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「僕たちはフィオナ先生を選びます」——前世保育士の令嬢が追放された朝、公爵家の子供が全員いなくなりました  作者: 歩人


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第44.5話: 幕間:五年分の夜

 窓の板の半寸外のところに、灰色の光のいちばん手前の一粒が届きかけていた。


 エドワードは学び舎の窓辺に立っていた。板の卓の上に茶色と紺と深緑の三冊。最後のページを閉じた指の第三関節の内側の腹に、鉛筆の薄い粉の温度がまだ残っていた。粉は指紋のいちばん細い溝にひと粒ずつ沈んでいた。払おうとして払えなかった。




 夜風のいちばん低い一筋の温度が、頬の外側の皮膚のいちばん薄い層に当たった。冷たいとは思わなかった。冷たさの感覚は半寸遅れて耳の裏へ届いた。届いた先で——別の冷たさがゆっくり浮かび上がった。


 五年前の冬の終わりの同じ時刻だ。邸の最上階の書斎の前の廊下で、父の書斎の重い扉のいちばん外側の縁に指を半寸預けようとして——預けなかった、八歳の自分の掌の薄い温度。父は扉の内側で何かを書いていた。ペン先が紙を擦る細い音だけが扉の下の隙間から漏れていた。




 「マルテン」と父は呼んだ。自分の名はマルクスだった。弟の名と取り違えられた。訂正はされなかった。父はヴェルナー家の血の四音節を広間の空気の中に朗々と置くことだけは忘れなかった。


 「我が息子」の四音節の乾いた厚み。——昨日、自分がルーカスの肩に片腕を回して置いた、同じ四音節。


 エドワードの指の第三関節の内側の腹が半寸震えた。震えは窓の板に預けられて静かに沈んだ。




 父の書斎には子供の笑い声は届かなかった。自分はその扉の内側に半歩入ろうとしたことが一度だけあった。八歳の冬だ。覚えたばかりの詩を暗唱したかった。扉の重い黒い鉄の把手に指を預けようとした。


 ——預けなかった。


 預けなかった半寸のところで、自分は十二歳になり二十二歳で結婚し三十四歳になった。扉は一度も内側からひらかれなかった。父の最後の言葉は「ヴェルナーの血を」の六音節だった。孫の名は呼ばれなかった。




 窓の板の半寸外のところで、灰色の光のいちばん手前の一粒がもう半寸深く昇った。薄い青の層が山の端のいちばん遠い一筋に混じりはじめていた。


 自分は同じ男になっていた。


 「マルティン」と五歳の末子の名を広間の空気の中に置いた、昨日より前のいつかの朝。訂正はしなかった。ハウザー伯爵家の扇の内側の光のほうが半寸近かった。その近さの順序を自分は選び続けていた。


 選び続けていたその半寸のいちばん奥のところに、八歳の冬の扉の前の、届かなかった自分の指の腹の打撃の音が静かに残されていた。




 ルーカスが書斎の扉を八度ノックした。返事はなかった。


 観察記録のそのページで指が半寸震えた理由を、今ようやく知った。自分が父にしたことを、息子にしていた。


 壊れた連鎖の継ぎ目の音が、夜明けの灰色の光の遠い気配のところで半寸軋んだ。




 エドワードは窓の板の半寸外のところから顔を上げなかった。上げる代わりに、外套の左の胸のいちばん内側の層に指を半寸深く運んだ。三つの四音節の並びの半寸横に、昨夜置かれた「育てて」の三音節。


 その三音節のいちばん深い底の層に、自分の八歳の掌の薄い温度が静かに並べられた。


 点は打たなかった。

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