『恋する乙女』レイラの相談
「……また朝からなんですか、あれは」
レクリエーション用品の物置に用があって、裏庭を通りがかったリサは、
そこにある菜園でどんより虚無顔で鍬を手に畑を耕す上司を見て、近くに居た立哨の女性兵士へそう訊ねる。
「レオンさんが喜ぶプレゼントが分からず、自己嫌悪されているのでは」
「あー、そろそろお誕生日ですからね」
そう小声で話し合う2人はどちらも、天気がぐずついている、程度に深刻そうな顔をしていた。
「ああ、リサさん。おはようございます……」
「はっ。おはようございます司令」
リサがなぜそんなに落ち込んでいるのか、と確認を取ると、鍬を置いたレイラからは、立哨の予想とまるっきり同じ理由が返ってきた。
「どなたかに相談されては?」
「そうですね……」
何故分かったのかを一切訊かずに、レイラは部下の提案にすっと賛同した。
というわけで、思いつく限りに声をかけて、書斎で通信を繋いだのだが。
「――で、なんで私達を集めたんですの?」
「恋愛経験が豊富かと思いまして……」
「でも私達、殿方には全く興味無いですわよ」
「あっ」
「ね、アメリアさん」
「ええ」
「ボクもエリーナ一筋だし」
「あっ、はい。そうですね……」
「うう……」
エレアノール、アメリア、ジェシカ、エリーナをメンバーにしてしまい、レオンへの、というテーマにはちょっとずれてしまっていた。
『帝国』の2人は朝の入浴後にのんびりとソファーでくつろいでいて、傭兵の2人はコクピットで就寝前のまったりした時間中だった。
「こう申し上げるのもなんですけれど」
「はい……」
「戦術家としての技能を恋愛面には活かせませんの?」
「おっしゃる通りです……」
「エレアノール様、なんというかこう、手心というか……」
レイラのメンタルに追加ダメージを入れるエレアノールは、アメリアにやんわりとストップをかけられた。
「ベイル中将殿に訊いたらどうかな。たしか、年頃のご子息がいらしたはずだよ」
「中将は『共和国』の対応でお忙しいですし、ご子息はその……。はい……」
「――おや。これは失礼した」
レイラの非常に気まずそうな苦笑顔と言い方に、何かしらを察したジェシカは即座に謝った。
事前にいつも通りに話して欲しい、とはレイラとエレアノール両者から頼まれていて、ジェシカは『聖女』や『神機』パイロット、軍高官相手にも全く動じていない。
一方、エリーナは大物ばかりの状況で、背筋を伸ばしてガチガチに緊張していた。
「こちらもお恥ずかしいところを失礼致しました……。自分で考えようと思います……」
「お待ちなさい。せっかくこの『白銀の聖女』(エレアノール・ハミルトン)がいるのだから、話ぐらいは聞かせなさいな」
「では、お言葉に、甘えさせていただきます」
「で、どういった用向きの贈り物なんですの?」
「あ、はい。誕生日の、というのが主題なのですが、先日、お手間をかけさせてしまった迷惑料でもあります」
「なるほど。ではあなたとしては、どういう物を贈るつもりですの?」
そうやって真剣な面持ちで相談する2人の一方、
「……えっ、そんなに有名な方なの?」
「うん。『白銀の聖女』、と謳われているお方さ」
「ええっ。なんであなたそんな普通にしてるのよ」
「それは、エリーナの方がボクにはもっと眩しいからさ」
「あっ、うん……。……ありがと」
傭兵コンビはコソコソとそう話して、半ばそっちのけでくっついてイチャついていた。
「――ジェシカっ。今話し中だから……」
「うん。お預けだね。愛してるよエリーナ」
興奮してきたところで、ハッと冷静になって少し離れた2人を、少し羨ましそうに横目で見ながら考えていたレイラは、実用的な物にしようかと、と答えた。
「実用……。アメリアさんはどう思いまして?」
「そうですね――」
「ああ、筋力トレーニンググッズ以外でお願いしますの」
「ああ。はい……?」
まさしくそれを言おうとしていたので、アメリアは何故止められたのか不思議そうにしていた。
「以外……。プロテインなどは」
「それは大して変わりませんわよ」
「『公国』だとレーションに入っているはずだからね」
「なるほど……。以外……、以外……?」
