砂漠の封印の鍵争奪戦6
久米川君視点です。
翌日、太陽が昇ると共に砂漠のアリの巣ダンジョンの攻略を始めた。
ワイバーンの背にしがみ付いて一晩中、空を飛んでいたので疲れが取れない。
歩いているだけなのにヘトヘトで、皆もあくびが止まらない。
こんな状態なのに戦えるのかな?
僕はフラフラと足元のおぼつかない狭山さんに寄り添うように歩いていた。
狭山さんは終礼で倒れた時からずっと辛そうにしている。
ペットのネズミのチュー太との同調が続いていて、苦しみが伝わってくるらしい。
皮肉にもそれがペットの生存を示す証でもあった。
「早くチュー太を見つけてやらないとな」
「うん」
「まだ生きてるんだろ?」
「かなり弱ってるけどね」
「急ごう!」
「うん!」
だが、ダンジョンは予想以上に広かった。
【範囲哨戒】スキル持ちのグループが先に進んで詳細な地図を作っているがあまりに広いので思うように進まない。
だが、狭山さん以外のモンスタートレーナーの二人がペットを放ち、ダンジョンの様子を見ているので大体の構造は解って来た。
全層で四十八層の巨大なダンジョン。
三十二層から四十八層までがぶち抜きの大空間で、そこに地底都市が広がっている。
広大な空間にビルを思わせるアリ塚が無数に林立し、その中央にピラミッドを思わせる巨大な建造物が鎮座していた。
たぶんそれがアリの王宮で魔王城の封印の鍵を守る女王アリの住処なのだろう。
狭山さんの目的のチュー太は二十層辺りに居るらしい。
水の入り込まない空間に避難出来たようで、命を取り止めていた。
ただ、流れの中に長い間飲み込まれていたのでかなり疲労していて、このままでは命の灯が消えるのも時間の問題であった。
狭山さんの案内で捜索を続けると十七層でチュー太を見つけた。
チュー太の姿を見つけた狭山さんが駆け寄るが、かなり弱ってて視線で狭山さんの事を追う事しか出来なかった。
「チュー太! チュー太!」
狭山さんは小さな白いネズミを見て大粒な涙を流す。
チュー太はもう立ち上がる事も出来なかった。
今にも命の灯が消えようとしている。
「チュー太! 死なないで!」
その時、チュー太が光り輝いた。
そして立ち上がり、狭山さんの手の平から肩に登った。
チュー太は狭山さんの頬を小さな舌で舐める。
狭山さんの強張った表情が一瞬で笑顔へと変わった。
魔法だ!
誰かが魔法で回復してくれた!
「回復したよ! それも特大の回復魔法でね!」
聖女の田辺さんの回復魔法だった。
田辺さんが得意げな顔をしている。
「ありがとう! チュー太元気になれたね!」
「チ!チ!チッ!」
グループのメンバーは狭山さんとチュー太の再会を心から喜んでいた。
そんな中、何か流れる様な轟音と、突如沸き起こる叫び声!
「また水が湧き出た!」
下の階から逃げて来たのは先行してダンジョンに潜っていた【モンスタートレーナー】スキルを持つメンバーが居る六人の班だ。
「こっち! こっちよ! こっちに来て!」
すぐに狭山さんの掛け声に気が付いてチュー太の居た小部屋に逃げ込んで来た。
安堵の表情を見せる先行組達。
「助かったよ!」
「危うく水に飲み込まれるとこだった」
「ここは前回の洪水でも完全に水没しなかったから大丈夫だと思う。でも、来た道は完全に水没しちゃったから戻れなくなったね」
狭山さんの説明によると、どうやらこの場所は二十層から三層登った袋小路に位置するらしい。
その為、水が侵入して来ず水没しないとの事。
ただ、通路が完全に水没していて逃げるに逃げられない状況になっていた。
それに困った事が起きた。
空気だ。
通路が水没して完全に塞がれたので空気が入って来なくなった。
なんか物凄く息苦しい。
チュー太一匹だったら十分に足りた空気も人間十人分ともなると明らかに足りなかった。
皆、息を荒くし苦しそうにし始める。
モンスタートレーナーの二人はしばらく話し合うと連れていた虎の様なモンスターの首を切り落とすと通路の水の中に投げ捨てた。
「何してるのよ!」
「空気が足りなくなるから処分したんだ。君のペットも殺せよ」
狭山さんに短剣を渡してくる男。
こいつの名前は川越。
召喚前は結構頭が切れるので有名な優等生だったが、異世界に来てからはかなり影が薄い。
「いやよ! わざわざ砂漠まで助けに来たのに、殺すなんて嫌よ!」
チュー太は怯えて狭山さんの背中に隠れた。
それを見た川越の目が吊り上がる!
