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事件は突然に――――

体調を崩しました。


なんて連絡ができない程元気な私は仮病を使う事もなく馬鹿正直に王宮に出向いていた。


本当、馬鹿正直に……。


(あぁ……でも、胃が痛いわ……。)


ピアノル王子のお顔を拝見したら私、逃げ出しそう……。


なんて思いながら重たい脚で案内人と共に王宮を歩いていると

とうとう、私はピアノル王子が待つお城のお庭へ到着してしまった。


「ごきげんよう、ヴィオラ嬢。」


ピアノル王子は外面――――いや、とても穏やかで人がよさそうな笑みで

私に微笑みかけてくださる。


やけに上機嫌なのが怖い。


「ご、ご機嫌麗しゅうございます、ピアノル王子。

本日はお招きいただき、大変光栄ですわ。」


とりあえず挨拶を済ませた私たちはすでにたくさんのお菓子が置かれた

テーブルに腰を下ろした。


晴れやかな空。


そんな空の下、暗い気持ちでお茶をする日が来るとは思わなかった。


(……二人きりなのかしら……。)


心の奥底ではフォルテの存在に期待していた。


いつも勝手に近づいてきてくれるフォルテだ。


今日もそんな感じで――――と思っていたのは浅はかだった。


「兄様は本日は少し遠い町の視察へと赴いていますので

同席することはありませんよ、ヴィオラ嬢。」


(うっ……。)


私の考えが見抜かれているのか、良い笑顔で言われてしまった。


本当、怖い子だ……。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


到着からずっと生きた心地のしていない私に、

付き人としてついてきてくれたリディが耳打ちしてくる。


心配してくれるのは嬉しいが、リディのそんな姿をピアノル王子が睨んでいるのがさらに怖い。


下手に行動するとリディまで難癖つけられそうだ。


「大丈夫よ、リディ。声をかけるまでは貴方の為にも控えていて頂戴。」


「……かしこまりました。」


リディは私の言葉を受け、一歩後ろに下がった。


相手はピアノル王子だ。


いわばここは戦場。


気を引き締めなければ。


「……そう固くならないでください、ヴィオラ嬢。

今日は未来の姉である貴方とそろそろ仲を深めようかと思い、

歩み寄るために催したお茶会なのですよ?」


(……は……?)


今、ピアノル王子は何と言ったのだろう。


歩み寄る?


私が何をしていなくても因縁つけて睨んで、嫌味を言ってくるピアノル王子が?


……純粋に喜んでいいの?それとも裏が……―――――


裏、あるだろうな……。


「……兄上様に何か言われたのですか?ピアノル王子。

貴方様はたいそう私の事を御苦手がられていたと思っていたのですが。」


「ははは、貴方は本当に物をはっきりとおっしゃる方ですね。

……えぇ、正直。」


今私に言った事をそっくりそのまま返してやりたい。


この腹黒王子め。


私よりある意味はっきり言うじゃない……。


とはいえず、私は眉根を引く突かせながらにっこりと笑みを浮かべ続ける。


「とはいえ、私がどう頑張ろうと兄上と貴方の婚約は白紙になる事はない。

であれば、いがみ合うよりも歩み寄るべきかと思いましてね。」


(いがみ合ってないわよ。少なくとも私はいがんでないもの……。)


どちらかといえばただただ困り果てているだけだ。


本当に、ただただ……。


(……なんて、言えないものね。)


歩み寄ろうとしてくれているならこちらも歩み寄らなければならない。


というか、私たちの婚約破棄をどう頑張ろうとできないって言ったという事は

既に頑張った後で、もう無理とあきらめがついているのかもしれない。


(……とはいえ、数日前に良い気になるなよとか吐いてくれた相手が

その数日で諦めたとも思い難いけど……。)


睨まれてさえいなけりゃピアノル王子も人の悪そうな顔ではない。


取り合えず今日は騙されたつもりでお茶会を楽しむしか無いようだ。


(……でも、私と王子に話題とかある?

……フォルテの自慢話とかいろいろただただきかされたらいやだなぁ……。)


ブラコンあるあるだと思うけど、

兄のいいところいっぱい知ってますアピールして、

二人の間には誰も入れないと思わせるようなキャラはよく見た事がある。


そういう事がしたいのだろうか。


でも、それがしたいとしたら私には効かない。


私はフォルテの事をどうも思っていないから。


(でも、それをヒロインちゃんにされると考えると急にムカついてくるわね。)


ヒロインちゃんはきっと可憐で、心優しい少女だから、

この弟から兄を奪ってはいけないだなんて考えそうだ。


(……あ、そういえば視察ってどこに行ってるんだろう。

フォルテって確かそろそろヒロインちゃんと出会うはずなのよね……。)


ここ最近思い出した無いようだが、フォルテはそろそろヒロインちゃんと出会い、

学園で再会することになるのだ。


とはいえ、お互い最初は気づかないという設定があるのだけど、

最後の方で気づくという話だったと思う。


もしかすると今回の視察でヒロインちゃんと出会っているかもしれない。


私とヒロインちゃんが出会うのもそう遠くない未来なわけだし、

あぁ、早く会いたいなぁ……。


「ヴィオラ嬢―――――……ヴィオラ嬢!」


「あ、は、はい!」


ピアノル王子に名前を強く呼ばれ、夢の世界から帰っても着たくなかった現実へと連れ戻される。


くそ、私の幸せな妄想の世界を……!


