選択
「ここでいいか。」
ロンド様に連れてこられたのは屋敷の一室。
その一室に入った瞬間だった。
「頼む、俺とも友達になってくれ!!」
勢いよく頭を下げられた。
「は……い……?」
「だから、俺とも友達になってもらいたいんだ!そりゃ、あんたは同年代の奴となんてつるみたくないらしいけど……。」
(…………んん?つるみたくない……?)
いや、過去に確かにそんなことは思っていたし、それがゆえにお茶会を参加しなかったことはある。
でもその理由をリディ以外に打ち明けた記憶はない。
そう、メロディンお兄様にもよく思われたいから仲良しのお兄様にすら話したことはない。
リディはそういう事を外でしゃべる子じゃないのに、一体何処からそんな情報が出たのだろう。
「俺、フォルテが好きなんだ!!」
「っ!?」
(えっ!?な、何!?いきなり爆弾発言!?えっ!?まって!好きって、そういう好き!?)
「あいつは俺にとって一番大好きな親友で、弟みたいなもんでもあるんだ!」
(…………え?)
「あいつから聞いた!一応書類上は婚約したことになってるって。」
「え、えぇ、そうですわね……。」
「でも、あいつは書類とかそんなんじゃなくて、あんたに一人の男として認められたうえで結婚したいって思ってるんだ。そんなあいつを俺は傍で見守りたいし、それに……そんなあいつにお前がふさわしい奴なのかってのも知りたいと思ってる。だから、それを知るためにも俺と友達になってくれ!!」
「…………は、はぁ…………。」
(えっ!?ちょ、ちょっと待って。整理すると、大好きってのは恋愛の意味ではなく、家族愛的な友愛的な奴で、それ故に大好きな弟的存在の為に私を見極めるべく私と友達になりたい、という事……?)
いきなり驚く発言されたりとかで混乱していた頭を少しずつ整理する。
つまりはそういう事だろう。
そして――――――
(……私、たぶん今ロンド様の中での評価悪くない?)
いや、別に私はあくまで最終的にヒロインちゃんと誰かが幸せな結婚をするのを見守りたい。
あわよくば親友ポジションで愛でまくりたいというものだ。
だから別に婚約を破棄されるのは万々歳だし、評価悪くてもいいのだけど……
(い、今ある意味分岐的な奴出てる時だと思うわ!)
1、周りの評価を上げて皆から素晴らしい令嬢と認められる最初の作戦。
2、王子に似合わない悪役令嬢への道をたどるか。
ここでメリットの点を考えよう。
1を選べばまず確実に王子とお似合いの令嬢になってしまい結婚はとんとん拍子。
……確か王子ってメインヒーローだった気がする。
もしヒロインちゃんがフォルテルートに行ったとしよう。
(……周囲からの評価が完璧な令嬢が相手じゃ幸せになれない可能性出てこない?)
多分、良い評判で通れば学校に入れば私にもそれなりの素晴らしいお友達ができ、私はおそらく愚行をしない。
でも、それは下手をするとヒロインちゃんの邪魔をすることになるだろう。
そしてそんな完璧な私にフォルテはなお惚れてしまうかもしれない。
この選択肢は投獄死刑を免れる代わりにヒロインちゃんを犠牲にするかもしれない。
そして2。
2の作戦で行くと投獄死刑がおそらく間違いなく駆け足で近づいてくる。
つまり王子に似合わない程私の評価を下げる必要がある。
そうなれば学校でもきっと勝手にそういう系のお嬢に群がられ、きっとよくわからないまま私は破滅すると思う。
(ど、どうする……どうするの、私……!!)
「……やっぱり友人なんていらないと思ってるのか?」
「べ、別にそんな事!っていうか、それ何処情報よ!私、言った覚えがないのだけど?」
「お前のお兄さんが言いふらしてるらしいぜ。うちの妹は付き合う相手は選んでるんでって。」
(あ、あいつかぁ……!!)
なるほど。
二人の仲が悪くなる理由はほかにもあったのか。
確かに陰ながらそんなことをされているとしったらいくら真実でも腹が立つだろう。
(だって、こっちは一応一目気にしてリディにしか言ってないのに!)
