第69話
儚く、散りゆくものたちは確かに生きていた。
彼らの軌跡はたった一人、一つずつの人生だった。
親の借金を肩代わりさせられたもの。
親に望まずに軍に入れられたもの。
国へ仕えることが義務とされたもの。
誰にだって理由があった。ここにいなければならない必要があった。
それは監獄のように。
彼らは理不尽な世界に翻弄された、力のない若者でしかなかったのだ。
理不尽な世界の、最低な大人の都合によって彼らの運命は引き裂かれた。
「どうなっている。マルテアぁ……!」
すっかりと暗くなってしまった窓の外。天井についた明かりが、少しばかり広い部屋を照らしている。
部屋の中で椅子に座る、岩松は怒りに震えていた。
額には薄らと血管が浮かび上がる。自らの前に置かれた机を、苛立ちと共に力任せに殴りつけた。
「裏切りだと……!」
許されない。
許されないが、陽の国にはマルテアに攻め込むほどの軍事力を投下できない。現状、グランツ帝国のある西欧諸国の戦争にも積極的な介入ができていない。
この戦争は陽の国にとってはアスタゴとの戦争でしかなかったからだ。
三機をアスタゴの最前線に送った時点でリーゼは既に製造は完了していたが、やはり部品が集まらない。結果としては、三機全てが基準に満たない欠陥品となった。
「どうする……!」
岩松は焦りを感じ始めていた。
予想外のマルテアの裏切りにより、勝てるはずであると踏んでいた戦線は崩壊。もはや、陽の国に勝ち目はないのだろう。
「もはや、ここまでか……」
最後にして最大の戦力を欠陥品に乗せる事に躊躇いがないわけではない。だが、果敢に攻めることは重要である。
「佐藤君、坂平君。司令室に来たまえ」
通信機を手に取り、岩松はそう呼びかけた。
十分ほど待つと二人は扉を丁寧に四回叩き、岩松が「入れ」と返答するとゆっくりと扉を開いて、入室する。
「……さて、坂平君」
「はい」
「三人が死んだ」
「え……?」
「至急、次の兵士を送るように」
「岩松管理長。次の三人は誰でしょうか?」
佐藤がわかり切っている答えを確かめようと尋ねる。
「分かっているはずだ。阿賀野以外の三人を戦場へ送れ。出来るな?」
「……はい」
弱々しい返事をして坂平は俯いてしまう。
「これが最後だ。これ以上、リーゼを造ることのできる費用は残されていない。よってこの三機の破壊を持ち、我々の戦争は終わりを告げる」
パーツの回収ができなかったことが想像以上のダメージを負わせていた。パーツを回収することができれば少しでもコストが削減できたであろう。
「最大の戦力を持って、アスタゴと戦う」
それが最後に出来ること。
いや、まだ残されているか。
岩松は二人がこの部屋を出たのを確認して、通信機を手に取った。
「ーーこちら岩松。三機のリーゼに取り付けを願う」




