腕力は思いの外強く、
さらにぐいっと引き寄せられた。
ガシッと腕を決める(若干痛い)エリナが再び、艶っぽく耳元で囁く。
「あのぅ、あのね……アタシのことはエリナと呼んでくれる……?」
その言葉に即座に反応ーーカチッ!っとした音が脳内に響く。
『江戸っ子鼓動』が『妄想図鑑』から「よいしょ!」と飛び出し、
「ドクドコドン!ドクドクドドン!カッカ。ドコドコ!」
激しい暴れ太鼓を打ち鳴らす。
「旦那! 今日も祭りですかい? こうなりゃ総出で盛り上げますぜ!」
そう言って、着物に襷をかける。
「揶揄うなッ! 早く図鑑に戻れ!」
心中で命じた瞬間、『江戸っ子鼓動』がスッと図鑑に消えていく。
カチッとした音が顳顬に伝わりーー
我に返った俺は思わず零す。
「わ、わかった。エイマス……
い、いや、エリナか……た、頼むから、離してくれ……!」
顔は熱を帯び、動揺をうまく隠せない。
仲間たちの冷ややかな視線を浴びつつ、場も静まり返る。
そんな中、イブの陣営に動きがありーー
空気が変わった。
鋭い眼光でこちらを見据え、
気迫を滲ませる、白い軍服を纏う師団長が名乗りを上げた。
「姫様……あたしが……次鋒、キキ・キリン、参ります」
槍を握る手に力を込めながら、一歩前へと踏み出した。
一方俺の陣営では、クロニク、ミリネア、ミーア、アリーに囲まれる中、
「したっけ……次鋒、ノビ・フロッグ・ケロッグ……いぎまづ!」と。
ノビもまた訛り混じりで対峙する意志を示した。
「ゲコッ!」 と緊張からなのかーーノビが喉を鳴らす。
「オラだって……勝でる?いや……勝でるんさ……!」
ノビが自分に言い聞かせるように深呼吸しながら、
甲羅の胸当てを両手でしっかりと抱えた。
そして、意を決して隣にいるエリナに小声で耳打ちをする。
何やらゴニョゴニョと話しているが、こちらには聞こえない。
エリナが僅かに眉を動かし、視線をイブに向け尋ねる。
「イブ姫様……この者が、この胸当てを盾に使うから……
【補助魔法】をかける許しを得たいと申しておりますが……」
「キキよ、構わんじゃろう?」
イブの問いかけに、キキが槍を肩に軽く担ぎ直しながら短く答えた。
「姫様の仰せのままに……」
イブがその言葉に満足げに頷き、ノビを見つめる。
「良いぞぇ!」
「ありがてぇんさ……!」
ノビの目がほんのりと潤み、頭を下げると大声で叫んだ。
「ありがどうございまづ! 先生ーーお願いするんさーー!!」
その呼び声に応え、パメラがいつもの余裕の笑みを浮かべながら、
紅杖を振り翳す。そして彼女が魔力を込めて唱えた。
「【メガント】!!」
その瞬間、ノビが抱える甲羅の胸当てが一回り、いや二回りも巨大化し、
重量感たっぷりの『甲羅の盾』として生まれ変わった。
それを手にして、ノビが感嘆の声を漏らす。
「凄いんさ!これなら……」
しかし、その魔法を唱えたパメラの『爆弾』が、
ひと回り小さくなったように感じる。
だがーー”ブルン”。
ーー闘技場に起きた旋風がエリナ・エイマスのスカートを靡かせる。
「何よ、これっ!」
必死にスカートを押さえ、エリナ・エイマスがパメラを睨みつける。
それを目の当たりにしながらも、
パメラの姿にばかり、釘付けになるノビが零す。
「先生、いつもより、盾を大きくしでくれたんさ……」
ノビの後ろでその光景を目にした俺は、
二人の師弟関係に思わず口元が緩む。
一方で。
なぜかエリナがじっと俺を睨んでいる。
エリナ・エイマスさんや、レースの赤と黒ーー
随分と派手な感じですけども?
女子の冒険者ってみんなそうなのッ!
そんな目で見られても、俺のせいではないんデス。
しかしなぜだろう……あの目に見られると……吸い込まれるッ!
彼女の視線は俺の心を見透かすようにーー冷ややかで、
背筋に”ゾクゾク”とした寒気が走った。
必死に心中に沈める俺同様、クロニクも目が点になっていた。
キキとノビの戦闘準備が整う中、エリナがふと視線を横へ逸らした。
視線のその先にはパメラがいた。
パメラの笑みは余裕たっぷり。
エリナのその表情から読み取るに、彼女の心中には、
”ある種の競争心”が芽生えているようにも感じる。
「あの紅い装備の女、やけに余裕そうね……
アタシには胸のコンプレックスはあるけれど、
美貌なら負けてないんだから……」
小声で漏らすエリナが振り返り、
自ら"プル”っと胸を揺らし、チラリと俺を横目で見た。
その仕草にはどこか挑発的なものを感じる。
「……!!!」
俺は反射的に目を逸らし、
なんとか冷静を保とうとしたが、エリナの視線の強さに気圧される。
……ってか!今はノビの戦いだろ、俺ッ!