と思うものの、間違いなく失礼なのは私の方だ。


「も、申し訳ありません。あまりにも穏やかな天気でぼぉっとしてしまいましたわ。」


「……そうですか。貴方は本当にお気楽な人間ですね。」


(おっと、嫌味が……。)


外面――――でいいや、もう。外面がはがれていつもの憎たらしい顔を向けてくるピアノル王子は

苦笑いをする私を見てため息をついた。


「私は少々、席をはずします。

すぐに戻りますのでこちらでお待ちください。」


「え?は、はい……。」


突然どうしたのか、ピアノル王子は立ち上がってしまった。


「……雉(キジ)撃ちでしょうか……。」


「かもしれないわね。」


雉撃ちとは女性で言う花を摘みに行くというあれだ。


そう、つまりトイレだ。


(まぁ、なんでもいいわ。

そのまま言って永遠帰ってこなければいいのに。)


そしてお茶会はお開きで十分だ。


(というか、歩み寄るとか言って早々に退席しないでよね。)


歩み寄る気がないことバレバレだ。


せめてもう少しうまくやれよと思わなくない。


(まぁ、なんでもいいんだけど……。)


しかし、待っている間というのは暇なものだ。


私は記憶をたどり、ヒロインちゃんの顔を想像する。


ヒロインちゃんことヴェリテちゃんは今頃どこで何をしているのだろうか。


はぁ……早く会いたい。


「……またぼぉっとしているんですか、貴方は。」


「っ!!」


いつの間にやら時間はたっていたようで、席をはずしていたピアノル王子が戻ってきていた。


大きなため息をつくとピアノル王子は椅子に腰を掛けた。


「……ところで、貴方の付き人はどうしたんです。」


「……え?」


何のことだと思いながら私は控えているリディへと視線を向ける。


するとそこにはリディの姿はない。


(い、一体何処へ行ったの!?)


そんな事を思っていたら王宮の中からリディが大量のお菓子を持って出てくる姿が見える。


「リ、リディ!?貴方、何をしてっ……。」


「も、申し訳ございません、お嬢様。

先程王宮のメイドの方より追加のお菓子を運ぶのを手伝ってほしいと

言われてしまいまして……。」


(なんて人使いの荒いメイドなのかしら……。)


リディは客人である私の付き人だ。


そんなリディに仕事を任せるとはひどい話だ……。


(リディも人が良いんだから……。)


そんな事を思いながら私は少し冷めてしまった紅茶を口に含む。


ちょっと猫舌な私にはぬるいくらいがちょうどよく、

飲みやすい冷たさになっていた。


(あ、この茶葉すごくいいわね。)


なんてのんきに紅茶の茶葉に興味を示していた時だった。


テーブルに並べられたお菓子やケーキスタンドが突然倒れた。


そして――――


「がぁっ……ぐ……――――」


それらを倒したのはほかでもない、ピアノル王子だった。


ピアノル王子は突然苦しみだし、

机の上に倒れ込み、テーブルクロスを苦しみながら掴んでいる。


「ピ、ピアノル王子っ!?」


私は驚きのあまり立ち上がる。


だけど驚いているのは私だけじゃない。


ピアノル王子の従者とリディも驚いていた。


「だ、大丈夫ですか!?ピアノル王子――――」


心配して駆け寄り、ピアノル王子に触れようとした瞬間だった。


私の手はピアノル王子の側近に払い飛ばされた。


「なっ……!」


あろう事か、従者は私の手を払い飛ばしただけでなく、

私を睨みつけてくる。


「王子がいない間に何をした……!」


「……え?」


「お茶や菓子の類は私が先に毒味をしていた。

しかし王子はお茶を口にふくまれ苦しみだした。

貴様、何かを入れたのだろう!?」


「なっ……!」


いきなりの言いがかりに私は怒りが湧き上がってくる。


一体私が何をしたというのだ。


「王子が席をはずし、私はそれに同行した。

そして貴様の侍女も城の者に呼ばれ席をはずしていた。

何かをできるのは貴様だけだ、ヴィオラ・アルトバーン!!」


「ご、誤解よ!私は何もしていないわ!?

どうして私がそんな事――――」


「ピアノル王子!!!」


「っ!!」


私が言い返そうとした瞬間、

城の中から医師と思われる男たちが走り出てきた。


そしてその医師たちの後ろには衛兵の姿もある。


「お前たち、ヴィオラ・アルトバーン嬢を拘束しろ!」


「なっ!!」


ピアノル王子の従者の言葉に衛兵たちは

戸惑いながらも私に近づいてくる。


そして、男二人で私の腕をしっかりとつかみ取った。


「お、お待ちください!お嬢様は、

お嬢様はそのような事をされる方ではありません!

第一、お嬢様は動機など――――」


「えぇい黙れ!」


「っ!!」


私をかばおうとするリディ。


そんなリディにピアノル王子の従者の剣が抜かれる。


突きつけられた検査機に怯えるリディは何も言えなくなってしまった。


「……リディ、庇いだては不要よ。私は何もしていないもの。

きっとそれはすぐに明らかになるでしょう。」


「お、お嬢様……。」


「連れていきたいなら好きになさい。

ただ、リディにだけは危害を加えないで頂戴。」


「……罪人の癖に白々しい……。

とっとと連れていけ!」


「はっ!」


従者に言われ、私を連行し始める男たち。


私その拘束にあらがうことなく、黙って同行した。


その時、私は自身の身の潔白などすぐに明らかになると思った。


だけど、それはとても浅はかすぎる考えだった。


私は釈放されることなく、牢で軟禁されることとなったのだった。


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