第22話
「気負いすぎだ」
「…………」
九郎が壁に背を預けてしゃがみ込む飯島に声をかけるが返答はない。
「言ったはずだよ。君には何かを変えられるほどの特別さはないって」
感情の薄い、抑揚のない声で事実を告げるように彼は話す。
「…………」
「そして、それは僕も。人間には天才がいても実際のところ特別なんてそういない」
「…………」
「僕たちは少しばかり才能があっただけだ」
「その少しの才能で、何かを、誰かを……、救えるかもしれないだろ」
先程までは無言で聞いていた飯島が顔を見せずにポツリと呟く。
「才能で何かを救える?思いあがるなよ。ここにいるお前は何かを奪うことはできても、何かを救うことなんてできない。僕たちの才能は何かを奪う才能だ」
だからこうして、人を殺す兵士へと育成されている。
施設裏の人気のない場所。日陰で九郎は飯島に聞かせる。辺りは殺風景で、木々も建造物もあまり存在などしていない。
そんな静かな場所に二人の男がいた。
「松野は苦しいものに立ち向かう勇気を得た」
「…………」
「君はどうだ?怒りに飲まれて、流されているだけだ」
そうやって巨大な感情の奔流に流されることは楽なのだ。
波に身を預ける事がどこまでも怠惰であることを知っていても。
「怒ってどうなる。冷静さを欠いた決断は君の命を、仲間の命を危険に晒すことになる」
時に怒りは強大な力を生む。だとしても、飯島が憤怒したところで、結果は分かっていた。
「今日の君の行動は、未来の誰かを殺す」
覚えておけ。
そう言い捨てて、九郎はその場を後にする。
「ーー随分、優しいんだな」
施設裏を出たところで声がした。九郎は振り返ることもない。
声をかけたのが誰か、わかっているからだ。
「……僕は下らない死に方をして欲しくないんだよ」
九郎は冷めたような目をしながらそう答えた。
「そうなのか」
ただ、その答えにどこか納得できないようで、彼は自分なりの見解を述べる。
「悪いけど、俺はもっと個人的な理由だと思ったんだけどな」
阿賀野に指摘されても九郎は反応することはない。そのまま施設の入り口の扉を開けて入っていこうとする。
「言っておくけど、自分は特別だって思わないことだよ、阿賀野」
それだけ一度、顔を向けて言うと施設の中に入っていった。
注告のように聞こえるそれに、阿賀野は一つ息を吐く。
「特別コンプレックスかよ」
阿賀野は愚痴を溢すかのように呟いた。そして、阿賀野は歩いて行く。
「にしても、面倒臭え奴ら増えてきたな」
現状の候補者を思い浮かべて阿賀野は溜息混じりに溢した、
「ま、どうでもいいか」
自分は無関係だと、下らない思考を断ち切った。




