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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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19/75

ゴクトーの長ーい、一日【後編】──肉屋とパン屋と……黒い影

 テンガロンハットとローブを手に入れたゴクトー。

 食料調達のため、次の目的地「肉屋」へ向かうが──予想外の人間ドラマに巻き込まれる。

 





「……あの帽子をようやく手に入れたな」


「ははは、面白くなってきたな、黒銀の」


 神シロは腹を抱えて笑っていた。


「まだ、出逢いは終わっちゃいないさ。この村には因縁と未来が潜んでる」


 神々の視線は村の一角に注がれる。







 ◇(主人公、ゴクトーが語り部をつとめます)◇ 






 気持ちを入れ替え、ゆっくりメモを広げる。


 ”特化スキル”を持つ俺はこの地図が頼みの綱だ。



 ……次は薬屋だな。


 

 思いながら地図を見て歩く。 


 だが、ふと背中にドス黒い【覇気】を感じた。

 誰かにじっと見られてるような感覚。

 それはこの世のものとは思えないーー威圧を放っていた。



挿絵(By みてみん)

(*魔族の監視役のイラスト)


 咄嗟に振り返る。

 しかし、後ろには誰もおらず、妙な【覇気】も消えていたーー。


「なんだったんだ……」


 俺は独り言ち、また歩みを進めた。


 偶然にも肉屋を見つけ思わず入る。

 木製の扉が乾いた音を立てる。



 その瞬ーー木を燻したスモークの香りが鼻をくすぐる。

 肉屋のカウンターには、干し肉や燻製が並び、肉の塊も天井から吊るされていた。


 店内にお上品な声が響いている。



 おほほほほほ、ってなぁ。

 村の肉屋だぞっ!


 目が点になるくらいだ。


 身なりの上等なご婦人方が列をなす。

 きっとこの村に出店してきた、大手チェーン店の重役の妻たちだ。

 匂いでわかる。彼女たちがつけるフローラルの魔香水。それが店のスモークの香りと相まって、まるで高級デパートの入り口前にいるようなか感覚。


 あ、でもカルディア魔法国で、入ったことなかったよな。

「サンドル・デ・パート高級店」ーー。


 師匠と待ち合わせた、店前でのことが思い出される。

 

 俺はご婦人たちの言葉に耳を傾けた。


 「このお肉、ステーキにしたら美味いかしら?」


「オックスは高級ですからね、品質は間違いないですよ」


「美味しいのよね。ここのお肉……ふふふふふ」


「あるだけ全部、いただくわ」



 なんて言っちゃってるよ。 


 オックスは牛のような魔牛。

 ズードリア大陸の西南、巨人族が治める『カイド』産が最も有名でポピュラーだ。 

 ご婦人方はすでに、商品を吟味し始めてる。    


 っえ、全部っ!? やべ、俺も買わねぇと。


 周囲にいる女性従業員たちは、忙しなく接客していたから仕方なくーー

 テキパキ仕切るおばちゃんに声をかける。

 ふくよかな顔立ちの、店主らしきおばちゃん。



「乾燥腸詰と干し肉。それと鶏モモの燻製も頼む」


 俺の言葉に優しい笑みを浮かべつつ、彼女は商人らしい哲さを漂わせる。


「あんた……その刀『冒険者』だよねぇ… ずいぶん買い込むねぇ。旅かい? それとも……あのダンジョンかい?」


「ダンジョンだ」


「そうかい……」


 彼女は笑い、手早く注文品を包みながら話し始めた。


「うちの店に来る『冒険者』たちから、よく聞くのよねぇ。

 こっちからたずねたわけじゃないんだけど、みんな話してくれるのよ」


 その声は滑らかで彼女が続けて紡ぐ。

 

