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1  プロローグ







挿絵(By みてみん)


 

 かつて、ズードリア大陸には神がいた。



⸻すべては、一人の妄想癖の少年と、肉食系姉妹の出会いから始まった。






「『ズードリア大陸』も……変わったってきたもんだ」


「ははは、何百年も見てよく飽きないな、シロよ」


 いつもの下界見物に一興しながらつぶやくと、黒銀の目を持つ友が揶揄う。



 「遥かなる時の彼方のことだがな……天空に浮かぶ、見目麗しい我らの城を背によく戦ったな……」



 「ああ、そうだな」



「しかし変わらんな。高くそびえる山々には龍、緑豊かな森には世界樹と共に生きるエルフたち……」



 黒銀の目を細め、友の顔もどこか懐かしむようだった。



 「澄んだ湖と流れる川、リザードマンと呼ばれる亜人⸻様々な種族が共存し、調和の取れた生活を送っていたよな」



「あのことがなければな……」


 シロは思い返しながらつぶやく。



 黒銀の目を持つ友の過去の記憶が蘇る。





***





⸻その昔『始祖』。



 そう呼ばれた一族の中に、生まれた異母兄弟は、『ズードリア大陸』を大きく揺るがす。



 その兄が引き起こした『大戦』は、後世に語り継がれることとなる。



 兄は、『純血』ゆえの傲慢と欲望を抑えきれず、先王を暗殺して玉座を奪う。



 彼は王として実権を握り、他の種族が平和に暮らす土地にまで、侵攻を開始した。


 その戦いは容赦なく、大陸は瞬く間に蹂躙されていく⸻。


 彼は、非道の限りを尽くし、『赤髪のガーランド』として恐れられた。




 強欲。


 傲慢。


 残忍。



 そして───殺戮。




 大陸全土に血の雨を降らせた。


 彼の存在は、全てを破壊し抗えぬ脅威として君臨する。




 我こそは、王……。


 この世界の秩序は全て、我の手で崩れ去る。 


 いや、この世界の全てを超えて、【神】となるのだ……!




 赤髪のガーランドは、自らの思想に陶酔し、非道の道を歩み続ける。





 一方、彼の異母弟である『銀髪のトランザニヤ』。


 人族との『混血』である彼は、幼い頃からその出自ゆえに異端視されることも多かった。



 だが、逆境の中でも彼は、純粋で心優しく、異なる価値観や文化を尊ぶ姿勢を崩さなかった。


 その穏やかな眼差しは、どんな者にもわけ隔てなく向けられ、多くの人々の心を救ってきた。


 彼は、大陸の多様性を『世界の美』と称し、他種族への慈愛と共存の理念を抱いていた。



 しかし、その理想主義は、兄からは甘さと見なされ、嘲笑と暴力を伴う、厳しい仕打ちを受け続けることになる。



 兄の非道な振る舞いと、果てなき侵略の姿勢に心を痛めながらも、彼は長らく対話による解決を願い耐え抜いてきた。



 けれど、燃え盛る村々の光景と、悲痛な叫びを前にして、トランザニヤの心に決意が芽生える。




「誰かが、この狂気を止めねばならない」



  静かな怒りを胸に秘めた彼は、かつて、祖先達が築こうとした平和の理想を守るため、ついに立ち上がった。




「それが例え、兄に刃を向けることになろうとも……」


 

 彼は独り言のように───



 朝日が地平線から昇ると、その光が大地を照らし、まるで黄金の絨毯が広がるように感じる。




ゴゴゴゴゴ……



 静寂の中、大気がわずかに震え始める。


 銀髪が朝日の中で煌めきを増していく。



 次の瞬間──彼の身体を眩い金の光が包み込む。




 その時──彼の"黒銀の瞳”の奥には、揺るがぬ鋭い光が宿っていた。




 彼は、【神聖(賢者の最上級技能)】という、超上級能力(スーパースキル)を産まれながらにして、備えていた。



 そして──人々を惹きつける【魅了覇気(個人が持つ特殊技能)】を巧みに駆使し、各地を奔走(ほんそう)する。




 兄に抗えるのは、きっと俺しかいない。

 やるしかいないんだ……。


 

 眉に皺を寄せ大きく息をつく。



 高潔な信念と穏やかな語り口で、長らく孤立していたハイエルフや獣人、ドワーフ族など、彼は説得を重ねる。



 たが、亜人たちは種族の仲間意識が強い。


 多種族との交流もこの時代には、まだあまりさせれていなかった。



 ただ──種族の長老の名前や特徴だけお互い伝わっていた。



 おいおい これ、大丈夫か俺……?