そう自身にツッコミを入れながら、
キキとノビの次鋒戦ーー戦況を見つめた。
そんな中、スカートを整え、エリナが気を取り直して静かに問う。
「準備はよろしいか?」
その言葉にキキもノビも無言で力強く頷く。
闘技場の中心に視線が集まる中ーー緊張感が張り詰める。
二人の意志を確認したエリナが、一呼吸置いてから声を張った。
「始め!!」
エリナの掛け声と同時に、キキが槍を大きく構え、
軽やかに間合いを詰める。
一方で、ノビは巨大な盾を両手で抱え込むように持ちながら、
一歩ずつ慎重に動き始めた。
ノビが『甲羅の盾』を構え、対峙するキキを真っ直ぐ見据える。
一方、キキが紫の【覇気】を纏い始める。
戦況を見つめるアリーが、メタリックブルーの瞳をカッと見開き言った。
「凄いオーラにゃね」
「アリー殿、あれはオーラではなく……【覇気】。
相手の魔力や闘気の流れ、殺気などを“読める”技術なのです」
ミリネアがキキを見据えて、アリーに説明を加える。
鍛錬場の中央ではキキが、
その細身の長槍を軽く回しながら冷たく笑みを浮かべ、
鋭い眼光をノビに向ける。
「このアダマンタイト鋼の槍を、ただの甲羅ごときで防げるとお思いか?」
ノビに告げるキキの表情には、明らかな侮りが滲んでいる。
その言葉にノビが微かに動揺を見せたーーその瞬間。
キキの長槍が視界から消えた。
“プスッ”
「ひぃ!」
“プスッ”
「うわっ!」
“プスッ”
「あわわっ!」
目にも止まらぬ鋭い突きが三連続で放たれた。
ノビの悲鳴とともに盾が槍に穿たれ、
彼は防戦一方に追い込まれていく。
それでもノビが、見えない槍を感覚なのか、
偶然なのか、何とか盾で躱していた。
その速さに反撃する隙を見つけられず、
ノビに表情には焦りの色が濃く滲む。
「この突きの速さ……【覇気】を読まねぇど、
いずれやられるんさ……しだっけ!」
大きく息を吸い込むーーノビの目が一瞬、白く濁る。
次の瞬間、カッと見開かれ、金色に黒点を宿す瞳が緑色に変わった。
その目がキキを見据える。
ゴゴゴゴゴ……!
「【エンチャント・ギガント・ボディ】!」
ノビが【身体強化魔法】を唱えーー
場の空気を取り込むような、緑の光に包まれた。
響き渡る声とともに膨れあがるその身体。
そんな中、双子ボインの妹メルルが声を漏らす。
「あれは……【身体強化魔法】……筋力や反応速度を強化する魔法……」
ゴクリ…と、見ている誰かの喉がなった。
周囲に緊張が走る。
その瞬間、アリーのフワフワの尻尾が、ピンと逆立つ。
「ノビたん……にゃんか、いつもと違うにゃ!!」
そう言って彼女が戦況をじっと見つめる。
一方、そんな俺は心読スキルーー発動。
イブが何かを内心つぶやくのを察する。
(キキには一撃必殺の切り札があるのじゃぞ……どう躱すのじゃ?カエル君)
彼女が戦況を見つめ口元を緩ませる。
仲間たちも手に汗を握る闘技場ーー中心で構えるノビに、
「ほほぅ……【覇気】を纏うとは……意外とやるねぇ!」
ジリジリと詰め寄るキキが、笑みを浮かべ、槍の連撃を繰り出したーー。
”ブスブスブスブスッ!”
ノビの『甲羅の盾』を次々と貫き、穴が広がっていく。
戦況を見つめるミリネアがその槍さばきに目を丸くする中ーー
余裕の笑みを浮かべるキキ。
「防ぐのが精一杯のようね、カエルの坊や!」
そう言って彼女が【覇気】を高めていく。
”ザワザワザワ”
音もなく、流れていた場の空気が震え始めたーーその瞬間。
キキの身体に紫の魔力が溢れ出す。
そして、彼女が一気に勝負を決めるべく、闇属性魔法を解き放つ。
「これでも防げるかしら?【デビル・ボーン・スピア】!」
"ボォォーーッ༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄”
紫炎が長槍を包み込んだーーその刹那、
禍々しい骨のような形に変貌を遂げた。
闇属性の魔法だとミリネアが零す。
“バキン!”
その槍は恐ろしい威力でノビに叩きつけられーー
バリッバリッと盾が砕け散る。
盾が燃えながら次第に小さくなる中、ノビの汗が止まらない。
肩や腹を覆うプロテクターも粉々に砕かれていくーー。
「こんな攻撃、防ぎきれるもんかさ……!」
必死に歯を食いしばるノビが、突きを喰らうたび、
動揺を隠せずにいた。
その時、キキが次なる技を発動ーー
最後の一撃を放とうと呼吸を整える。
「【グリフォン・デル・トラスト】!」
その詠唱はノビには決定的だったかもしれないーー。
新たに変化を遂げた長槍が黄色い炎に包まれた。
その魔法は特殊な光を纏いながら形を変えていく。
先程の闇属性魔法とは明らかに違うと、
今度はパメラが声を震わせてつぶやく。
長槍がグリフォンの幻獣の体を成し、
「グルグェーー!」と咆哮を上げ、
鋭い爪と嘴を輝かせてノビに襲いかかる。
その一撃はとても避けられない。
戦況を黙って見ていたパメラだったが、
居ても立っても居られず、立ち上がる。
こぼれ落ちる一筋の涙。
スカートの裾を、ギュッと握りしめた。
「ノビーーーーー!!」
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