「お前が殺せないなら、俺がやる!」
狭山さんから短剣を取り上げると、チュー太を捕まえようと狭山さんの肩を押さえ付ける川越。
狭山さんが体を押さえる手を振りほどこうとすると、「動くな!」と言い、喉元に短剣を突き付ける!
さすがにそれは無いだろ!
「やめろよ!」
俺は咄嗟にナイフを持つ腕を掴み止める。
川越は見た目によらず力持ちだった。
気を抜くとすぐに振りほどかれそうな感じ。
もう一人のモンスタートレーナーの入曽も川越を止める。
「女の子に刃物を向けるんじゃねーよ! それにたかがネズミ一匹が吸う空気の量なんて誤差程度の物だ。気にするな!」
「その誤差で俺達全員が窒息死したらどうするんだ!」
狭山を助けようと勇敢に川越の手に食い付くチュー太!
川越はチュー太を捕まえる。
そしてチュー太の首を捻ろうとした!
僕は思わず川越に飛び掛かる!
「やめろ!」
川越はバランスを失い僕と共に転げた。
そしてあがる悲鳴!
転んだ勢いで川越の脇腹に短剣が剣身の半分ぐらい突き刺さっていた。
俺は短剣を引き抜くと通路の水溜りに投げ込んだ。
「いてーよ! いてーよ! いてーよ! うわーん!」
まるで駄々っ子の様に泣き叫ぶ川越。
そりゃナイフが腹に突き刺されば泣きたくなるのも分かる。
でも、この泣き方はな。
高校生の泣き方じゃないな。
皆も俺と同じことを思ったのか、声を出して笑う事はしないものの笑いを必死に堪えていた。
殺伐だった空気が一瞬で和やかなものに変わる。
でも、川越はそれ所じゃない。
服を血で濡らして息がかなり荒くなっていた。
「お、おい。お前聖女なんだろ? そんなとこに突っ立ってないで今すぐ俺を回復してくれ」
「ごめん。さっきチュー太に回復魔法を使ったからもうMPが足りなくて回復出来ない」
「なんだと! ネズミにMPを使い果たして回復を出来ないだと! 何考えてるんだ!」
「MP残ってたって狭山さんに刃物を突き付けた男なんて回復しないよ!」
「このメス豚! 後で絶対ぶっ殺す!」
川越の威勢が良かったのはそこまでで出血のせいか徐々に顔色が悪くなって来た。
このままでは死ぬのは間違いない!
でも、ここから地上には出れない。
どうすればいいんだ?
すると狭山さんが俺に話し掛けて来た。
「チュー太なら助けられるかな?」
「チュー太で?」
「うん。チュー太がね、人間の通れない小さな岩の割れ目を通って地上に出れるって言ってるの」
「チ!チ!チッ!」
「チュー太に任せるしか無いな。でも、そのままじゃただのネズミにしか見えないからマズいな」
俺は狭山さんの髪から赤いリボンを外すと短く切り、チュー太の首にマフラーの様に結びつける。
まるで赤いマフラーを付けたヒーローの様だ!
「これなら狭山のペットってわかるだろう」
「かっこよくなったね、チュー太!」
「チ!チ!チッ!」
チュー太は一鳴きすると壁を軽快によじ登り助けを呼びに行った。
読んでくださいましてありがとうございます。
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(連載中)
クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱ランクの商人に偽装しました。
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水土更新
※書籍化作業中
正しいスキルの使い方 。~商人の俺がアイテムボックスで魔王討伐!~
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