「ダンジョンには、各階層に魔物が現れない『セーフティーゾーン』があるって。でも、その階層ボスを倒さないと次の階には行けないから、そこでみんな野営するんだってさ」



「そうなんだ」



 俺の返事は、彼女の早口に一層拍車をかけた。



「で、うちの乾燥腸詰をパンに挟んで食べるのが最高だって評判よ。お世辞かもしれないけど、悪い気はしないわねぇ」



 そう言っておばちゃんは、誇らしげに笑っていた。


 俺にとってその話は”とっても貴重な情報”。



 なるほどな……セーフティーゾーンか。


 良いこと聞いたな。



 思いながら耳を傾けつつ、俺は尋ねる。



「いい話が聞けたよ。それでーーパン屋はこの近くにあるのかい?」


「えぇ、この通り沿いにあるわよ。村で一番のパン屋だから、すぐわかると思うわ」


 おばちゃんがさりげなく口元を綻ばせて、俺に肉を手渡す。



「はい、全部で金貨一枚にしてあげるわ。おまけよ、ありがとね~」



 彼女に感謝しつつ、金貨1枚を手渡し、*『アイテムボックス』へ収める。



 親切なおばちゃんだ……と、店を出る。



 俺はテンガロンハットを被り、気合を入れた。


 この時、何だか頭上で声がした気がした。



「ん?」



 空を見上げ周囲も確認ーー何もない。



 気のせいだよな。



「ヨシ!」



 あの話を聞いたらパンに挟んで食べたくなった。



 次の目的地は変更。俺はパン屋を目指した。


 教えてもらったパン屋の前に到着。ほんの数分歩いた距離だ。



 だがーー『CLOSE』。店の扉にその札がぶら下がる。



 閉まってるとはな。

 仕方ねぇ、薬屋に行くか。



 次の行き先を確認しようとした、その瞬間ーーパン屋の中から怒声が響いてきた。


 年老いた男と若い青年の声が入り混じり、まるで喧嘩でもしているようだ。



 何だ……? 

 一体、中で何が起きてるんだ?



 不穏な空気に思わず立ち止まる。



「なんでパン作りの修行に行っだお前が!!」

「オラはパン屋になんが …… なるもんかさ!!」


「バガもん!!! お前が継がんでどうするんさ!!」

「サーシャがいるだろさ!!!」


「サーシャも手伝いは、しでくれでるが……いずれ嫁さ行くんだ。……この店ばどうなる……」



「つんぶれれば… いいんさ!」



「ぐぬぬ…… もう呆れだわ。……何年振りがに帰っで来たど思ったら……『冒険者』なんぞになる……? ふんざげるな! この親不孝もん!! お前 なんぞ出でいげ───!!」



「わがったよ!! もう帰ってくるもんかさ!!」



 ”バーンッ!”




 突如ーー大きな音とともに勢いよく、パン屋の扉が開かれた。


 カキッ

 

 その衝撃で『CLOSE』の札が地面に落ちる。


 中から飛び出してきたのは、若い青年だった。


 その青年は険しい表情を浮かべていた。



 見せ物じゃねぇ、って顔だな。

 俺をそんなに睨むんじゃねぇよ。



 青年が鋭い目で俺を見据える。



 一瞬、緊張した空気が場に流れる。


 だーー何も言わずにそのまま、青年の姿は村のどこかへ消えた。



 何だったんだ、今の? ドラマか?……と、チラリと落ちた札に目をやる。


 もうパンを買うのは無理そうだ。


 それにしてもあの若い男。

 年下に見えたが、あの迫力、なんなんだ。



 ぼんやりと頭の中を整理は、してはみるものの。

 俺は勢いに押され、無意識にメモを握りしめていた。



「あ!」



 気つけば、地図がクシャッと。



「……せっかくの地図が……」



 慌てて両手で伸ばしながら薬屋へ向かう。



 道に迷い、何度も立ち止まっては滲んで読めなくなった文字を指でなぞり、メモを確認。


 しかし、一向に場所はわからない。



 見上げると陽は茜を帯び、墨空が広がっている。


 俺の迷いにも容赦なく陽は暮れていく。


 準備、間に合わないかもしれないな。

 ……ってか、呑気かっ!


 我ながら呆れる。この後に及んで、まだ自分にツッコミを入れる性分が憎い。


 怪しい声、魔導具屋での買い物、肉屋でのやり取り、パン屋での一件ーー



 振り返れば、考え事ばかりしていた気がするーーだけど、何も得ていないようで、何かが変わり始めた気もする。



 でも、どうしてもな。 頭が回らないんだよ。


 わかるかい? そういう日ってあるだろ?



 今日一日を思った以上に長く感じる俺だったーー。


 ……そして、その夜は、まだ終わっていなかったのである。





 *補足


ー『アイテムボックス』ー


 所持者が持ち運べる「鞄」。収納魔導具。

 現実より高度な魔法的性質を持つことが多い。

 小さく見えるが、内部は広さが現実の体積を超える。

 いわば「空間の歪み」を利用した超小型の亜空間。


 所持者がボックスを開閉するだけで、内部の収納物を取り出したり、追加でしまえたりできる。食料などは傷まず、そのままの状態で維持できる。














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