腕を組んで首をひねり長考に入ったものの、アメリアからそれ以上のアイデアは出なかった。
「申し訳ありません……」
「仕方ありませんわ。アメリアさんは現場一筋でしたもの」
主人の期待に応えられず、膝を抱えて意気消沈するアメリアに、エレアノールはそうフォローを入れる。
「エレアノール様のお顔に泥を塗ってしまうとは、従者失格です……」
「そう卑屈になるものではありませんの。偶然あなたに不向きであっただけでしてよ」
それでもどんよりしているアメリアへ、エレアノールは神々しいまでの笑みを浮かべて、彼女の頭をそっと撫でて慰めた。
「こう言ってしまうと身も蓋もないけど、レオンさんが欲しがっている物を贈れば良いと思うよ」
エレアノールにアメリアがよしよしされている中、ふとジェシカが誰も言おうとしなかった事を指摘した。
「そういえばそうですわね。サプライズだったら良い、というわけではありませんもの」
「私もそう思います」
「何故それに気が付かなかったのでしょうか……」
レオンの欲しがっている物にすぐ当たりがつき、集まり自体が無意味だと気が付いた。
「無駄にお時間を使わせてしまい、申し訳ございません……」
意気消沈なレイラは、俯き加減で4人に重ね重ね平謝りする。
「まあまあ。これで気が付けたと思えば、それ程無駄でも無いさ」
相変わらずのとてつもない爽やかさで、ジェシカはレイラへポジティブな言葉をかけて笑う。
「な、なるほど……。ありがとうございました」
「いやいや」
自己評価低めのレイラには、そう考えられないので、目からうろこ、といった様子だった。
それじゃあ私達はこれで、と言って、エレアノールは一足先に通信を終えた。
「ところで少将。1つ良いかな」
「はい?」
「あなたの思いを、レオンさんに伝える事は出来たのかい?」
「――ッ!?」
それを訊かれると思っていなかったので、レイラはひっくり返りそうになった。
「そ、それはちょっとまだというか、その……、出来れば今の距離を保ちたいというか……」
煮え切らない感じの言い方をして、涙目で赤面するレイラの姿に、将として辣腕を振るう姿の面影は無かった。
「うん。それも良いとは思うよ。だけど、彼がいなくなる前に、そういう事は言っておいた方が良い」
ボクはそれで、うっかり死んでも死にきれなくなる所だったからさ、と傍らの愛しい人の手を強めに絡ませて握りながら自虐的に笑った。
「ええ……。そう、ですね……」
報告で何があったかは知っている事もあって、レイラは強い説得力を感じていた。
「それじゃあね。エリーナもどうやら眠いらしいし」
「はい、それでは」
おやすみなさい、と言って、レイラはジェシカが切るのを待った。
「難しく、考えすぎてましたね」
ふう、と深々とため息をついてそう言ったレイラは、ソファーの背もたれに半身を預けた。
*
『バイクのグローブ届いたよ。悪いね、気遣わせちゃって』
レオンに送ったのは黒い厚手の革手袋で、『大連合』製の頑丈な物だった。
「あっ、いえ。年に1度の祝いですから……。それに、そちらに行けないのでそのくらいは……」
『そっか。ありがとうレイラ。ちょうど痛んでて替えたかったんだ』
嬉しいよ、といって口の端を持ち上げるレオンに、レイラは内心舞い上がりながら、安堵のため息を吐き、
「お気に召していただいた様で、何よりです」
まさしく天にも昇る、という多幸感にどうしようもなく表情を緩ませ、レオンもそれを愛おしそうに目を細めて見ていた。
「ええっと、レオン……っ」
「ん?」
「あっ、その、あの――」
「れおーん。そろそろじゅんびおわるぞー」
今度こそ言うんだ、とレイラが決意を固めて言おうとしたとき、マリーが顔だけ部屋に入れてそう知らせたせいで、勢いが完全に止まってしまった。
「ああ、今行くよ。――ごめん、続きどうぞ」
「あっ、ではその……。お誕生日、おめでとうございます」
そのためレイラは、ごく普通の事を言って通信を終えてしまった。
「……。わるいことしたな」
扉を閉めてから、レオンの顔と空気感で状況を把握したマリーは、気まずそうな顔でポツリ、と小さくつぶやいた。




