第19話
顔がチラついてしまう。
誰とも会いたくない。誰も信じたくない。誰の言葉が真実か。
全員の言葉が真実である。
「ねえ、松野」
竹崎が扉に向かって呼びかける。
「…………」
分かっている。
誰もが自分を心配していることなんか。分からないわけがない。その優しさに触れたくない。怖いのだ。その先が。
でも、阿賀野の言った通りになんて、できるわけがないと思ってしまうのだ。
「…………」
「私は松野に……」
ドアの前から竹崎の小さな声が聞こえて来る。
「生きて欲しいんだよ……」
願っている。
竹崎は心の底からそう願っている。
「私さ、全然友達できなくてさ……。こんな場所で漸くできた友達がアンタだったんだよ」
松野は竹崎のことを詳しくなんて知らない。そして、竹崎だって松野の全ては知らない。
「信頼できる人なんていなくて、家族だって嫌いなんだよ」
「……知らないよ」
松野は聞こえないような声でそう言って、ベッドの上で体育座りをして、太腿に顔を埋めた。
「私はもっと松野のことが知りたい。だから、話そうよ」
それで松野に何が起きるのか。結局、話したところで嫌なことばかりが明確に脳裏に浮かび上がる。
死にたくなんかないんだ。
「死なないでよ。私を独りにしないでよ……!」
竹崎が涙を流しながら、叫んだ。
独り。
孤独を思い出す。
人が自分の元からあらゆる物を奪って去っていく。何度も何度も裏切られる。
でも、今度こそは。
「漸く出来たんだよ……。ごめんなさい。私が悪かったの……。あんなことしか出来なくて。自分の事ばっかりしか考えてなくて……」
松野。
彼女は名前を呼ばれたような気がした。
「お願い……。話したいんだよ」
松野は独りを知っている。それがどれだけ冷たいものかも。
竹崎の言葉に嘘がないこともわかる。真実だと松野は理解した。そして、心優しい松野美祐は扉を開けた。
今度こそは裏切られないのだと、信じて。
「美祐……」
泣き腫らした竹崎の顔が松野のすぐ近くに見えた。
「ごめん……」
松野は小さく謝罪を述べて、竹崎を自分の部屋に入れた。
「…………」
竹崎は部屋に入ることができたものの、気まずい雰囲気で中々話すことができない。
「私……」
松野がポツリと話し始めた。
「私、さ。阿賀野に言われたんだ」
自分が出来ないくせに人に頼るなって。
そう言って、力なく彼女は笑う。それはとても儚い表情だった。
「気にしなくていいーー」
のに、そう続けるつもりが、松野が言葉を被せて来る。
「ううん。私が悪かったの……」
「大丈夫なの……?」
「全然平気じゃないよ……。でも、もう決まったことだし。それに友達、なんでしょ?」
どこか無理のある笑い方。
それでも、松野は漸く立ち向かうつもりになったのだろう。
「うん、友達だよ。……ありがとう。友達になってくれて……」
竹崎は松野に涙目のまま、優しく微笑んでポケットから金属製のアクセサリーを取り出して手渡した。
「渡したいものがあるって前に言ったよね」
「これって……」
「お揃いのネックレス」
「ーーはは。竹崎とお揃いかあ」
久しぶりに笑った。
「ご、ごめんね。友達とこういう風にさ、何かお揃いのものがあるってのに憧れてたんだよね……」
恥ずかしそうに竹崎は顔を赤くしながら言う。
「ありがとう」
「これで、独りじゃないでしょ?」
竹崎が首を小さく傾げて、松野に尋ねれば、松野は頷いてみせた。
「松野、大丈夫みたいだな」
四島がそう言うと、阿賀野は興味もなさそうに、「そうだな」と呟いた。
何があったかも分からず、きっと二人の話を聞いても理解もできない事だろう。
「意味わかんねぇな」
阿賀野は顔を横に向けて、言葉を溢した。