 

 トランザニヤは嘆息し、首をかしげた。

 


 集まってもらった一同を眺め、彼が口を開く。




「ひとまず、皆、聞いてくれ。これをみてくれ……」

「おお……」

「それは……この世の武器なのか……なんとも神々しい」

「皆には、これを使ってもらう……」




『銀髪のトランザニヤ』の説得に、長老達も次第に打ち解けて行った。



 そして──彼は、多種族の長老たちとの連携を築き上げた。


 平和を求める彼の熱意に動かされた者たちが、次々と彼の元に集まった。


 兄の暴虐に抗うため、大規模な軍勢が形成されていった。



 戦火は、瞬く間にズードリア大陸全土へと広がり、兄の圧倒的な力は多くの者達を恐怖に(おとしい)れた。



 しかし──トランザニヤ率いる種族連合軍は、『七星の武器』を手に、勇敢に立ち向かった。


 彼の【魅了覇気】に触れた者達は次第にその心を預け、戦士達の士気は日を追うごとに高まっていった。



 幾度もの激戦を経て、ついにトランザニヤは兄──『赤髪のガーランド』との決戦に臨む。



 空が裂ける。


 魔力(マナ)の波が山を吹き飛ばす。


 そして── 大地を震わせる。



 魔力(マナ)の激突が繰り広げられた末、彼と軍勢は兄の支配を打ち破ることに成功する。



 だが、勝利の喜びの中で、トランザニヤは静かに刀を収めた。


 その瞳には怒りではなく、哀しみと慈悲が宿っていた。



「兄上、貴方を殺すことはしない。けれど、これ以上大陸を脅かすことも許さない」


 

 そう言うと、彼は長老達と協力し、兄を魔界へと追放する道を選んだ。



 そして──再び戻ることがないよう、強力な封印の術を施し、魔界への門を閉ざした。




 その瞬間、戦いは終わりを迎え、大陸には新たな平和の息吹が訪れたのだった──。




***



「悪い予感がするな……」



 悪しき運命が再来するのではないか、という不安が黒銀の目の友の中で渦巻いていた。



 だが、流れゆく数百年の間にかつて、この大陸を襲った惨劇の記憶は人々の心から薄れつつあった。



 そんな中、下界を覗くシロが指差す。



「ほほ、あの男の子、おもろいな」


 シロはニヤリ笑った。



 「ん? どんなやつだ?」



「お前の目の色と同じだ。 しばらくは⸻これで退屈せん」


 

 シロは小声でつぶやく。




 今、ズードリア大陸は再びその美しい姿を取り戻し、魔法に満ちた日々が続いていた。



 だが、運命は残酷だった。

 静寂の裏に影が動き出す。

 



 運命の歯車は再び動き出そうとしていたのだ⸻。





 



 それは突然だった。

 

 ズードリア大陸を襲った天変地異。


 穏やかな空が暗雲に覆われ嵐が猛り狂う。


 地面はうねり、津波が高く舞い上がり稲妻が空を切り裂く。


 これらの天変地異はただの前触れにすぎなかった。



 


 それはズードリア大陸の東南、神秘な海マレー海沖で起こる。


 まるで大地の怒りが噴出するかのように、突然として火山群が隆起し始めた。


 その黒い煙は空を覆った。


 龍の咆哮が如くまるで雷のような音が響き渡り、溶岩が滝のような一筋の奔流に変わる。


 海水は赤黒く沸々と湧き上がる。まるで地獄が広がるかのような光景。


 新たな大地が生まれ広がるのは禍々(まがまが)しい魔力に満ちた空間。



───やがて。


 

