第23話
「嫌いな人間の言葉には従いたくねえもんさ。九郎」
薄暗い部屋で、少しばかり低い声が響く。九郎ともう一人の男の密会の場となっている。
彼の言葉には実体験から来る感情とやらも籠もっているような気がする。
「……お前はきっとアイツに同情してるんだと思うよ。何かしら心当たりはあるんじゃないか」
椅子に座っている彼は、立ったままの九郎に話しかける。
「…………」
「悪い事じゃないと俺は思うけどな。お前はそう思わねえのか?」
「僕は同情なんて……」
「悪い悪い。まあ、俺には詳しくは分からねぇけどよ……。お前は飯島に何か、重ねてるんじゃないのか? そう感じるんだよ」
「……」
尋ねる言葉に答えを示すこともなく九郎は目を下に向けることで目を逸らした。
「まあ、それを責めやしないさ。けど、阿賀野の協力は忘れるなよ」
「貴方の目的はそれでしたね」
納得した様に九郎が言えば、男は薄暗くて顔はよく見えないが笑っている様に九郎には見えたのだ。
「ですが、阿賀野はーー」
特別ではありませんよ。
九郎が否定を述べようとしたが、男はその言葉に被せるように告げた。
まるで言いたい事が分かっていたかのようだった。
「ーー特別さ。少なくとも、俺にとってはな」
「どれほど彼が凄まじく強大な能力を持っていたとしても、世界は変えられません」
まるで意固地になっている子供のような、そんな態度で九郎は発言する。
「ーーアイツはお前の知っている奴らじゃない。俺はそう思うよ」
「……そうですか」
これ以上は無駄だと九郎は判断して、反論をするつもりもないのだろう。
男はわかっている。
「ーーいいか、お前は勇者の仲間だ。アイツがお前の仲間なんじゃない。お前はアイツを支えてやるだけでいい」
だからこそ、勝手に決断を下すなということなのだろう。
「今まで頼られてきたはずのお前には、慣れないことかもしれない。だけど、教えておく。阿賀野武幸という人間は既にお前よりも強い」
だから、今回は、今回の仕事だけでも阿賀野という戦士を最大に使えるようにしろ。男はそう求めている。
九郎の瞳には、男が映り込む。その男は机の上にあるコーヒーカップを手に取り、口元に運んだ。
「……俺の判断は間違っているかもしれない。だが、阿賀野を選んだことは間違いじゃない。そう信じてるんだ」
ただ、それ以外が間違っていたのだとしても。
コーヒーカップの持ち手を持ったまま少しだけ下げて腹の位置に持つと、独り言のように呟いた。
「頼む。九郎」
机にコーヒーを置きながらその方向に体を向けて、両肘をつき両手を組んだ彼は願う。それに対して九郎は返事を返すこともなく、小さく礼をしてから、その部屋の扉まで近づいていく。
「…………」
そして、慎重に扉を開いた。
この密会を知られるわけにはいかない。特に、岩松には。




