第45話
結局、竹崎は部屋から出ることができずにいた。川中の優しさにだけ彼女は心を開いて、それ以外の人間には心を閉ざしたままだった。
阿賀野も飯島も間磯も彼女の心の機微に興味はなかった。いや、飯島には誰かを思いやれるほどの余裕がなかったのかもしれない。
彼らの住居は寮であり、その中には食堂もあった。朝食の時間も決まっており、その時間になれば全員が揃う筈なのだが、竹崎だけがここにいない。
「川中でもどうにもならなかったのかな?」
間磯は阿賀野の隣に座ってそう尋ねる。それが鬱陶しく感じながらも、阿賀野は適当に答える。
「さてな。俺たちが知ったってどうにもならねぇよ。俺は興味もねぇ」
バクバクと朝食を口の中に運んで味噌汁で流し込み、最後にコップ一杯の水を飲み切った。誰よりも早く席を立ち、彼は空になった食器をカウンターに渡した。
「阿賀野」
間磯は座ったまま、名前を呼んだ。
「何だよ」
ただでさえ鋭い目付きをさらに鋭くさせながら、間磯に向けた。
「どこにいくんだ?」
「トレーニングだよ」
簡潔に答えて、阿賀野は食堂を後にした。そうして、食堂を出て直ぐのところで阿賀野は声をかけられた。
「阿賀野」
振り返らずとも声で分かる。
その声は九郎のものである。大して彼と話すことに意味を見出せなかった阿賀野は彼の声を無視して、そのまま目的地まで向かおうとする。
「ーー君はどうしてここに来たんだ?」
散々、尋ねられたことだ。
何故、今更こんな事を聞かれるのかも分からない。
「何だよ、いきなり。これに答えんのも何回目だ? まあ、俺は誘われたから来たんだよ」
いい加減にしてくれ。
そう言うように彼は溜息を吐いてから答えた。
「そうじゃない。何で君がそれに応じたかを尋ねているんだ」
これを聞けば、九郎は自分の中にある疑問が解消するかもしれないと思ったのだろう。ただ、質問は無意味な事だった。
九郎には阿賀野という男の持つ特別さが分からない。九郎を連れてきた男の言う特別を感じることができない。
「……応じた理由、ね。それに関しては全く持って単純な話だな。単純に俺は最強でありたいんだよ。それに、倒すべき奴も見つけた。ここに来て良かったと思ってるよ」
逆に聞くが。
そう前置きをして、阿賀野が九郎の目を真っ直ぐに見て問う。
「お前は何でここにいるんだ?」
阿賀野は聞いたことがなかった。九郎という男がこんな場所にいる理由を。九郎が阿賀野を手伝うようにと言われているのは知っているが、それに応じる必要はあったのか。
「これが最後だからな……」
九郎はそれだけ呟いて、これ以上を話す気もなかったのだろう。
「ああ? 意味が分からねぇな」
「分からなくてもいい事だよ」
「そうかよ。……とりあえず、俺はトレーニングに行くからな」
阿賀野は九郎と別れようとするが、
「ーー僕も行くよ」
と言って、九郎は阿賀野に付いてくる。
「付いてくんのかよ……」