 その地に現れたのは【黒い門】だった───。


 漆黒の石でできたその門は、周囲の景色と対照的にまるで時の流れを拒むかのように静かに佇んでいた。


 門が開いた瞬間、世界が一秒だけ息を止めた。


 暗い影がその隙間から漏れ出し、見る者の心を震わせる。


 門の向こうには見たこともない異形の"魔族たち”。


 彼らは恐怖と混乱を撒き散らしながら次々とこの世界へと現れた。


 魔族たちが踏み入れた新たな大地、王の名を冠する国『ガーランド』として築かれていった。



 ガーランドは急速に繁栄し彼らの文化と魔法がこの地に根付いていく。



 果たして───そこに待ち受けるものは破滅か。



『太古の大戦』が今、再び起ころうとしていた───。



 その地の支配者は『魔王ガーランド三世』。



 彼は祖父である『赤髪のガーランド』の名を冠し、ズードリア大陸の支配を企むのであった───。






◇ ◇ 





 【魔界】より降臨せし、魔王ガーランドは重厚な玉座に悠然と腰を下ろしていた。


 左肘を肘掛けに預け、(あご)には軽く拳を添える。


 その紅い瞳と銀の虹彩(こうさい)は一瞬たりとも、油断なく世界を見据えるようである。



 彼は片目を瞑り不敵な笑みを浮かべている。



「ふむ……」



 口元から覗く二本の鋭い牙が彼の存在の異質さ。


 赤い髪が鮮烈に揺れ、薄青い肌に長く鋭い黒い爪が映える。


 その端正な顔立ちは見る者全てを圧倒し、【脅威】と【覇気】をまざまざと見せつける。




 静寂の中───





カツッ… カツッ… カツッ…





 王宮内に鋭いハイヒールの音が規則正しく響く。




 その音の主は魔族の【四大貴族】の一人。



───ドルサード。




 (みどり)の髪を揺らし、黄色の瞳に金色の虹彩が冷たくも妖艶に輝く。


 灰青色の肌には黒く美しい二本のツノが際立つ。


 彼女のその顔はどこまでも整っている。


 赤いドレスが豊満な胸元を惜しげもなく露わにしていた。


 彼女の足元に流れるスリットから覗く、灰青色の長い美脚が視線をひきつけて離さない。


 高さのあるハイヒールがその一歩一歩を強調し、貴族としての威厳と官能的な美しさが目を引く。


挿絵(By みてみん)



 それを彼女は存分に表現していた。



 ドルサードはしなやかな身体を揺らし、玉座の魔王ガーランドへと近づく。



 そして、彼の背後に回り込む。


 すると後向きに玉座へ身を預けた。


 彼女は長い足を組み美しい美脚のラインを強調する。




「魔王様……」




───甘美な声が王宮に響く。




 ドルサードは微笑みながらガーランドに顔を向け、低く囁いた。




「トランザニヤで、双子が生まれたのをご存知ですか?」



「……それが真ならば、物語が少し、狂い始めるな」



 その言葉に魔王は軽く眉を動かす。

  

 瞬間、口元に不敵な笑みを浮かべた。



「ほう……姫だけだと聞いていたが……皇子か、それとも……また姫か?」



 魔王は右手をドルサードの胸元に滑らせた。


 ドルサードはわずかに顔をかたむけ、赤い唇を妖しく舌でなぞりながら、魔王の耳元にそっと近づく。




「"もう一人"がいたのです──誰も知らないはずの、皇子が」



 ドルサードは妖艶な声で囁く。



 魔王ガーランドは彼女のふとももへ黒い爪を当てる。


 その動きにドルサードは甘い声を漏らした。


 彼女はわずかに身を震わせた。




「ふっ……放置するわけにはいかんな……トランザニヤの皇子か……」



 低く呟く。


 ガーランドの口元には冷徹な笑みが再び浮かぶ。




 いい機会だ……。

 動き出すには、ちょうど良い。




 その笑顔の裏にはさらなる画策と計略が渦巻いていた。




 魔王の一挙一動が、この大陸に新たな波乱をもたらそうとしているのは明らかであった───。





◇ ◇ ◇ 





 その頃───ここはズードリア大陸、北方の島国『トランザニヤ』。



 平和に暮らす一族のもとに双子が生まれた───。


 その意味が何をもたらすのか、大陸の者たちはまだ知る由もなかった。



 この知らせは魔族の耳にも届いていた。




 新たな混沌が大陸を(むしば)む時が来た。


 その始まりを告げるのは海の向こう、燃え続ける【黒い門】。


 この大陸の物語は果たして────どのような結末を迎えるのか。


 

 その時、運命が変わった。


 


 「どうかッ! 妄想癖、治りますようにッ!」


 シロが見つけた少年ゴクトーは指を重ね、天を仰ぐ。


 

 「ん? 何だか……見られてる気がする。……血がたぎるな」


 ゴクトー少年がつぶやく。




 新たな冒険が今、まさに幕を開けようとしていた────。













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