盗み聞いていたかもしくは適当に妹に男を近づけないためについた嘘が的を射ていたかのどちらかだろけれど……
(……でも、元凶は私、だよね……。)
様は今までそういう態度をとってきたことが悪い、というわけだろう。
(さて、そろそろどちらの道を歩むか選択肢を選択しなければ……。)
いつまでもこうしているわけにもいかない。
(私にとってもヒロインちゃんにとってもいい選択ってないのかしら……。)
ゲームと違い選択肢なんて実は考えれば結構あると思う。
ある意味私はリアルでプレイヤーだが選択肢は私が考え導き出したもの。
だとすれば、ほかにもきっと見えない選択肢があるはず!
(……はっ!!……よし、これだわ!!)
「ロンド様。友人の件をお受けするにあたり、一つお願いがあるんです。」
「……お願い?」
「はい。まず、兄が流した噂は真っ赤な嘘なんです。わたくしの真意ではありませんわ。」
「え?そ、そうなのか?」
「はい。私が今までお茶会に出席しなかった理由は実は別にあったのです。私、社交の場が単純に苦手なんです。」
「…………え?」
「というか、実は私、ひどく一般市民の生活にあこがれを抱いております。憧れの街を見て苦手な場へと赴く。それがなんだか切なく、基本的に家に引きこもっていたのですわ。」
「そ、そうなのか……。」
「はい、そうなんです。そしてこれはきっとフォルテを思うあなたにだけは告げておかなければいけない事だと思うのです。私、一般市民の方と結婚したいと思っております!」
「は、はぁ!?」
「できればパン屋さんかケーキ屋さんが理想ですわ!そう、そして細々と裕福ではないけれど貧しくもない生活がしたいんです。ですから、頼みというのはほかでもありません。私とフォルテ様の婚約破棄を手伝っていただきたいのです!」
「…………な……何でそんな話になるんだよ!っていうか、俺はどっちかっていうとフォルテの恋を応援したいと思ってるっていうか……!」
「えぇ、わかっておりますわ。でも貴方は言いました。私がふさわしい人間かどうかを見る、と。そんな庶民願望のある私を貴方はふさわしいと思えますか?もちろん、必要なことだと考え直し社交の場にはこれから赴いては行くつもりですが、私の夢は庶民との結婚!……いつか駆け落ちをすることもないとは言えませんわ。そうなればきっとフォルテを不幸にしてしまう。でも、私は夢を捨てれない!と、つまりですね……穏便に婚約破棄の計画を共に立て、実行してもらいたいのです。」
「…………ほ……本気で言ってるのか?」
「えぇ、本気です。」
(行ける。この作戦はきっといけるわ!!)
実のところを言うと、先ほど突然思い出したのだ。
ロンドというキャラクターの存在をね!
このキャラも攻略対象だったわ!
ヒロインちゃんと親しくなり、ヒロインちゃんに嫌がらせをするヴィオラをヒロインちゃんと共に撃退して、頼りになるお兄ちゃん的存在から恋人ポジションを獲得した存在。
つまり、頭が切れる!
そんな人物を味方に取り込んで置けば一度してしまった婚約も穏便に破棄できるかもしれない、という事だ。
……とはいえ、友達になる理由がこれは流石に問題があっただろうか。
「……一つ聞かせてくれ。ヴィオラ嬢。お前はフォルテが嫌いか?」
「いいえ?最初は苦手意識はありましたが今は別に。むしろ変に大人ぶっていないフォルテは可愛いとすら思っていますわ。」
「…………そうか。」
(……まぁ、婚約破棄したいって言ったら自分の弟的存在が嫌われているのか不安にはなるわよね。)
でも、別にそういうわけではない。
単純に私はヒロインちゃんにより苦のない未来を歩んでもらいたいだけだ。
いや、障害をヒーローと乗り越えるからこそ感動的な恋愛になるのはなるんだけど、でかすぎる障害は流石に要らないと思う。
(というか、可愛いヒロインちゃんが幸せになれればそれで十分!)
もはやそれに尽きるだと思っている。
「……わかった、協力する。」
「本当!?」
「あぁ。その代わり今日から俺らは友達な?だから俺が年上だとか気にせず俺の事はロンドって呼んでくれ。」
(あ……そういや年上……だったっけ?)
その設定をすっかりと忘れていた。
でも言われれば向こうが年上だからかずっと言葉遣いはそんな感じだった。
単純に性格上子供間では敬語を使わない。
……というわけではなかったらしい。
(まぁ、そこら辺はどうでもいいわ。)
「では、これからよろしくね、ロンド!」
「あぁ、よろしく。ヴィオラ!」
何はともあれ、新しくできた頼りになる仲間に私は心底満足していたのだった。