02 司祭《断罪者トリステル》
北部の山脈沿いに一する鉱山都市ジルコット。
その中央にある広場で、今日も公開処刑が行われようとしていた。
広場立っている杭には処刑予定の者達が縛り付けらており、足元は油を撒いた薪と藁で敷き詰められている。
縛り付けられている者の殆どは魔族だったが、一人だけ人間がいた。若い修道女である。
「トリステル様、お許しを……」
修道女は死刑を執行しようとしている司祭のトリステルに命を乞う。
トリステルは修道女へと歩み寄ると、微笑みながら彼女の長い髪をゆっくりと撫でた。
「許しを乞うべきは私ではなく神ですよ。さすれば、きっと天国への扉は開かれるでしょう」
「私は何も過ちを犯してはいません」
その言葉に、トリステルの表情は急に冷たいものとなった。
「貴方は忌むべき存在である魔族の命を助ける為に我々が神から頂いた奇跡の力を使った。これは神に対する冒涜に他なりません」
「人間であろうが魔族であろうが、神の造りし命です。聖典の教えにも――」
するとトリステルは急に修道女の髪を掴み、乱暴に首を振り回す。
「この愚か者が! 貴様は魔族の手によってどれだけ罪なき人間が殺されたかわかっているのか! 魔族は教会に――神に盾突く邪悪な存在! 一人残さず焼き払う事こそが神の意志だ!」
「そんなことは……」
「魔族に肩入れした貴様もまた同罪。せめてこの浄化の炎によって魂が清められる事を祈ろう」
トリステルは修道女を手放すと、助祭の持つ松明を手に取り、修道女の足もとの藁に火をつけた。
藁はみるみるうちに燃えていき、次第に薪へと燃え移っていく。
「おやめください……トリステル様!」
炎と煙に包まれながら命乞いをする修道女を見つめながらトリステルは言った。
「私は神の使い。悪魔の囁きには耳を貸さぬ」
ついに火は修道女のローブへと燃え移り、命乞いは悲鳴へと変わっていく。
燃やされている者達の悲鳴が響き渡る中、肉の焦げる臭いが辺りを充満する。
トリステルは自身の清き行いに満足しながらその様子を眺めていると、後から声が聞こえた。
「……ほんとに悪趣味」
「神への冒涜はたとえ仲間と言えど許さんぞ、ルナシィ」
黒いローブを着た根暗そうな少女――暗鬱のルナシィは淡々と言う。
「私たちの役目は魔族を燃やす事じゃない」
「マルクの頼みは当然全うするつもりだが、私はまず神に仕える者でな」
「……」
「それにどのみち魔石の採掘は順調だ。マルクの計画に支障は出ていないだろう」
「戦争が終わり、ダムド魔国との和平条約が結ばれた時点で魔族はもう敵じゃない。トリステルのしている事はただの人殺し――」
ルナシィの言葉を遮るようにトリステルは怒鳴る。
「認めん!」
歯を食いしばり、拳を強く握りしめるトリステル。
「これだけ人類の血を流しておいて降服したから敵ではないだと? 罪には罰があるべきもの。国がそれを行わないと言うのであれば神に代わってこの私が行うまで!」
そしてトリステルは息を落ち着かせ、乱れた髪を手で直しながら言う。
「……故に、私はマルクの革命とやらに協力している。しかし、人類と魔族の共存を望む彼の思想もまた神の御心そぐわないものだ。残念ながらゆくゆくは彼も魔族共々燃やすことになるだろう」
「そうやってちょっとでも自分と意見が食い違う人を殺していったら、誰も残らなくなる」
「そんなことはない」
トリステルは異端者たちを焼き尽くして天へと昇る炎の柱を見上げる。
「――私と、神が残る」
ルナシィは呆れたように溜息を吐き、トリステルに言う。
「……だったら、そんなトリステルに良いお知らせ」
懐から取り出した手紙を、ルナシィはトリステルに渡す。
「なんだこれは?」
トリステルはそれを手に取り読み始めた。
そこに書かれた内容を理解すると同時に、彼は大きく目を見開いた。
「こ……これは……」
そして驚きの表情は歪んだ笑みへと変わっていく。
「魔王の娘が生きているだと……」
「うん。それもネズミの情報によるとここに向かってるみたい」
「なるほど……で、この作戦か」
トリステルは手紙を折りたたみ、ルナシィに返した。
「魔族との共同作戦というのは気に食わんが、それで魔王の娘を捕らえることができるのなら神も良しとするだろう」
「さっきまで魔族との和平条約を認めないって言ってたのに……都合のいい」
「何を言う。諸悪の根源である魔王――その血を継ぐ娘を裁けたのであれば、私の行いは確実に神の前で義とされる。他の魔族はその後始末すればいいだけだ」
燃え盛る炎のを見つめながら、トリステルは高笑いをする。
「愚かな罪人どもに見せてやろうではないか、この地で神に変わって裁きを下す断罪者トリステルの力を!」




