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傲慢な戦士:偽  作者: ヘイ
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アスタゴの兵士

 年老いてはいるが、それでも筋骨隆々とした白髪まじりの金髪の男は蒼い双眸を一点に向けて言う。

「たかが生まれて二十年も経たねえガキに負けるとは情けねえ話だな……」

「バカ言っちゃいけませんって。どんだけ強くても“タイタン”には勝てませんよ」

 三十代程の男が突っ込みを入れるようにそう言った。

「あんなのに戦いを挑むなんざ、素手で象と戦うようなもんですよ」

 それに乗るかのように、整備士である四十代後半の男が例えを出した。

「あれの前じゃ戦車も無意味だな……」

 彼らは自身の前に座す、赤色の巨兵を見上げながらそう呟いた。

「ったく、引退前なら儂もコイツに乗れたのかね……」

 そう言って、一番、歳を食った男が赤い体を優しく撫でる。

「いやいや、何十年前の話してんですか」

「今は整備士でしょう?」

 二人の言葉に、

「ーーはっ、それもそうか」

 と、老人は軽く笑って見せた。

「それにアイザックさんも家族がいるんでしょう?」

「確かにな。今となっちゃあ、死んでもいいなんて言えたもんじゃねえ。近々、孫も生まれる予定でな」

「……戦争、終わるといいですね」

「終わるだろうよ。従来の戦争よりも早くな……」

 アイザックが希望を持って呟く。

 アイザックの現役時代は、それは酷いものだった。戦車や爆撃機が蹂躙する荒野を駆け抜ける。硝煙の香りと鉄臭い匂いが辺りにこびり付き、充満する。

 視覚情報は赤に染まり、そこは現世の地獄だと言えた。

 命を懸けた一瞬も気を抜けない世界が目の前に広がっている。それでも、それよりも前はもっと酷かったのだとアイザックはよく聞いていた。

 ただ、そんな世界は一度、閉じられたように思っていたのだ。

「それもタイタンのおかげ、ですか……」

 小さな呟きがアイザックの耳に届いた。

「ああ。だが、戦争での能力は未だ測れていない。次の陽の国と中栄国の戦争で、初お披露目ってことだ」

 アイザックと二人の整備士はタイタンの顔を見上げる。タイタンの光の点かない目が見える。起動すれば、あの目は緑に輝く。

「こりゃ、気合い入れなきゃな」

 アイザックはやれやれと言うように溜息を吐いた。

「あの『悪魔』と恐れられたアイザック・エヴァンスが整備士なんて……」

 そう呟いた三十代ほどの整備士は小さく笑う。

「どうしたおかしいか、ビル?」

 アイザックはその話を聞き逃さず、そう尋ねる。

 二人が話している間に、四十代後半の整備士、ーーメイソンは一足早くタイタンの整備に向かう。

「いえ、ただ、二十年前の自分に言っても信じてもらえませんよ」

 ビルは若干の苦笑いを浮かべて、そう言った。

「そうだな、儂も信じられん」

 アイザックが談笑していると、タイタンの方からくぐもった声が響いた。

「おい、アンタら。喋ってないで手伝ってくれ!」

「悪い悪い! ーーアイザックさん」

「ん? ーーああ、少し用があるのでな。それが終わってから整備を手伝う」

「そうですか」

 アイザックにそう答える。

「任せたぞ」

「はい!」

「早く来てくれー!」

 今行く。

 そう叫んで、もう一人の整備士のビルもメイソンを手伝おうとタイタンの方へと向かって走っていく。

 アイザックは手袋を外しながら、整備場の出口に向かう。外に出れば工場地帯が広がっている。

 そして、アイザックは来客を見つけた。金髪の目が垂れた少年。信じられないほどの美形だ。彼は水色の清涼感のあるワイシャツを着ている。

 その隣には気難しそうな顔をした、眼鏡を掛けた、短めの髪の白人男性が立っている。

「どうも、アイザック・エヴァンス整備士。私はミカエル・ホワイトの案内役として同伴致しました。ウィリアム・ウォーカーと言います」

「これは丁寧にどうも。儂の名は知っているようだな」

「当然。アスタゴの英雄とあれば、その名を知らない者はーー。あー、いえ、目の前に一人いますね」

「くくっ、別に構わんさ」

 アイザックは笑った。

 別に名前を知られたからと言って、それで何かを得られるわけでもない。かつて得た名声が、今のアイザックにはどうでも良いことだ。それに昔だって。

「それでミカエルと言ったな。お前さんがタイタンに乗るのか?」

 ウィリアムに向けていた蒼い目がミカエルに向いた。若干、眠たげにも見える顔がアイザックの瞳に写る。

「そうだよ」

「お前みてえに見た目の良いやつは、俳優だとかモデルだとかをやってれば良いんだがな」

「別に興味はないけど、タイタンのパイロットに誘われたから」

「誘われた?」

「軍に是非、パイロットになってくれって」

「分かっているのか?死ぬかもしれないんだぞ?」

 アイザックはミカエルを真っ直ぐに見て、そう尋ねる。

「死なないよ。俺は強いから」

 まるで興味もなさそうに、空虚な瞳でミカエルはアイザックを見ながらそう言った。

「それに俺は一度も負けたことなんてないんだ」

 自信ではない。それは傲慢にも、確かな事実を口にするような言い方であった。

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