覚悟
ヘオンが作戦を考えてからずいぶんな時間が立った。
結構前にヘオンは部屋から連れ出されたけれど、いつもならとっくに帰ってきている時間だ。
けれどヘオンはいっこうに帰ってこない。
……お仕置き部屋に連れていかれたのだろうか。
「ひどい目にあわされていないといいけど……。」
と思いはするけれど、お仕置き部屋というくらいだ。
酷いことはされていると思う。
(それにヘオンの事も心配だけど、人の心配ばかりしてられないわ。ヘオンの予想じゃ今日あたり私も売りに出されるみたいだし……。)
私も覚悟を決めなきゃいけない。
何としてもピアノルの悪事に負けないためにも!!
なんて思っている時だった。
部屋の重たい扉がゆっくりと開く。
するとそこには顔を隠した屈強な男性が二人、立っていたのだった。
(この人たちはいつもヘオンを連れに来ている人たちだわ。)
顔は解らないといえども難いのよさから大体なんとなく同じ人だろうなというのは想像できる。
……ついに来たという事だろうか。
そんな私の想像、いや、正しくはヘオンの予想が当たり、私は手を拘束された上に目隠しをされてどこかへと連れていかれる。
そして――――――
「せいぜい優しくしてもらえるよう懇願でもするんだな。」
私の耳元に男性の声が聞こえると、ゆっくりと足音が私の傍から去っていった。
(って、ちょっと待って待って!?目隠しされたまま!?しかも拘束具もつけたままなの!?)
暴れろといわれたって暴れようがない。
何故こんな状態で客の前に出されることをヘオンは教えてくれなかったのだろう。
この状況、かなりまずい!!
(どうしよう、どうしよう、どうしよう――――――!)
そんな事を思っているとこつんと足音が聞こえてきた。
その足音はゆっくりゆっくり私へと近づいてくる。
(どどど、どうしよう!!私、器用じゃないから足音だけでどこから来るかなんてわからないっ!!)
視覚情報があればまだ判断できるのだろうけれど残念ながらそんなものはない。
真っ暗な闇の中でじりじりと迫ってくる人物。
その人物がどんな姿をしているのかすらわからない事がさらに恐怖だ。
(え、えぇい!!こうなったら――――――)
「こ、こないでっ!!!」
私は大きな声で叫ぶ。
その叫び声を聞いた相手の人物はぴたりと足を止めた。
……ように聞こえる。
「き、来たら舌をかむわ!!貴方の前で死んでやるんだから!!!」
誰かもわからないような人に好き勝手されるなんて冗談じゃない。
拘束されているせいでタックルくらいしかできないし、タックルしようにも目が見えないし、もう私は口で戦うしかない。
こうなれば使える手札はすべて使ってやる!!
「……貴方、私に手を出したら後悔するわよ。私は次期国王の婚約者なのよ!?さらに言えばその次期国王は感情が高ぶると何をしでかすかわからない人よ。あの人は私を愛している。だから必ず攫ってこられた私の事を見つけてくれる。そして、私に手を出した人を絶対に許さない!!……命を捨てる覚悟がないなら私に近づかないで!私は命を捨てる覚悟をもって貴方に話しているのだから!!!」
婚約を破棄する気しかないのだから婚約者であるなんて自ら公言したくないけれど、きっとこの手札は悪くないと思う。
料金設定は解らないけれど、貴族の身が売られてるって事は多分、ある程度お金のある人しか来れないと思うし……
だとしたら次期国王であるフォルテと顔を合わせずにいる事も難しいだろう。
そして、貴族の方が一般市民よりも早く身元を調べ上げ特定できる。
……一般市民の場合、あまり効果的ではないかもしれないけれど、貴族にならこの脅しはきっと効果があるはずだ!
「……貴方はこんな時でも気高いんですね。」
「…………え?」
(嘘……この声……――――――)
聞き覚えのある声が聞こえてきて私は驚く。
そしてそんな驚いている私の元へと足音が近づいてくる。
先程の様な不快感はもうない。
何故か安心してしまう私。
安心感に包まれながら私の視界は光を取り戻す。
そして――――――
「助けに来ました、ヴィオラ。」
ヒカリを取り戻した私の目に一番に映ったのは私の婚約者、フォルテの姿だった。




